第49話 青に贈る名
「は〜、やっと埋め終わった……」
大きく盛りあがった雪を見ながら、私は洞穴の壁に寄りかかって深く息を吐いた。
スノウウルフ達も手伝ってくれたけど、彼等は足で雪を飛ばすことしかできなかった。そのため、飛ばす雪を私が運ばないといけなかったのだ。
私の声を聞いたフィデスがスノウウルフの胴の上で小さく跳ねる。
『すまなかったな、シーラ殿。力仕事をさせてしまい……』
「力仕事というよりは体力が……。雪自体は重くなかったから……」
『ハーッハッハッ!我等も手伝えれば良かったのだが、
なにしろぬいぐるみなのでな!飛び跳ねて応援しかできなかったぞ!』
『この姿で何かしろっていう方が無理だろ。
頭から足まで一体化だからな』
私の側で待機していたラディウス達がボヤいた。
「もうそれに関しては何も言わないよ。無事に終わったし……あ!」
何気なく外を見て鋭い声を上げた私に、フィデス達が集まってくる。
いつの間にか外は真っ暗になっていたのだった。
相変わらずビュウビュウと強く吹雪いるけど、それ以外に音がしない。
それがなんとなく不気味に思った。
『どうなされた?シーラ殿』
「あ、いや、もう夜だなって……」
私の言葉にラディウス達も首を向けて、納得したように声を漏らす。
『まぁ、さっきスノウウルフ達呼びに行った時点で夕方だったからな』
『夜は危険だ。足元も見えなくなる。
ブルードラゴン殿、良ければシーラ殿をここで一晩過ごさせてもらえないだろうか』
『無論!断る理由等ないぞ!
ところで……その言い方だとフィデス達は泊まっていかないのか?』
「え、フィデス達帰っちゃうの?」
思わず呟くと、フィデスが小さく唸った。
フィデスの調子が悪いと心配しているのか、スノウウルフ達が順番に鼻でつついている。少なくとも、スノウウルフ達はブルードラゴンのことを怖がってないように思えた。
『もう自分達の役目は終わったからな……。
それにブルードラゴン殿が危険ではないとはわかったとはいえ、なんだか落ち着かなくてな……』
『我、恩知らずじゃないんだけど。本当に……』
ショックを受けたのかブルードラゴンの声が小さい。
フィデスは申し訳なさそうに体を縮こませた。
『それは十分理解している。ブルードラゴン殿が自分達に害を成さないのも。
しかし、自分達にとって脅威であることには変わりないのだ』
「でも一晩ぐらい泊まっちゃえば?
フィデス達にとっても夜は危ないんじゃないの?」
『自分達は慣れているから大丈夫だ』
思ったよりフィデスの意思が固い。
せっかく会えたのに、もう別れてしまうことが辛くて、
少しでも一緒に居る時間を増やしたい気持ちに駆られる。
そういえば、さっき役目が終わった、と言っていた。
なら、何か役目を与えれば残ってくれるんじゃないかと思いつく。
少し考えてちょうど良い案が出てきた。
「私から1つ提案なんだけど。
ブルードラゴンが居ない間、フィデス達がこの洞穴を守るのはどうかな?」
皆が私に顔を向ける。
しばらく静寂が場を包んだあと、ブルードラゴンが大きく飛び跳ねた。
『おおっ!良いな、それ!
誰かに我の本体掘り起こされて戻れない、とかなったら嫌だし!』
『モンスター共ならお前を恐れて洞穴にすら入らないだろうし、こんな山奥にわざわざ会いに来る人間――居たな。ここに』
少し呆れたような声でラディウスの全身が私の方を向く。
「何で私!?会いたいのは間違っていないけど!
そもそも今度来るとしたら、ブルードラゴンを戻しに来る時!」
『忘れ物した、とか言って戻るなよ』
「ちゃんと確認してから帰るから大丈夫!」
私とラディウスの言い争いが始まってしまったけど、
肝心のフィデス達の意見を聞けていない。
チラリと横目で見ると、スノウウルフ達はなんとなく困ったような顔でフィデスを取り囲んでいた。
その様子が気になってジッと見ているど、ラディウスも口を閉ざしていつも通り肩に登ってきた。
『オオカミ。仮に引き受けることになったとしてだ。
何か困ることでもあるのか?』
『いや……。むしろ雨風は凌げるし、食物も蓄えておける。
むしろ生活しやすくなる。
その……大変失礼なのは承知で言うのだが……ブルードラゴン殿が本体に戻った瞬間に何かされないかと……』
『だーかーらーっ!我、そんなことしないってば!
ワイルドベアでもあるまいし、恩を仇で返すような真似はせんぞ!』
ブルードラゴンが大きく飛び跳ねながら叫ぶ。
その高さは着地した時に雪が飛び散るほど。
何度も疑われて、少し怒っているみたいだ。
『……何度も尋ねて申し訳ない。
よし、ブルードラゴン殿の住処の守り、引き受けさせてもらおう!
シーラ殿の頼みでもあるしな』
『それ最初から言ってくれると嬉しかったー』
『すまない、ブルードラゴン殿……』
『まあ、種族間の違いというやつであろう!
では、よろしく頼むぞ!』
ブルードラゴンの声にフィデスが肯定するように飛び跳ねて、
スノウウルフ達は尻尾を振った。
「よかった」
フィデス達と一緒にいれる時間が少し伸びて嬉しくなった。
それから、スノウウルフ達に湿り気の少ない枝等をを集めてきてもらって、
持ってきていた火打ち石で火をつけた。
ラディウス達、ぬいぐるみより少し大きめの炎が上がり、洞窟内をオレンジ色に照らす。
私が少し離れたところに腰を落ち着けると、スノウウルフ達も周りに集まってくる。寒さに慣れているとはいえ、暖かいのは嬉しいのかもしれない。
『そういやお前、腹減ってねぇのか?』
「うーん、あんまり。スープにもお肉とか入ってたし」
自分でも不思議だと思っているけど、ここまでたくさん歩いて雪運びもしたのにお腹は減っていなかった。
もしかしたら辛いスープが空腹を補う効果でもあったのかもしれない。
『もし空腹になったら言ってほしい。仲間に何か取らせてこよう』
「ありがとう。そうなったらよろしくね」
私の言葉を最後に、場が静かになった。
なんとなく眠たくなってくるし、スノウウルフ達も小さく体を伸ばしている。
でも、まだ寝るには早いと思った。
どうにかして話題を探した私は、あることを思いついた。
「そうだっ!ブルードラゴンにも名前つけていいかな?」
完全に話し方が友達感覚になってしまっているけど、ブルードラゴンも気にしていないみたいだし、このまま話すことにする。
『え!?我にも名前つけてくれるの!?ラディウスみたいな!?』
「うん。だってずっとブルードラゴンだと呼びづらいし」
するとブルードラゴンは私の膝の上に登ってきた。
ラディウスの時も思ったけど、どうやったらこんなにスルスルと登れるんだろう。
『楽しみ!!ここで聞こう!!』
「わかったから、ちょっと待ってね……」
落ち着かずにソワソワと体を揺らしているブルードラゴン。
早く名前を考えないと、揺れた勢いで転げ落ちてしまいそうだ。
ドラゴン達はホワイト等の色呼び。
ラディウスの由来は光っているみたいだったから。
ブルードラゴンの場合は……ここは雪山で寒い。
雪、吹雪、凍えそう。
「……アルゲオってどうかな?凍えるみたいな意味だったと思うけど」
『アルゲオ、アルゲオか!!意味など関係ない!
ハーッハッハッハッ!!我はアルゲオであるぞ!!』
そう叫ぶとブルードラゴン――アルゲオはスノウウルフ達に突進していった。
スノウウルフ達は驚いて避けていたけど、怒ってアルゲオに突進し返す、なんてことは誰もしなかった。
「とても嬉しいんだね……」
『そりゃそうだろ。俺達ドラゴンは基本ドラゴン、龍神様、邪竜、みたいにしか呼ばれねぇんだから。名前なんてねぇんだよ』
「そっか……。
じゃあラディウスも名前貰って嬉しい?」
『……まぁ……感謝はしている……』
ラディウス早口で言うと、騒ぎを気にせずにのんびりと丸くなっているスノウウルフの胴体に潜り込んだ。
どうやらそこで寝るみたいだ。
「私も寝ようかな……」
アルゲオに名前をつけるという仕事が終わってしまったからなのか、
急激に眠くなってきた。
火を消して横になると、3匹のホワイトウルフが周りに丸くなる。
その中にはフィデスを乗せている個体もいる。
「一緒に寝てくれるの?」
『ああ。この方が暖かいだろう』
「ありがとう。おやすみなさい」
スノウウルフ達の毛の温かさもあって、まだアルゲオが騒いでいるにも関わらず私は深い眠りに落ちていった。




