47話 ブルードラゴンとの会談
洞穴は思ったよりも明るかった。
というのも、奥の方が吹き抜けになっていて光が差し込んでいるし、その周辺だけ雪が高く積もっている。私なんて簡単に埋まってしまう高さだ。
「ブルードラゴン、ここにいるんだよね?」
『呼んでみようぜ。
おい、青!来たぞ!』
ラディウスが私の肩で叫んだ瞬間、吹き抜けの方から力強い羽音が聞こえてくる。
すぐに視界いっぱいにブルードラゴンの青い巨体が広がった。
『ハーハッハッ!よく来たなシーラとやら!……と、白はどこだ?』
『ここだよ!コイツの肩!』
ラディウスが私の肩でポンポン飛び跳ねながら叫ぶ。
『何その姿!?』
『ぬいぐるみだよ!見てわかんねぇのか!』
「そうかそうか!それがぬいぐるみか!ハハハハハ――え?」
ブルードラゴンはいつかの時と全く同じ発言をして固まった。
その間にラディウスは器用に移動して私の手のひらに乗る。
『ちっちゃっ!!そして本体は!?』
『ヴァイスアでスライム達に固められた。防腐剤なんだとよ……』
『……ちょっと待って……腹痛い……。
スライムって……プフッ……!』
『笑うな!そもそもお前が来いって言ったんだろうが!』
ラディウスの怒声をものともせずに、ブルードラゴンは背中を向けて全身をブルブルと震わせている。
笑いのツボにハマってしまったらしい。
5分ぐらいブルードラゴンは笑い続けた。
私達は何度か声をかけたけど全く反応してくれなかったので、笑い声だけが響いていた。
「それで……始祖竜についてまだ話すことがあるんですよね?」
ようやく落ち着いたブルードラゴンに尋ねると、彼は大きく頷いた。
『ああ。そもそも白よ、お前は今回の件をどう思う?』
『……ラディウスだ』
『む?』
『ラディウスって呼んでくれ。白じゃねぇ』
ラディウスの静かな声にブルードラゴンは口を閉ざした。
「ラディウス……」
思わず呟く。
まさかラディウスが自分から名前を呼ぶように言うなんて、考えもしなかった。
気に入ってくれているようでとても嬉しくなる。
ブルードラゴンは数回瞬きをしたあと、ラディウスにグッと顔を近づける。
『え、それ名前だったの!?てっきり道具か何かかと……』
『なワケあるか!!何をどう考えたら道具の名前だと思うんだよ!?』
『いや、シーラとやらがずっと言ってるから……』
「私ですか!?
あと、シーラだけでいいです!「とやら」はいりません!」
いきなり話を振られて、つい声が大きくなってしまう。
私とラディウスの少し怒りを含んだ声を聞いて、ブルードラゴンはしょんぼりと肩を落とした。
『わかったぞ。シーラとラディウス。……合ってる?』
「合ってる合ってる」
私とラディウスは同じ波長で頷いた。
『ところでラディウスよ、さっきの我の問いに答えてくれるか?』
『あぁ……そうだったな。
今回の件については……俺は無茶ぶりだと思ってる』
『だよね!?全員が竜本体の姿で来ちゃいけないって無茶ぶりだよね!?』
『お前、やっぱうるせぇ……』
『仕方あるまい!これが我である!』
偉そうにふんぞり返ったブルードラゴンを見て、私とラディウスはため息をついた。
「それにしても、竜本体で来ちゃ行けないってどういうこと?」
『俺が翼がないからだとよ……』
どこか悲しそうに言うラディウスの言葉を聞いて、顔から血の気が引いてくる。
始祖竜の数百年に一度の眠り。
それをラディウス達「色竜」が見届けないといけなくて、始祖竜はその間力を人間に託すらしい。
以前、ラディウス達は私のことをまだ候補段階って言ってくれたけど、
どう考えても私のことを指していないだろうか。
「あの……これ、私のことじゃないんですか?
実際ラディウスはぬいぐるみになって本体じゃないんだから」
『ハーハッハッハ!!シーラよ、それでもまだ候補段階である!
これから先、別のやつに会う可能性だって残されているぞ!』
「会うんでしょうか……?」
『なんとも言えねぇよ。
ただ、お前はまだ候補段階だから、そう不安がるな』
ラディウスは励ますように言って大きな息を1つ吐くと、
ブルードラゴンに向き直った。
『つーか、お前!何で来れなかったんだよ!全っ然動けるじゃねぇか!』
『雪浴してたから無理だったのだ!ハーハッハッハ!!』
『お前の都合かよ!?』
『何を言う!雪浴は我にとっては至高の時間なのだぞ!
それを1回中断して訪ねたのだ!少しは感謝してほしい!』
『知るか!』
2人の会話を聞きながら呆れることしかできなかった。
ブルードラゴンの「どうしても外せない用事」がまさか雪浴だったなんて。
それにしてもさっきから感情の変化が激しいと思う。
「始祖竜の話に戻りますけど……「色竜」全員ってことは、あなたも来るんですよね?」
『その通りである!シーラよ!
……ところで我どうしたらいいの?ラディウスみたいになるのだろう?』
ブルードラゴンは珍しく声を小さくして尋ねてきた。
「あ、やっぱりぬいぐるみがいるね……。今から急いで作ろう!」
革袋から裁縫セットと青い布を取り出す。
フィデスの時といい、2回も役に立つ日が来るなんて思っても見なかった。
30分くらい経っただろうか。
目や翼のない簡易的な青いドラゴンのぬいぐるみが完成した。
「よし、できた〜っ!」
『相変わらず早ぇな、お前』
「ふふふ、一時期ずっと作ってたからね!」
するとブルードラゴンが私の手のひらにある、できたてのぬいぐるみに鼻先を近づける。
鼻息でぬいぐるみが飛ばされないか心配だったけど、そんなことはなかった。
『おお、それが我の入るぬいぐるみか!
うん!小さい!間違って踏みつぶしちゃいそう!』
「それ止めて。頑張って作ったんだから」
『冗談です……』
せっかく作ったぬいぐるみを踏み潰されてはたまらない。
少し口調を強くして言うと、ブルードラゴンは申し訳なさそうに体を縮こませた。




