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そんな二人が初めて顔を合わせたのは、リューディアの十歳の誕生日パーティである。忙しい中、国王夫妻が二人の息子を連れて、コンラット公爵家を訪れていた。
「リューディア嬢、こちらがモーゼフだ。モーゼフ、挨拶を」
リューディアが初めて見た婚約者は、長い前髪で片方の瞳を隠していた。
「リューディア・コンラットと申します」
覚えたての挨拶でリューディアは挨拶をしたのだが、モーゼフはじっと彼女を見つめたまま、何も言わない。
「ほら、モーゼフ。挨拶をなさい」
優しく促すのは母親である王妃。
「もう、あまりにもリューディアが可愛らしくて、挨拶もできないのかしら?」
と上品に笑っている。
そんな言葉にも動揺せずに、じっとリューディアを見つめていたモーゼフだったが、やっと口元を動かし始めた。彼が言葉を発することをいまかいまかと皆が待ち構えていたため、周囲はシンと静まり返っていた。
「ブス……」
顔を真っ赤に染め上げなら、モーゼフから出てきた言葉がこれ。
一瞬、リューディアは何かの聞き間違いかと思った。それも、すぐさまモーゼフが自己紹介の挨拶をしたからだ。何事もなかったかのように。
だから周囲の大人たちも、先ほどの言葉は彼が緊張したあまり、つい喉の奥から漏れてしまった唸り声だと思ったようだ。
だがそれが聞き間違いではなかったと確信したのは、リューディアがモーゼフに会うために王城を訪れたときだった。二人でお散歩してきたら、という王妃の言葉に従い、リューディアはモーゼフと共に庭園を散歩していた。恐らく周辺に護衛と呼ばれる者たちはいたのだろうが、幼い二人はその気配に気づかない。庭園の少し奥まったところにある噴水の前まで来たとき、突然モーゼフが立ち止まりリューディアと向き合った。
「どうかされましたか?」
リューディアが尋ねると、モーゼフは顔中を真っ赤にしながらじっとリューディアを見つめてくる。何か言いたそうに口を開くのだが、言葉はなかなか出てこない。
何かしら、と思ってリューディアが小首を傾げると、わなわなとモーゼフが震え出す。
「リューディア嬢。君は、ブスなのだから、それ以上、私に近づかないでくれるか?」
「え?」
一瞬、リューディアは何を言われているのか理解ができなかった。ただ、ブスという言葉が目の前のモーゼフの口から飛び出てきたことだけはわかる。
「君が側にいると、私はおかしくなる。胸が苦しくて、言いたいことも言えなくなる。君を一目見た時から、こんな状態だ」
モーゼフは今も苦しそうに息をしている。
「なぜこうなるかわからなくて、ずっと考えていた。だが、すぐにわかったよ。それは君がブスだからだ」
ブス、すなわち不細工。見目が整っていない、不格好な様。
「その顔を、私の前に見せるのをやめてくれないか? これ以上、君の顔を見ていたら、私はおかしくなる……」
「ごめんなさい……」
ほろりとリューディアの目から、涙が溢れてきた。まさか自分の顔がモーゼフを苦しませている原因になっているとは思わなかったから。
「だから女は嫌いなんだ。泣けばいいと思っている。私は先に戻る。君は、その顔をなんとかしてから戻ってこい」
「はい……」
去り行くモーゼフの後姿を見送ったリューディアは、ドレスが汚れてしまうのも関わらずにその場にうずくまった。




