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――ブス。
モーゼフから言われた一言が頭から離れない。だから、涙が止まることなく溢れてくる。
彼は婚約者だ。婚約者ということは、大人になったら結婚をする相手ということで、自分の両親のようにずっと一緒に暮らすことになるのだろう、と思っていた。
だが、モーゼフはリューディアをブスと言い、彼女の顔を見たくないとまで言った。そのように顔を見たくないような相手と結婚をするというのは、どうなのだろう。一緒に仲良く暮らすことができるのだろうか。
じっとうずくまっていたからか、リューディアは足が痺れてきた。だけど、怖くて立ち上がることができない。このままこの庭園に咲く花と一緒に、ここで風に揺れていたかった。
「リューディア」
幼い声が聞こえて、リューディアは顔をあげた。
「エメレンス、さま……」
「ああ、よかった」
と言う彼の息は弾んでいる。恐らく、走ってここまで来てくれたのだろう。
「兄上が一人でもどってきて。だけど、リューディアの姿が見えなくて。それで心配になって」
だから、走って探し回ってくれたのだろうか。
「立てる?」
エメレンスが手を差しだしてきたので、リューディアはそれに自分の手を重ねた。ぐっと彼女の小さな手を握りしめたエメレンスは、力強く彼女の腕を引っ張る。
「あ、あぁっ」
足が痺れていたからだろう。エメレンスに手伝ってもらって立ち上がろうとしたのに、リューディアはバランスを崩して前のめりになって倒れてしまう。そして目の前にエメレンスがいたのであれば、彼に覆いかぶさってしまう状態になって。彼もドシンと尻もちをついた。そして彼女の小さな身体をなんとか抱きかかえているエメレンス。
「ごめんなさい、エメレンスさま……」
「リューディア。君に怪我なければ、それでいいよ」
「ですが、エメレンスさまが」
「ボクは大丈夫だよ。毎日、鍛えているからね」
嘘か本当かわからないようなことを口にするのは、リューディアに心配をかけたくないからだろう。
「立てるかい?」
エメレンスはゆっくりとリューディアの身体を支えながら、彼女を立たせた。
「素敵なドレスだったのに、汚れてしまったね」
「いえ、大丈夫です。きっと、わたくしにはこのように汚れた格好の方が似合っているのです」
「やはり、兄上と何かあったのかい?」
「いえ、何も……」
「そんな顔をして、何もなかったとは言わせない。何があったの? リューディアがきちんと話をしてくれるまで、ボクはリューディアのことを放さないよ」
いつの間にかエメレンスはリューディアの右腕をがっしりと掴んでいた。
「エメレンスさま……」
「ねえ、リューディア。君とボクは同い年なんだ。だから、ボクのことはレンって呼んでってお願いしたつもりだったんだけど……」
「え、と……、レン、さま……」
「よくできました。で、兄上と何があったの?」
「それは……」
「ボクには言えないようなこと?」
こくん、とリューディアは頷く。
「言えないようなことを兄上にされたの? そんなに酷いことをされたの?」
違う、という意味を込めて、リューディアは首を横に振る。
「だったら、言えるよね」
こくっと、リューディアは頷くことしかできなかった。
「モーゼフさまは、わたくしのお顔が嫌いなようです」




