【王女】vs【副団長】
わざわざお前が行く必要があるのか?と団長には言われたものの、フェリアスは部下である二人の若い男兵士のエルフを連れて、人間のいるという場所へとやってきた。気配をなるべく消して、辺りをしばらく見回していくと目的の人間を見つけることができた。
細身ですらりとした体を持つ人間……貴族か何かなのか生意気にも黒いドレスを身に纏った女性だ。腰に手を当て何かを考えるように佇む彼女に、フェリアスは部下達と顔を見合わせると彼女に気が付かれないように背後から忍び寄った。
完全に不意を突いたつもりだった。
「フフン……私の後ろに立つとは、良い度胸をしている」
***
「っ!!」
気配を悟られないようにしていたつもりだったのだが、そんな自分を小馬鹿にするかのようにゆっくりと彼女―――レイミールは振り返った。木陰に隠れていたフェリアスはゆっくりと彼女の前に姿を現す。ちなみに部下二人は未だに隠れている。少しでも油断させて不意を打つ計画だ。
「……一体私に何の用だ?」
レイミールはフェリアスへと口を開いた。フェリアスがこちらに敵意を持っていることはレイミールにも分かってはいる…………のだが、理由が分からない。
何が気に入らないのか知らないが、間違いなく自分を唯で返す気はないようだ。よくよく見てみると、耳が人間のそれではない。
尖った耳を持つ人型の生き物にレイミールは心当たりがある。レイミールがティア達から聞いてイメージしていたこの世界のエルフ像とは似ても似つかないが恐らくエルフ族で間違っていないはずだ。
無言でこちらを睨み続ける女エルフ、フェリアスにレイミールがどうしたものかと考えを巡らせていると突然フェリアスはこちらに殺気を含んだ声を上げた。
「貴様には関係ないことだ!!」
彼女の言葉を合図と見たのかレイミールの背後から一人のエルフが剣を振りかぶって襲いかかる。本来ならば気絶させれば良いのだが、レイミールの雰囲気に何やら危険を感じたのかフェリアスの部下はこの場で殺してしまうのではないかという勢いで襲いかかっている。傷物にすることは許されていないのだが……
部下の行動にフェリアスは小さくため息を吐く。……まぁ殺さない程度に痛めつけるくらいなら構わないだろう。
フェリアスがほどほどにしておけと部下に告げようとした時、彼女にとっては信じられない光景が映る。襲いかかっていた部下の左胸を部下の剣自身が貫いている。部下は悲鳴を上げることもできず力無くその場に倒れ込んだ。即死だ。
「なっ!? 馬鹿な……エルフの里の兵士が……こうも簡単にやられるはずは……」
何が起こっているのか、一瞬フェリアスには理解できなかった。自分の部下が……里の仲間が、こうもあっけなくやられるはずがない。これは何かの間違いではないのか?
「…………随分と粗末な兵士だな」
レイミールは倒れたエルフの兵士の体からゆっくり剣を引き抜く。剣を引き抜いた後はまるで邪魔だと言わんばかりにモノ言わぬ死体となった兵士を足で転がす。
今まで共に訓練に励んできた部下を足蹴りにされる行為…………それを見たフェリアスは自分の中で何かがはじける音を聞いた。
コ イ ツ は 何 を や っ て る ん だ ?
「ふ、ふざけるなああ!!」
「…………来い」
腰に付けた剣を素早く抜いて、斬りかかるフェリアスをレイミールは軽くいなした。鉄同士がはじける音が辺りに響く。レイミールの持つ剣とフェリアスの持つ剣が互いに相手を弾き飛ばし、二人の距離は離れた。
「…………いきなり斬りかかってきた兵士から私は自らの身を守っただけなのだが……」
激昂する目の前のエルフに自分の言い分を話してみる。しかし相手は完全に聞く気はないらしく、無言のまま、先ほどよりも数段素早い動きでこちらへと襲いかかってきた。
「っ!!」
フェリアスの攻撃を、レイミールは剣で正面から防ぐ。
先ほどよりも重たい一撃に、それを受け止めたレイミールの表情は自然と曇った。相手の方が明らかに剣の腕は上だ。このままではまずい。
「らぁっ!!」
フェリアスは攻撃を防ぐレイミールの剣を叩き斬るのではないかという勢いで自分の剣を振りぬいた。たまらずレイミールの体はバランスを崩し後ろに生えていた一本の木に体を強く打ちつけてしまう。
「……くっ……ぅ……」
強烈な痛みがレイミールの体に走る、小さく顔を顰めるレイミールに、それを好機ととらえたフェリアスは剣を振り上げて襲いかかる。紙一重でそれをかわしたレイミールは弱々しい動きでフェリアスに突きを繰り出すが簡単に避けられてしまった。
「…………流石と言ったところか?」
「黙れ!!」
不利な状況にも関わらず、うすら笑いを浮かべながら相手を挑発するレイミールをフェリアスは火が付くような目で睨みつける。怒りたいのはレイミールも同じなのだが……まぁ、それはひとまず置いておこう。
「…………一体どうして私を襲ったのか……言ってみるが良い」
「ひ、人族の分際でっ!!」
フェリアスとレイミールの剣が正面からぶつかり合い、キィンと耳障りな音が響く。
「人間に……何か気に入らないことでもあるのか?」
「っ!! 忘れたとは言わせん……貴様ら野蛮な人族の残酷な行いに我々は復讐を誓ったのだっ!!」
キィン、キィン、と剣同士が相手を弾く音が鳴り続ける。片方が相手を斬り付けようとすればもう片方はそれを的確に防ぐ。しばらくの間、それが相互に繰り返されていた。
「……野蛮、か。 故郷でも焼かれたか、それとも親でも殺されたか……」
剣で競り合っている中、不意にそう呟いたレイミールは漆黒の瞳を細めた。親という言葉を聞いて少なからず動揺したフェリアスの一瞬の隙をレイミールは見逃さない。押し弱まったフェリアスの剣を、流れるような動きで彼女の手から弾き飛ばすとそのまま剣先を首筋に突き付ける。
「…………詳しく訳を話してもらおうか」
その言葉にフェリアスは反応を示さない。ただ、睨みつけてくるだけ。いい加減にしてくれないかと口を開きかけたレイミールは、かすかにだがフェリアスが薄い笑みを浮かべていることに気が付く。
レイミールがその意味に気が付いた時…………それはエルフの兵士が背後から彼女に剣を突き立てるのとほぼ同時であった。
主役は死なない。そういうモンだヨ




