出番なしの王女
特に分けるわけじゃないんですけど、この辺から第二シリーズ的な……感じ?
自分でも良く分かんないですけど。
「やめて!! お願いっ……どうか娘だけはっ!!」
「はっ、こいつ馬鹿じゃねえか? おいっ、殺せ!!」
小さな少女の目の前で、彼女が一番大好きだった人物が斬り付けられて息絶えた。呆然と倒れる母を見つめていた少女は、壊れた人形のように甲高い悲鳴を上げる。
「おかあさん!! おかあさん!! 起きて!!起きてよぉ!!」
「うるせえ餓鬼だなあ……おいこいつどうする? 殺していいか?」
わんわんと泣きわめく少女をゴミでも見るかのように男集団の中の一人は呟いた。戸惑うことも無く男は手に持った斧を振り上げると、少女に向かってそれを振り下ろすが、それが彼女に届く前に斧を振り下ろした男と少女の間に別の男が割り込んできた。
「なんだてめえは!? まだ生き残ってやがったか、糞エルフ!!」
斧を持った男は、目の前に割り込んできた男を鬼の形相でにらみつける。しかし睨みつけられた当の本人は、自分の背後の少女に優しく笑いかけながら静かに口を開いた。
「森の奥へ逃げるんだよ。いいかい。きっと森が私達を救って下さる」
「お、おとーさん……」
ボロボロと涙をこぼしながらも、少女は必死で頷いた。それを確認した男はにっこりと笑うと目の前の男に剣をふるいながら、まだ背後で座り込んでいた少女を力強い声で促した。
「さあ!! はやく!!」
その言葉で、少女ははじかれたようにその場を走りだす。少女は深い森の奥へと消えていった。
***
「フェリアス様!! 人共の管理は我々にお任せを」
気を失って地面に転がる人間達を見て自分の過去を思い出していたフェリアスと呼ばれた女エルフはやってきたエルフの兵士達にゆっくりと口を開いた。
「そう……悪いわね」
フェリアスはエルフの里を守る兵士団の副隊長を務める実力者だ。もう幼い時の力無い少女とは訳が違う。フェリアスはもう一度、親の仇である人間達を睨みつけるとその場を後にした。今すぐにでもあの人間達を殺してやりたいが、明日あの人間達はエルフの里の皆の目の前で磔にして焼き殺すと決定している。今まで散々人間達には悩まされてきたのだ……苦しめるだけ苦しめてから殺してやる。
「…………父さん、母さん……」
しばらくして、人気の無い里のはずれへとやってきたフェリアスは両親の最後の姿を思い出していた。ずっと前に忘れると誓ったはずなのに、未だに忘れることができないでいる二人。……いつも優しい笑顔を浮かべていた二人を奪った人間の事を見ると心の底から憎悪の感情があふれだしてくる。この感情を頼りに今まで何人もの人間を殺してきた。今彼女が副団長と言う地位を手に入れられたのも多くの人間を殺しエルフの里を守ってきたからなのだ。
……しかし、どれだけ憎いと思っていても、なぜか殺した後には大きな罪悪感が彼女を襲う。そしてそれはなかなか消えることが無い。どんなに人間を殺しても全く達成感を得られないどころか、自分まで父や母を殺した人間達と同じことをしているようでひどく気分が悪くなる。
「……まだまだ、私も甘いと言うわけか」
彼女は自嘲的な笑みを浮かべると、明日の準備に取り掛かるために皆がいるところへと戻るため、足を町の中心地へと向けた。……せめて一瞬でも仇打ちができたと言う達成感を今度こそ得られれば……そんな願いを込めながら一歩一歩彼女は歩いた。
「大公様、宴会の準備は着々と進んでおりますぞ」
「ふぉふぉ……そうか、御苦労じゃのう、兵士団団長殿」
先程の舞踏会で慌てる皆を落ち着かせた老エルフへと鎧を身に纏った体格の良いエルフの男性が口を開いた。老エルフは明日の準備の様子を見てほくそ笑みながら答える。この二人、老エルフはこの里を治める大公、体格の良い男エルフの方は兵士をまとめ上げる兵士団の団長、いわばこの里のトップ二人だ。
エルフの里は非常に小規模なものである。人間達の国で言う所の町程しかない。そんな環境に置いては個々の結びつきというものが非常に重要になってくる。この里に住むエルフ達全員が強固な関係を結び、人間の脅威に立ち向かわねばならない。より強固で強力な里づくりを目指していた二人にとって、捉えた人間達を使ってエルフの里の民を鼓舞することができるのは何とも嬉しい事だ。
と、そんな二人の元へ一人の女性が近づいてきた。彼女がやってきたことに気が付いた団長は上機嫌に声をかける。
「フェリアスか……一体今までどこに行っていたんだ? 明日は祭りなのだぞ。お前も準備の指揮をとれ」
「……はい」
なぜか、あまり顔色の優れないフェリアスに団長は首を傾げた。気分でも悪いのか? と聞きかけた団長だったが、突如あわてた様子の兵士が彼の元へやってきたことによってそれはさえぎられることになった。
「団長!! 里にまた一人人間がやってきています……捕えましょうか?」
その場にいた大公と団長は目を合わせるとどちらからともなく口元に小さな笑みを浮かべた。団長は兵士に向き直ると団長らしい毅然とした態度で命じる。
「今すぐここへ、連れてこい」
それを聞いた兵士は小さく頭を下げると、すぐに命令を実行するためその場を後にしようと背を向ける。しかしそんな兵士の背に声が掛った。
「待て!!」
副団長であるフェリアスの言葉に困惑した表情を浮かべながらその場にとどまる兵士。
団長はフェリアスへ、なぜ止めたのかという視線を彼女へと送る。はやくしないと人間が逃げてしまうのに。
「団長……どうか私にその役目頂けないでしょうか?」
今までは、『~な王女』だったのにタイトルが『出番なしの王女』……
『~の王女』になっちまった……