捜査……できない!
vitaだとパソコン投稿になるんですね
「捜査の鉄則はまず現場から、てな」
エクウスは腕を組みながら言った。
「この公園のどこかに、必ずターゲットへの道が隠されている。手分けして探すぞお前ら!」
「そういうことはここに着いたときにいってほしかったです」
呆れた空。彼女の反応も当然だろう。
なにしろ一行は、無断で捜査現場を荒らしただけで、警察からたった今つまみ出されたのだから。
「まあ、こうなるのは当たり前よ。警察官が亡くなったんでしょ? 捜査にもなるわよ」
マイは、「エンシェントが手がかりなんて残せないし」とも付け加える。
一晩明けた例の公園は、いまや全体が黄色いテープに包まれている。
それが立ち入り禁止ということは一般常識のはずだが、どうやらエクウス・クダリオという男にとっては意味を成さなかったらしい。「禁止区域なんざ、入るためのもんだろ」と三人の制止も聞かず、中の警官に追い出されるまで、堂々と場を踏みならしていた。
「へっ。だが、この件は俺たちで解決しねえといけねえんだろ? 入れねえでどうすんだ? お姫さまよお」
「あたしは、泰吾が会った人に会いたいと思うわ」
マイの即答。
「その人、前に学校の時にいた人でしょ? 他よりはあたしたちを信頼してくれるんじゃないかしら?」
「なら探すぞ。どんなやつだ?」
「それは……あれ?」
泰吾が二度居合わせた警察官を思い出そうとしたとき、彼女の姿にもやがかかる。
「あれ? どんな特徴だったか? エスカ?」
「あたしは知らないわよ? 何週間も前で急いでるとき、しかもヘルメットごしよ。声も怪しいわ」
「ええ……空は?」
「私はあのとき、ずっと結界内でしたし、外に出た後も警官がいるって印象以上はありませんね」
「手がかりなしかよ。使えねえな」
「一切関わってないあんたが言う?」
「こうなるとここにいても仕方がない」
泰吾は、現場以外を探すことを提案した。だが、トレジャーハンターは首を振る。
「いいか? お宝を探すときに一番大事なのは観察だ。どこにお宝があるのか分からねえ以上、他所を探すのもいい手だが、一番の手がかりの山を行かねえでどうする?」
「だからってまた公園に入ろうとしないで下さい!」
エクウスを羽交いじめにしながら、空は、
「あ、後で来ましょう! 警察がいなくなったあとで! まず他の手がかりを当たって、それからここに……」
「その手がかりの範囲を狭めるための現場だろうが! それを無視するなんぞ愚の骨頂
! だいたい、モタモタしてたらサツが手がかり全部持って行っちまうじゃねえか! んなもん、取りこぼししか……」
「でも、この国で警察に逆らうのはあんまりいい手段ではないんです! 手がかりどころか、こっちが向こうの捜査の手がかりにされちゃうんですよ!」
「んなもん恐れてて手がかりが探せるか!? お宝の手がかりはな、どんだけ命がけでもやる価値があるんだよ! そうしてこそ、価値がある!」
「そんなこと言うから美月さんに貶されるんじゃないですか!」
「ああ!? てめえいなかったろ!? 何でそんなこと知ってるんだ!?」
「今はSNSという便利な……て、そういう話じゃなくて手がかりです!」
「だから現場に殴り込めばいいだろ! 手がかりなんざ、そうすりゃいくらでも見つかる!」
「だから混んでるから先に手がかりの手がかりを求めて外の手がかりを……手がかりってなんだ?」
「哲学的ね」
泰吾は手がかりというワードへゲシュタルト崩壊を起こし、少しふらつく。
「ったく。なら、逸夏。てめえが会ったつうその女デカだ。そいつはどこにいる?」
「ここからだと分からないな……当事者だし、現場にいるとは思うけど……」
泰吾は手で目を覆いながら忙しなく調査する警官たちに注意を払う。しかし、遠目にもなると、曖昧な女性警察官の発見に至ることはできない。
「出直す方がいいわね」
マイの提案はもっともに聞こえる。
エクウス以外は。
「なんでわざわざ現場を離れなきゃなんねえんだよ」
「悪いが今日だけ現場と手がかりっていう言葉を使わないでくれないか?」
公園の近く、住宅を挟んだところには工場団地があった。
もっとも、工場たちが稼働していたのは十年ほど前の話で、今は貰い手がない廃工場となっている。
よく源八と補導覚悟で不要部品を取りに来たりしたので、泰吾にとっては見知った場所だ。ここにエクウスを連れて来たのは、ここでなければ彼のマシンガントークを発射できないからだ。
「ぷはっ! てめえら、何しやがる!?」
ここにくるまでエクウスの口をふさいできたので、人の目が怖かった。
ちなみにマイは、何かあったときのために公園で見張りとして残っている。エクウスの言葉は人々には少し不審すぎるのがそもそものきっかけだ。
「お前、声が大きいんだよ。お前の素性が警察に掴まれでもしたら、厄介なことになるのは分かり切ってるだろ?」
「知るか。んなもん真っ正面から叩き切りゃいいんだ」
「お前みたいなまっすぐ突き進むのも悪くないが、俺たちはエンシェント以前に学生なんだ。あまり私生活に影響するのはエンシェント秘密保持にもよくない」
「へっ、めんどくせえな。社会生活してるのは」
「今はエクウスさんも社会生活しているようなものですよね?」
「あのクソアマにひと泡ふかせるまでだ。そしたらこんなとこさっさとオサラバだ」
「世話になってるのにひどい言い方だな。……ところで空、公園にいるのがエスカ一人だが、大丈夫か? 猿飛や美月さんを呼んだ方がいいんじゃ?」
「ああ、それなら心配ないですよ。マイ先輩は私たちのなかでもトップクラスで感知能力が優れているんです。エンシェントやゴーレム関連なら、多少遠くても感知できますから、もし向こうで警察が何かを見つけたら、マイ先輩だって気づけますよ」
「そうなのか」
彼女にそんな特技があったことは知らなかった。思い返せば、鬼ゴーレムのときも、マイがいきなり異変に気付いたからこそあの場に駆けつけられた。
「なら、俺たちはもう不要か? せっかく腕が鳴ってたのによ」
不満そうなエクウスが腕をぐるぐる回す。空が苦笑しながら「マイ先輩から連絡くるかもしれませんから」と慰める。
ついでに泰吾は、何か拾い物でもして帰ろうかと周囲を見渡す。
この場所の機材は、もう何年も放置されており、所有権を主張するようなものはない。二人から少し離れて、大型機械があった場所へ着く。大きな正方形の影になだれこむように小さな部品たちが雪崩れている。一つをとってみると、ボルトのようだが、それは少し歪んでおり、何に使えるのか見当もつかない。
(羽月ちゃんを連れてこればよかったな)
彼女がいれば、どうなるだろう。さっきのネジのようなパーツを手に取ったら、これはあれに使える、あれはそれに使えるなどと熱弁するにしかたない。
「そういえば、爺さんと羽月ちゃんて、趣味が似ているよな」
そんなことを思いながら、泰吾はその横の機材を見て、
そのガラス張りの奥に人影を認めた。
「うわっ!」
思わぬ光景に、泰吾の体が後ろの機械に衝突。虚空の中に大きな反響音が鳴る。
「泰吾先輩?」
「なんだ? どうした?」
騒ぎを聞きつけて空とエクウスがやってきた。泰吾は震えながら人影を指差すと、恐れ知らずなエクウスがガラスを引き剥がす。
「ひっ!」
空のか細い悲鳴とともに、そこには泰吾と同じくらいの年齢の少年が息を引き取っていた。胸を機械の棒で貫かれている。
「これ……不良が事故に巻き込まれた、か?」
「いや、事故でこんな棺桶みてえな機械に入ったりしねえだろ」
エクウスは首を振りながら棺桶の蓋をほうり捨てる。
「この服の争ったあとみてえな形跡。それに肌の色もまだ赤いし体温もある。こいつはまだ死んでそんなにたってねえぜ」
「え?」
まだ間もない死体。それがあるということは、
「あ……なんの騒ぎだ?」
泰吾の身の毛がよだつ。まだ最後に耳にしてから二十四時間もたっていないこの声。
空もただならぬことだというのは理解している。エクウスでさえ、余裕のない表情で辺りを警戒している。
「おぉぉ……お前らか……遊ぼうぜ……」
さっきの有象無象のパーツたち。
そのなかから這い出てきた、その人物。
「独皮、極哉……!」
さっきまで探していた、蛇の入れ墨のエンシェントがそこにいた。
前回もそうでしたけど、ヒロインが空になっていく...ていうか既に明日香が空気になっていく...
(空だけに)寒




