明かされる過去
リュカの訓練の日々が始まった。
その裏で、一人動き出すダリウス。
彼はヴァルゼンから灰狼族と獣神化の情報を得るべく、彼の武具店へと訪れていた───。
窓から差し込む柔らかな朝日が部屋の中をゆっくりと照らしていた。
薄いカーテンが涼しい風に揺れ、街の喧騒と共に秋らしい透き通った朝の空気を部屋に満たしている。
「……ん。」
ベッドの中で小さく身じろぎをする。
ゆっくりと目を開けると、まだ少し見慣れない天井が視界に入った。
ここで暮らし始めてから、毎日見ている景色。
リュカは布団を押しのけ、上半身を起こした。
「………もう朝……。」
まだ少し眠気が残っている。
頭の上にある狼耳をぴくりと動かし、窓の外へ視線を向ける。
今日もまた、いい天気みたいだ。
軽く伸びをしてからベッドを降り、身支度を整える。
髪を手櫛で整え、ベッドの脇に畳まれてあったいつもの服に袖を通す。
最後に尻尾を軽く払って、部屋を出た。
「おはよう、リュカちゃん。」
リビングに向かうと、ちょうど朝食の準備をしていたリリが振り返った。
「……おはよう。」
「ふふっ。よく眠れた?」
「……寝た。」
「よかった。もう朝ご飯できるから、座って待っててね。」
リリはそう言って、またキッチンへと目を向けなおす。
食卓には焼きたてのパンと、温かなスープ。
その横には、彩りよく盛り付けられた野菜と卵料理が並べられている。
「……いい匂い。」
「今日、ちょっと早起きしたの。今日もまた訓練だし、いっぱい食べなきゃなって。」
「……うん。」
「ちゃんと食べて、今日も頑張ろうね。」
リリは微笑みながら、リュカの前にに皿を置いた。
「さあ、冷めないうちに食べましょう。」
「……いただきます。」
温かなスープを口に運ぶ。
身体の内側からじんわりと温まっていくような感覚がした。
「……今日は何するのかな。」
「そうねぇ。体力作りと弓と……実践訓練かしら。」
「……また走るの。」
「あまり楽しみじゃなさそうね。」
ぺたん、と耳を畳むリュカを見てリリは楽しそうに笑った。
「リュカちゃん、走るのは嫌い?」
「……嫌いじゃないけど……。」
「けど?」
「……疲れる。」
「ふふっ。じゃあ疲れないようにいっぱい走らなきゃね。」
リリは口元を押さえて笑う。
リリの言葉に、リュカは静かに頷きパンをちぎった。
「……やることいっぱい。」
「それだけ成長出来るってことよ。」
「……うん。」
「あ、弓は少し難しい課題を用意しているから、楽しみにしてて。」
「……難しい課題?」
「ええ。基礎練習の後にね。」
リリはにっこりと微笑んだ。
その笑顔を見て、リュカはなんとなく嫌な予感がした。
「……お手柔らかに。」
「さて、どうかしらね?」
意地悪な笑みを浮かべるリリ。
どうやら、今日も簡単には終わらなさそうだ。
朝食を終え、食器を片付ける。
顔を洗ったり歯を磨いたりした後、弓や装備の確認を済ませ玄関へ向かった。
「忘れ物はない?」
「……大丈夫。」
「水筒は?」
「……持った。」
「よし。それじゃあ行きましょうか。」
「……うん。」
リリが扉を開けると、爽やかな風が頬を撫でた。
セレスタの街は、すでに朝の活気に包まれている。
店先で品物を並べる商人。
荷車を引く者。
通りを歩く冒険者たち。
そんな人々の間を、わたしとリリは並んで歩いていく。
「あら、リリさん。おはよう!」
「どうも。おはようございます。」
通り沿いの店から声をかけられ、リリが笑顔で応じる。
わたしも軽く頭を下げた。
「最近よくその子を連れてるね?可愛いわねぇ。」
「だって。リュカちゃん。」
「……どうも。」
慣れない言葉に、リュカは軽く頭を下げて返す。
「小さいのに冒険者さんか。すごいねえ。」
「……はい。」
無表情で返すリュカに、リリが頬を膨らませる。
「もー!リュカちゃん、笑顔!」
「……無理言わないで。」
「はっはっはっ!いいのいいの!それくらい図太い方が冒険者向きってもんさ!」
高らかに笑う店主のおばさん。
リリもまた一緒になって笑っている。
「これからこの子の訓練でギルドに行くんです。私も教える側なので。」
「あらそうだったのかい!頑張んなよ!」
親指を立てて笑うおばさんに、また静かに会釈をして返すリュカ。
最初にこの街へ来た頃は、こうして声をかけられることもなかった。
今では少しずつ、顔を覚えてもらえている。
それがなんだか嬉しかった。
その場を後にし、またギルドの方へと歩みを進める二人。
不意に、リリがリュカの顔を覗き込む。
「リュカちゃん?」
「……?」
「何かいいことでもあった?」
「……別に。」
「そう?なんか嬉しそうに見えたけどな。」
「……気のせい。」
「ふーん……ま、そういうことにしておきましょうか。」
リリはそれ以上追及せず、わたしの歩幅に合わせて歩いてくれた。
そんなに表情に出てたかと、リュカは自分の頬を手のひらでむにむにと押し回す。
今日も一日が始まる。
やがて訓練所が見えてきた。
「さあ、今日も頑張ろう!」
「……ん。」
リュカは小さく拳を握り、訓練所へと足を踏み入れた。
───場所は変わり、セレスタ南部商店街。
その一角にある武具店のカウンターで、2人の男が目を合わせて佇んでいた。
一人はギルド長、ダリウス・エルグレン。
もう一人は武器商人、ヴァルゼン・クロイツ。
カウンターの上には数枚の書類が広げられている。
それらを一瞥し、ヴァルゼンは静かに口を開いた。
「……これが、お前の調べついた事か。」
ヴァルゼンの言葉に、お手上げと言ったように肩を竦め、ダリウスは苦笑いを浮かべる。
「情けないがね。ギルドにある情報はこの位のものだった。」
「……脆弱な情報網だな。」
「返す言葉もないよ。」
「……それで、わざわざお前がこんな所にまで何の用だ。」
ヴァルゼンが鋭い目でダリウスを見る。
ダリウスはふっと笑って1枚の書類を手に持った。
「君が残した灰狼族という言葉から、リュカ君がその種族であることが分かった。そして、牙狼との繋がりがあることもね。」
「……それがどうした。」
「この情報に基づいて、森の牙狼に関してはリュカ君を中心として解決に動いていく算段を立てた。」
ダリウスの言葉に、ヴァルゼンが小さく息を吐く。
「……ならば何故さっさと向かわせん。」
ヴァルゼンの問いには返さず、ダリウスはまた1枚の書類をヴァルゼンへと差し出す。
「これもまた、君の残した情報だ。」
「……ああ。この事か。」
その書類は、灰狼族と獣神化の事について書かれたものだった。
ヴァルゼンは目を細め、書類を一瞥するとダリウスへと視線を戻した。
「君のお陰で、解決への糸口は見えた。だが、そのためにはこの獣神化を彼女に会得してもらう必要があると考えていてね。」
「……随分と悠長だな。」
「そうでもないさ。これでもかなり焦ってる。」
ダリウスの言葉に、ヴァルゼンはふん、と鼻を鳴らして答える。
そんなヴァルゼンの様子には意を返さず、ダリウスが続けた。
「なあ、ヴァルゼン。君は灰狼族について、そして獣神化について……どこまで知っているんだい?」
静寂が、店の中を包んだ。
ヴァルゼンはすぐには答えなかった。
机の上に置かれた書類へ視線を落とし、しばらく沈黙していた。
「……さあな。」
ようやく発された言葉に、ダリウスの眉が寄せられる。
「情報の出処は問わない。だが、ギルドのためにも話してくれないか。知っている事を。」
「……ギルドの為、か。」
ヴァルゼンはダリウスを見ながら立ち上がる。
書類を集め、突き返すようにダリウスへと差し出した。
「お前達ギルドに協力する気は無い。」
「……君なら、そう言うと思ってたよ。」
半ば諦めの言葉。
ダリウスの顔に苦笑いが浮かんだと思った次の瞬間、その顔からいつもの優しさが消えた。
「さっきも言ったが、僕は割と焦っていてね。」
目が見開かれる。
右手が、左側の腰へと伸びる。
ヴァルゼンはその様子をただ憮然と見ていた。
「……言い争ってる暇はないんだよ。ヴァルゼン。」
ダリウスの手で、腰から伸びる短剣が握られる。
スラァ、と甲高い金属音を立てその剣は抜かれた。
ヴァルゼンは、表情一つ変えずただその様子を見ているだけ。
そんな様子も、ダリウスにはただただ腹立だしかった。
「言わないというのなら、言わせるだけだ。」
切っ先が静かにヴァルゼンの喉元へと向けられる。
ダリウスの目は真っ直ぐにヴァルゼンへと向けられていた。
ヴァルゼンは、剣を一瞥してダリウスへと口を開く。
「……俺とやり合うか。」
「出来れば避けたかったけどね。」
「……ふん。」
ヴァルゼンの両腕が動く。
瞬時にヴァルゼンからの反撃を悟ったダリウスは後ろへ跳躍しヴァルゼンと距離を取った。
ダリウスの動きに構うこと無く、両腕は静かに持ち上げられる。
───そして、開いた手のひらを見せるように、高々と掲げられた。
「……馬鹿馬鹿しい。」
「……え?」
拍子抜け、といったように呆気にとられるダリウス。
ヴァルゼンは目を閉じ、ひらひらと手を振って見せた。
「お前と私がやり合ったとして、私に勝機がある訳が無いだろう。」
「……いや……君なら何かしてくると思ってたんだが…。」
「非合理的な事は性に合わん。……それに」
ちら、とヴァルゼンの目が店の商品棚へと向けられる。
「私は商人だ。武器を扱うのはお前達の仕事だ。」
「……どこまでいっても、君は商売人か。」
ふう、と短く息を吐き、ダリウスの剣が鞘に収められる。
ゆっくりと歩いてカウンターへと戻るダリウスを見て、静かにヴァルゼンは手を下ろした。
「じゃあ…質問に答えてくれるとみていいかな。」
「……何が知りたい。」
「灰狼族と獣神化について。まだ知ってる事があれば話してくれ。」
ヴァルゼンは眉を寄せ、記憶を辿るように目を閉じた。
やがて目を開き、机に置かれたままの書類へと目を移す。
「……灰狼族の事は、灰狼族が一番よく知ってる。」
「……?それはそうだろう。だがリュカ君は記憶を失い、灰狼族は滅んでる。灰狼族には聞けないじゃないか。」
「ああ。……だから今からは話すのは私が灰狼族から聞いた話だ。」
ダリウスの目が見開かれる。
思わず乗り出されたダリウスの身体に、ヴァルゼンが微かに身を引いた。
「……君は、会ったことがあるのか……?!」
ヴァルゼンは目を閉じ、静かに話を始めた。
「……昔、まだ私が王都にいた時の話だ。」
───それは、今から十年も前のこと。
ヴァルゼンがまだ王都を拠点に活動していた頃だった。
当時の彼は、武器商人として独立して間もない頃であり、各地を巡りながら武器の素材を自ら集めていた。
それは商売のためでもあり、自らの目で素材を見極めるためでもあった。
その日、彼は王都からさほど離れていない山へ向かっていた。
目的は、山中に生息する魔物から採れる素材の回収。
決して危険な仕事ではなかった。
少なくとも、事前に聞かされていた話では。
「……おい、どうなっている。」
山道を進んでいたヴァルゼンは、目の前の光景に眉をひそめた。
木々の間から、複数の魔物が姿を現していた。
一匹や二匹ではない。
前方だけではなく、左右の斜面にも魔物の姿が見える。
完全に囲まれていた。
「これは……話が違うぞ。」
ヴァルゼンの背後には、護衛として雇った冒険者が数人。
彼らは周囲を見回し、武器を構えている。
だが落ち着いた様子はなく、かなり取り乱しているようだった。
「おい!どうするんだ!」
「数が多すぎる…!なんでこんな街の近くに…!」
「こんなの、聞いてた依頼と違うじゃねえか!」
構えを解き、一目散に走り出す護衛達。
そんな彼らの行動に戸惑い、ヴァルゼンは目を見開いた。
「まて、何をしている!?」
声を張り上げ制止しようとする。
しかしその声も虚しく、護衛達の足は止まらない。
「こんな数を相手にできるわけがないだろ!」
「話と違いすぎる!依頼は中止だ!」
「おい待て!依頼主を捨て置くのか!?」
「自分の命より優先するもんがあるかよ!」
誰もが自分の身を守るために逃げ出していく。
ヴァルゼンは手を伸ばし、再度叫んだ。
「待て!貴様ら!」
そこの声も虚しく響くだけに終わり、あっという間に護衛達の姿は木々の向こうへ消えてしまった。
「……くそっ。」
残されたのは、ヴァルゼン一人。
手元にあるのは、採取した武器の素材だけ。
まともな戦闘用の装備など持っていなかった。
ヴァルゼンはこと戦闘においては全くと言っていいほど能力が無かった。
故に、目の前に迫る魔物の群れを相手にできるような力は備わっていない。
「……笑えん話だ。」
ヴァルゼンは手元の素材袋を握り締めた。
逃げ道は完全に閉ざされた。
左右には魔物の群れ。
そして、前後にも数体の魔物が迫っている。
数々の禍々しい目は、どれも外すことなくヴァルゼンを捉えていた。
どう足掻いても助からない。
そう理解するには十分だった。
「……ここまでか。」
ヴァルゼンは小さく呟いた。
自らの運命を受け入れる覚悟。
それが滲み出た声だった。
目の前の魔物が唸り声を上げる。
牙を剥き、一気に地面を蹴った。
ヴァルゼンは目を閉じた。
もう、どうすることもできない。
覚悟を決めた。
───その時。
ドォンッ!!!!
凄まじい音が山中に響き渡った。
「……っ!?」
何かが目の前を横切った次の瞬間、ヴァルゼンの視界にあった魔物が彼方へと吹き飛んでいくのが見えた。
地面を転がり、木の幹に激突する。
呻き声をあげて、魔物が地に伏す。
「な……っ!」
目を見開くヴァルゼン。
そこにいたのは、一匹の巨大な狼だった。
全身を覆う灰色の毛並み。
全てを砕いてしまいそうな鋭い牙。
何もかもを切り裂いてしまいそうな爪。
大きな身体から放たれる圧倒的な威圧感。
狼は低く唸りながら、魔物からヴァルゼンを隠すように前に立っていた。
その姿は、普通の狼とは何もかもが明らかに違う。
その体躯の巨大さ。
魔力を纏ったような、異質な存在感。
ヴァルゼンは息を呑んだ。
その直後、ヴァルゼンの背後から一人の男が飛び出してきた。
灰がかった短い銀色の髪に、同色の狼のような耳。
そして腰から伸びる大きな尻尾。
それはどこにでもいる、ただの獣人のように見えた。
「はあっ!!!」
男は勢いよく地面を蹴り、近くにいた魔物へと飛び込んでいった。
拳を振るい、蹴りを放つ。
短剣を振るい、魔物の群れを切り裂いていく。
一体一体、確実に仕留められていく魔物の軍勢。
しかし、ヴァルゼンの目の前にいる狼には目もくれていない。
明らかに、こいつが一番危険そうなものだが……。
そう考えているうちに、信じられないことが起こった。
ヴァルゼンの前に立っていた狼が、男の動きに合わせるように魔物へと襲いかかっていったのだ。
男が正面から敵を引きつければ、狼が横から食らいつく。
狼が敵の動きを止めれば、男が一気に距離を詰める。
互いの動きを理解しているかのような連携だった。
それは、まるで長年連れ添った相棒同士の共闘。
「……なんだ……あれは……。」
ヴァルゼンはその光景をただ呆然と眺めていた。
魔物の群れは、次々と倒されていく。
数で圧倒していたはずの魔物たちが、まるで相手になっていない。
男と、巨大な狼。
その二つの存在が、戦場を支配していた。
───やがて、最後の一匹が地面に倒れた。
山の中に静寂が戻る。
ヴァルゼンはしばらく、その場から動けなかった。
男は大きく息を吐き、隣に伏せた狼の頭を強く撫でた。
「サンキュー!いい動きだったぞ!」
狼は男の手に頭を擦り寄せる。
その様子は、先ほどまで魔物を蹴散らしていた姿とは別人……いや、別の狼のようだった。
ヴァルゼンはそこでようやく気づく。
「……それは……牙狼、か。」
まさか実在していたなんて。
牙狼の存在など、王都の中で噂程度にしか聞いた事がなかった。
魔物でありながら、討伐対象にならずある種族と生を共にするものがいると。
男は牙狼を撫で終えると、呆気にとられているヴァルゼンの方へ歩み寄ってきて、目の前で足を止めた。
「よぉ、危なかったな。」
男は笑いかけた。
まるで、何事もなかったかのように。
ヴァルゼンは返す言葉を見つけられなかった。
先ほどまで死を覚悟していたのだ。
それが突然現れた男と狼によって救われた。
あまりにも現実離れした出来事に、頭が追いついていなかった。
「……俺は…助かったのか。」
ようやく絞り出した言葉だった。
「そうだな。間に合ってよかった。」
男は気さくに笑う。
「怪我はないか?」
「あ、ああ……。」
「そうか。ならよかった。」
男は、再び横に来た狼の頭を撫でた。
狼は嬉しそうに尻尾を揺らした。
その光景を見ながら、ヴァルゼンは不思議な感覚を覚えていた。
先ほどまで恐怖すら覚える威圧感を放っていた牙狼が、この男の隣ではまるで家族のように見える。
人と魔物。
本来ならば、簡単に共存できるような関係ではない。
王都で聞いていた噂も、ただの与太話だと思っていた。
お互いにある信頼関係。またはそれに近い何か。
ヴァルゼンはその光景を、目に焼きつけるように眺めていた。
「……お前は…お前達は何者だ?」
「え?ああ…ただの獣人族だよ。」
飄々と答える男に、ヴァルゼンは眉を寄せる。
「……ただの獣人族が、牙狼と共闘?そんな訳がないだろう。」
「え〜…?あんた…詳しい口?」
面倒くさそうに顔をしかめる男。
ヴァルゼンは構わず続けて問いただした。
「もう一度聞く。お前達は何者だ?場合によっては王都に報告をしなければ…」
「ああ、待て待て!それは辞めてくれ!」
慌てて男が手をブンブンと振る。
隣にいた牙狼は何事かと言ったような目で男を見ていた。
「なんだ。何かやましい事でもあるのか?」
ヴァルゼンの問いに、男は頭を掻きながら答える。
「あ〜……王都にはこの山に入んなって言われてんだよ。バレたらめんどくせぇ事になるからよ……なっ?」
「……ふん。そういうことか。」
手を合わせ、苦笑いを浮かべながら頼み込む男。
しかし、ヴァルゼンの興味はその部分にはなく、ただ一点にだけ向いていた。
「……ならば答えろ。お前達は何者だ?」
「なんでそんなに気になんだよ……。」
大きくため息をつく男。
ヴァルゼンは何も言わず、目を細めて男を見据えた。
「……誰にも俺と会ったって言うなよ?」
苦笑いから一変、再度面倒くさそうな顔に戻った男は、隣にいた牙狼の前足に触れる。
「……俺は灰狼族のオルガ・グレイ。こっちはお察しの通り牙狼のキースだ。」




