第二十一話 ~相棒(後編)~
後編です。
思ったよりも長くなりましたが、戦闘は少ないです。
では、どうぞ。
俺と哭月は、神社を確認できる地点で気配を殺して時が来るのを待っていた。
真雪たちが妖怪たちの注意を引き、この神社から遠ざけるその時を。
そしてその時は、唐突に訪れた。
「ギャアアァア!!」
という耳を塞ぎたくなるほどの妖怪の悲鳴と共に。
「あの二人、ちょっとやりすぎじゃないの?」
「・・・・・・ま、まあ、あっちは大丈夫なようだし、こっちも行くぞ」
「・・・そうね」
二人揃って溜息を吐く。
はあ、妖怪たちが哀れに思えてくる。十分すぎるほどに役目は果たしてくれているが、もう少し殺り方があるのではないかと思う。せめて、苦しみを与えずに屠ることもあの二人なら出来るだろうに。多分、目的が摩り替ってるんじゃないかと思う。
いや、それは今は頭の隅に置いておこう。今は、任務を達成することが先だ。
「哭月は後から」
「了解」
哭月が肩から降ろし、神社にいる妖怪を視界に入れる。数は三。皆一か所に集まっており、殺り易いことこのうえない。
「・・・・・・凶ツ風・閃」
風を身に纏い、足に魔力を集中させ、十数メートルの距離を一瞬で詰める。
「・・・っへ!?」
間抜けな声を上げるリーダー格の妖怪。二本の角を持つ赤黒い肌の、鬼。
体格は俺よりも一回り大きい程度。報告にあった通りだ。
鬼は日本を代表する強大な妖怪だ。鬼の強さはその大きさと容姿で決まるとされている。大きければ大きいほど強く、童子や鬼神などと呼ばれる。人間のような容姿の鬼はその鬼神などと同等の強さを持つ。
つまり、この程度の大きさで、このような異形の姿をしているなら雑魚の部類に入る。
「・・・さて、あとは大元をなんとかするだけか」
「ま、マ・・・・・・テ?」
後ろで崩れ落ちるような音が聞こえた。
そこには、十数個の肉塊に解体された三匹分の妖怪の骸があった。
「流石ご主人。瞬殺ね」
いつの間にか、哭月が横に並んで、そんなことを言った。
「こいつらが弱すぎたんだ」
やったことは単純だ。高速移動術である『凶ツ風・閃』で一瞬で接近し、風の刃と手刀で斬殺した。恐らく、奴らは斬られたことにも気付かなかったはずだ。
というわけで、ここに集まっている妖怪はリーダー格の妖怪を含めて雑魚ばかり。まあ、本当なら力押しでどうにかなる連中なのだが、下手なことして封印を解くわけにもいかなかった。
ちなみに、こいつらがいくら物理的な攻撃手段で封印に干渉しようとしても、完全に封印が切れるまでは何も出来ない。
「なるほど、これが破魔の札か」
神社の中に入り、社殿の四方と扉に張られている札を見る。
そう、この札のせいで奴らは封印に手が出せなかった。これは破邪・破魔の力を持つ札。並みの妖怪であれば触れることは出来ない。ただし、封印が解かれれば、その強大な妖力で内側から札は吹き飛ばされる。
もっとも、俺や哭月、真雪や零であれば、札をも破壊することは可能。というか、戦闘の余波で吹き飛ばしてしまいかねない。
そのため、今回のような役割分担になった。こういってはなんだが、真雪と零の力は大雑把で派手すぎる。その点、俺のほうは体術主体で地味なので、適役だったのだ。
「・・・で、これがその力とやらか」
俺の目の前には安置されている水晶玉があり、その水晶玉にひびが入り妖力が微量ながら漏れ出している。封印はもう、切れ掛かっている。
なるほど、これが分かったから奴らは集まってきたのか。ま、当たり前ではあるが。
「・・・で、こっちが一緒に封印されてるっていう『何か』ね。・・・ほう、刀か」
水晶玉の隣には、一本の刀が飾られていた。封印されているようには見えない。ただ、そこに置かれているだけのようだ。
ただ、その刀から異様な気配というか、何かの力を感じる。どうしても、気になって仕方が無い。
だからか、俺は無意識のうちに、導かれるように刀を手に取っていた。
「こ・・・れは」
刀を手にした瞬間、様々な情報が頭に流れ込んできた。
それは、この刀の能力であったり、使い方であったりした。その中に、この刀の記憶、歴史もあった。何故、この刀がこの神社に安置されていたのか。その理由は二つあり、神社に封印されている大妖怪がこの刀の前の持ち主だったというのが一つ。もう一つは、この刀はずっと待っていたのだ。自分の持ち主に相応しい者が現れることを。
「ちょっと大丈夫、ご主人?」
「・・・え?・・・あ、ああ。大丈夫だ」
気がつくと、真雪が心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。
「・・・ならいいけど。ともかく、あとはこれをどうするかよね。考えはあるの?」
「ああ。・・・・・・この刀、『闇禍』なら結構簡単にどうにかできると思う」
闇禍の力は世界を斬る力。簡単にいうと、それが物質であろうと目に見えないモノ、例えば霊体や概念であろうとも問答無用で断ち切る能力だ。無論、思念も斬れる。
だが、その気になれば空間すら斬れるこの刀だが、使用者が斬ろうと思わなければ決して何も斬れない。斬る対象を認識、指定しない限り、鈍ら同然なのである。
逆にいえば、斬らないと思えば何も斬れない。つまりは斬るも斬らないも思い一つというわけだ。
どこかで聞いたような能力だとか、そんなことを気にしてはいけない。きっと。
「へえ。確かにそれなら大丈夫そうね」
哭月に闇禍の能力を説明すると、そんな答えが返ってきた。
「・・・ってことはその闇禍は次の主をご主人に決めたってことね」
「・・・そういうことになるんだよな。やっぱり」
「そうでしょうね。その能力なら私たちじゃなくても、封印せずに思念を消滅できたでしょうからね。それをしなかった、というより出来なかったのは闇禍が拒んだからでしょう。自分が認めた主以外には力を貸さない。このての意思のある武具は頑固者が多いから」
「・・・なるほど」
「あ、でも闇禍の力を過信しては駄目よ」
哭月が言うには、闇禍の力は確かに協力だが、そう珍しい力ではないという。同じ能力を持つ武器があるかは知らないが、魔術で十分に再現可能なのだそうだ。同じ系統の能力がぶつかり合えば、相殺され、斬ることは出来ない。
「じゃあ、哭月も出来るのか?」
「うーん、全盛期なら苦しいけどなんとか可能ね。世界に干渉する魔術はどれも難易度高いから。けど、何事にも例外ってものはあって、それが得意という変り者もいるかもしれない。まあ、油断大敵ってやつよ」
うん、話は分かった。つまり今の哭月には出来ないってことか。で、他にも同じような魔術があるから気をつけろと。
「了解。んじゃ、今は妖力を世界に括り付けている思念とやらを斬ればいいわけだな。ああ、でもその後妖力はどうなるんだ?」
「そうね。世界に繋ぎ止めている残留思念さえ取り払えば、後は自然に霧散するわ。あ、でも」
「ん?なんだ?」
「その後、この妖力私がいただいてしまってもいいかしら」
妖力が思念で繋ぎ止められている状態では思念が邪魔して吸収できないが、それが無くなれば自由に吸収できるらしい。
本当は力ずくで全部吹き飛ばすしかなかったが、こうなると話は別ということだ。
「・・・いいんじゃないか?哭月が大丈夫なら」
「そう、じゃあ少しいただくことにするわ」
妖力自体はただの純粋な力であり、吸収しても悪影響は無いそうだ。
「よし、じゃあいくぞ」
俺は闇禍を上段に構える。思念を斬るということを念頭において、真直ぐに振り下ろした。
すると、すぐに変化は無かったが少しすると、水晶玉が真っ二つに割れた。
「どうやら、成功のようね」
割れた水晶玉から妖力が溢れ出し、その上で球形になった。大きさは俺の身体と同じくらいだ。
あまり実感はないが、成功したらしい。妖力の塊は哭月が言ったとおり時間がたつにつれて徐々に小さくなっていった。
「それじゃ、いただきます」
哭月がそう言うと、妖力の塊は哭月に吸い寄せられ、哭月の身体に入っていった。全ての妖力を吸収すると、哭月の身体から眩い光が発せられ、俺は思わず目を覆った。
光が止むと、人間の姿になった哭月が立っていた。
「哭月?」
「・・・凄いわご主人。ほぼ全盛期と同じくらいの力を取り戻したみたい。ちょっと足りないけど」
「・・・そりゃ、良かったな」
そういうことを聞きたかったわけではないのだが、大丈夫そうなのでよしとしよう。
「さーて、それじゃ、真雪たちと合流するか」
「了解。早く終わらせましょう」
神社を出て真雪たちを探していたのだが、思ったより早く真雪たちと合流できた。何故かというと、妖怪たちの悲鳴がまだ聞こえていたからだ。
「真雪、零、大丈夫か?」
「うん、大丈夫」
「ええ、そっちは?」
真雪と零には傷一つ無いどころか疲れも見えない。流石としかいいようが無い。
「大丈夫。バッチリよ。敵はあとこれだけ?」
「ええ、これで終わり」
俺たちの目の前には数十匹の妖怪がいた。ここに来るまでにかなりの数の妖怪の死骸があったのだが、まだこんなにいたのか。報告より少し多い気がする。
「じゃあ、後は私に任せてくれない?どれだけ力が戻ったか試したいのよ」
「?・・・分かったわ」
哭月の言葉を不思議に思っている様子の真雪と零に事情を説明した。すると二人は納得したように哭月を見た。
「お手並み拝見、といこうかしら?」
「ふふ、見て驚きなさい」
真雪の挑発的な言葉に、哭月は不敵な笑みを浮かべて答えた。
「何匹集まろうが所詮は烏合の衆。蹴散らしてあげる」
哭月が右手を前に掲げると、哭月の背後に幾つもの魔法陣が虚空に浮かび上がった。右手の前にも哭月と同じくらいの大きさの魔法陣が展開され、その中心に魔力が集まっていった。それぞれの魔法陣の中心に蒼白い魔力が収束されていく。魔法陣の数は七つ。
「消えなさい!」
哭月の号令と共に七つの閃光が空を切り裂いた。
同時ではなく、タイミングをずらして絶え間なく放たれた蒼白い閃光は、妖怪たちの肉を焼き、穿ち、悉くを蹴散らしていった。
その威力は凄まじく、地形すら変えていった。地面は抉られ、木々は薙ぎ倒され、この一帯は開けた広場になってしまっていた。
「アハハハハハハ!!そーれ、まだまだあ!!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・トリガーハッピー?」
誰かがそんな言葉を呟いた。
えー、ともかく、最後に一人弾けてしまったが、これでこの任務は終わった。
森に、戦争でもあったのかと疑いたくなるほどの爪跡を残して。
やー、またやっちゃいましたね『闇禍』。よくある能力といわれればそれまでですけど、あんまり派手だとこの作品っぽくない感じがするのがこのようにしました。でもこれって結構強いですよね?ただまあ作者としては別作品にこれ以上の化け物を多数用意はしています。その強さは別格です。鏡も強い部類ですけど、比ではありません。もしかしたら作中に一人出てくるかも。
あと闇禍という名前ですけど、本当は『夜禍』にしたかったんですよ。けど、既に多作品で使われていたのを思い出してなくなく断念。ちなみにそちらは武器の名称でも人の名前でもありません。確か、種族?の名称だったかな?まあ、今のでも気に入ってますからいいですけど。
で、最後に弾けちゃった哭月さん。予定はなかったんですけど、勢いでやっちゃいました。イメージとしては型月の某運命の赤い悪魔ルートの柳洞寺でのキャス子さんや、ホロウでの最終決戦でのキャス子さんのアレ。または同じく型月のミスブルーを思い浮かべていただければ。人間ロケットランチャーとはちょっと違いますが方向性は同じです。多連装のレーザーみたいな。
えー、あと関係ないですが、このサブタイトルの相棒とは闇禍のことです。
次回はお引越しのお話です。
では、また次回。