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第九話 ~花見(後編)~

すみません。若干遅くなりました。

今回は花見の話の続きです。あのキャラの秘密が少し明らかに!?


では、どうぞ。

「何でこんなことになってしまったんだろう・・・」


と一人呟いてみる。傍から見ると危ない人のようだが、この光景を見たら誰でもそう言うだろう。

辺りに散らばった花見の後の残骸。空になった重箱。散乱した紙コップ。生ごみになるものはないが、各々が持ち寄った花見道具が片付けられることなく転がっている。なにより、俺を除いた花見の参加者が皆だらしない姿で横たわり、寝息を立てている。起きているのはこの場で俺一人。幸いなのは、この霊樹の周りは温かな光に包まれ、過ごしやすい温度なので風邪をひく心配がないことだろうか。

どうしてこんなことになったのか、といっても理由ははっきりしている。少し、花見の様子を思い出してみようか。



「乾杯!」


「かんぱーい!」


何故か銀司による乾杯の音頭で、花見が始まった。

今回の花見の参加者は、俺、真雪、哭月、桜花、銀司、九凰姉妹の7人だ。時刻は昼。晴天の空の下、俺たちは料理に舌鼓をうち、花見を楽しんでいた。


「うめー!これ作ったのって茜さんですか!?」


「いや、それ俺」


「・・・あ、そ。うん、うまいよ」


「何だ、その反応の転換は!?」


銀司が俺の作ってきた料理を食べ、勝手にはしゃぎ、勝手に沈んだ。

シートの上には、俺が作ってきた料理と、九凰姉妹が作ってきた料理が並べられている。どちらも同じような重箱なので作ってきた本人でなければ、誰が作ったのか判別するのは難しい。というか、九凰姉妹の作った料理は銀司から離れた場所に配置されている。これは、わざとなのか?


「キョウ!」


「ああ、少し待ってくれ」


桜花が期待を込めた瞳で見上げてくる。別に用意していた大きめの弁当箱を取り出し、桜花に渡す。


「はい、今回のは自信作だ」


「やったー、稲荷寿司!」


弁当箱を開け稲荷寿司を手に取り食べ始めると思ったのだが、以前とは異なりそのまま食べ始めることなくこちらに向き直り言った。


「いただきます!」


「はい、召し上がれ」


予想外の言葉に少し呆けてしまったが、どうにか返事を返す。頭を撫でてやると、嬉しそうな笑みを浮かべた。


「ん?」


稲荷寿司を一口頬張り、数回咀嚼すると桜花は首を傾げた。と思ったら、残りのすべてを一気に口に入れたかと思うと、次の稲荷寿司を手に取り凄まじい勢いで弁当箱の中の稲荷寿司を食べきってしまった。


「ふー、おいしかった」


俺が呆けていると、桜花は満足そうな表情で呟いた。


「キョウ、これって前のと違うね」


「ああ、こういうのも悪くないだろ?」


「うん、すっごくおいしい!」


今回作ってきた稲荷寿司は、煮込んだ大豆やひじきなどの具を混ぜ込んだものだ。どうやら気に入ってくれたようでよかった。まあ、これほどの勢いで食べきるとは思わなかったが。


「一応、いつものも作ってきたけどどうす・・・」


「食べる!」


最後まで言わせてもらえなかった。もしも、具入りの稲荷寿司が気に入ってもらえなかったときに備えて普通の稲荷寿司も作ってきたのだが、これはこれで喜んでくれているようなのでよしとしよう。

桜花は先程と同じペースで稲荷寿司を食べ進めている。これならすぐに食べ終えるだろう。

この小さな体のどこに入っているのかが不思議でならない。


「よくそんなに食べられるわね」


そんな様子を真雪は呆れたように見ていた。いや、気がつくと真雪だけでなくこの場にいる俺と桜花以外の視線が桜花に注がれている。そのどれもが信じられないものをみるような目つきをしている。これでも一応守り神なのだし、気持ちは分からなくもない。


「それじゃ、カラオケ行ってみようー!」


銀司が持参したカラオケマイクを掲げながら言った。


「え?カラオケ!?」


露骨に嫌そうな声を漏らしたのは円香だ。だが、嫌そうな声音に対して表情はどこか嬉しそうに見える。


「円香、歌ってみたら?」


「ね、姉さん!?」


九凰さんが、円香に歌うように促す。物凄くいい表情で。


「お姉ちゃん、円香の歌聞きたいなー」


俺には、その時九凰さんの視線が銀司に向けられている所が見えた。銀司は九凰さんの意思を汲み取ったのか、頷き言った。


「では、トップバッターは九凰円香です。どうぞ~」


「いや、ちょっと勝手に!」


銀司に無理やりマイクを渡され、曲が流れ始める。


「え、これどうやって止めるの?」


電源を切れば止まるのに、気が動転していてそれにすら気がつかないらしい。

ふと、円香が視線を上げ花見会場を見た。参加者に順番に視線を向けていき、最後に俺と目があった。気のせいか、ほんのり頬が赤い。緊張しているのだろうか。


「えーい、やるわよ。やってやろうじゃない!」


拍手や口笛が響く中、どこか吹っ切れた様子で円香は歌い始めた。


「へー、意外っていうと悪いけど、うまいな」


俺は自然と感想を漏らした。どこかで聞いたことのあるような曲を、良く響く透き通った声で歌っている。


「うふふ、そうでしょ。円香は昔から歌が好きだったから」


九凰さんが我がことのように嬉しそうに言った。どこか誇らしげにも見える。

その後、マイクは順番に回されていった。桜花以外が全て歌い終えてみると、やはり円香が一番うまかった。本当に意外な特技もあったものだ。

ちなみに、銀司が「俺の歌を聴け~!!」てなことを言っていたので、何となく殴っておいた。



それから暫くして、皆の様子がおかしいことに気付いた。


「鏡・・・」


「真雪?」


突然真雪がしな垂れかかってきた。その目虚ろでどこか熱っぽい視線をしている。


「キス、して」


「はい?何を突然言ってやがるんですか真雪さん!?」


予想外の言葉に思わず慌ててしまうが、とりあえず真雪は引き剥がし距離を取る。しかし、真雪も追い縋ってくる。


「鏡、何で逃げるの?」


「いやいやいや、俺は貴女様が何故にこんなことをしているのか分かりませんけども!?」


気が動転しているせいで、俺の口調もどこかおかしい。しかし、どう考えても変だ。仮に真雪が俺に好意を寄せていたとしても、いきなりすぎる。というかこれって、もしかしてアレだろうか。


「・・・酔ってるのか?」


「酔ってなんか、らいわよ」


絶対に嘘だ。舌が回っていない。俺は真雪がさっきまで飲んでいた紙コップを手に取り、匂いを嗅いだ。


「やっぱり、酒か」


思った通り、中身は酒。いつからこの酒を飲んでいたのか、思い返してみると途中から飲むペースが速くなっていたような気もする。

さて、問題は酒を持ち込んだ犯人なのだが、これは一人しかいない。


「銀司!てめっ、酒を真雪に飲ませただろう!」


「んあっ?何のことだ?」


「正直に吐け」


「あだっ・・・はい」


ふざけた態度にムカついたので、頭に手刀を叩き込んだ。


「確かに酒は持ってきたけど、開けたのはみんなだぜ?」


「は?」


みんな、と聞こえたのだが、気にせいだろうか。みんなというのは、まさかここにいる人間のことだろうか。なんだろう、嫌な予感しかしない。

俺は、おそるおそる背後を振り返った。するとそこには、予想通りというか嫌な予感が的中したというか、信じたくない光景が広がっていた。


「あはははははは、円香久しぶりに三国志ごっこしようよ~」


「ふええええ、痛いよ。お姉ちゃん髪引っ張らないで~」


九凰姉妹にも完全に酒が回っている。

九凰さんは、笑い上戸なようで、楽しげに笑いながら円香で遊んでいる。というか、三国志ごっこって何?

対する円香は泣き上戸らしく、円香さんに弄られて瞳に涙を浮かべている。

俺はその様子を茫然と眺めていたら、真雪が突然倒れこんできた。


「真雪!?」


心配になって真雪の顔を覗き込んでみると、幸せそうな表情で寝息を立てていた。頭の位置が調度俺の膝の上であり、膝枕をしている形になった。

真雪は限界が来ると、寝るタイプらしいな。これが逆の形なら良かったのに、と思いながら安堵の息を漏らした。


「ぅおう!?」


急に背中に衝撃が走った。同時に柔らかい感触と体に回される細い腕。なんとなく、その正体を思い浮かべながら振り返った。


「あはは、アレ?キョウがいっぱいいる~」


「・・・桜花も飲んだのか」


お約束の台詞を言いつつ、桜花がはしゃいでいた。その後、桜花は今までどこにいたのか定かではない哭月を追いかけまわして遊んでいる。哭月は必至で逃げ回っているが、多分いずれ捕まるだろう。桜花足早いなー、などど思いながら俺は深々と溜息を吐いた。

よくよく考えてみれば真雪だけが酒を飲んでいるはずなどなかった。少し考えれば気づくこと、とはいえまさか桜花まで飲んでいるとは思わなかったが。

つーか、桜花って見た目思いっきり子どもなんだが、酒飲んでもいいのだろうか。ま、それを言ったら俺と桜花だって年齢でいえばまだ未成年。妖怪だから成人しているとか関係ないのだろうか。確かに法律とかは関係ないだろうけど。待てよ、円香って未成年だったような。・・・考えないようにしよう。結局、あれこれ考えても後の祭りだ。


「まあ、お前も飲め」


差し出された紙コップと銀司を交互に見る。


「まあ、あれだみんなで渡れば怖くないってやつだ」


絶対に使い方を間違っていると思う。

まあいい、確かにこうなったらどうしようもない。俺一人飲んでいないというのも何だか馬鹿らしい。もうどうにでもなれだ。


俺は紙コップを手に取り、一気に飲みほした。



とまあ、それがこの惨状の理由だ。あの後結局俺を残してみんな寝てしまった。俺も結構な量を飲んだのだが、全く酔えなかった。


「はあ、こうしてても仕方ない。片付けるか」


わざわざ起こすのも忍びないので一人で片づけを開始する。ゴミ袋もきちんと持参しているしそう時間はかからない。数分で片付けは終了し、後はシートを畳むだけとなった。だが、何人かシートに横たわっているためできないでいた。


「ま、後でいいか」


体を退かしてやれば済む話なのだが、面倒なのでそこまでしたくない。一人でここまで片付けたのだから少しくらい楽してもいいだろう。というよりも、眠い。


「・・・ふう」


少し畏れ多い気もしたが、疲れと眠気の誘惑には勝てず、霊樹に背を預け腰を下ろした。

だんだんと瞼が重くなり、眠りに落ちかけていた時声が聞こえた。


「キョウ・・・」


声の聞こえた方に視線を向けると、そこにはいつ間に起きたのか桜花が立っていた。


「お疲れ様じゃったの」


はて、何だろう。どこかその姿に違和感を感じた。

桜花は静かな足取りで俺の前まで来ると、おっとりとした口調で言った。


「隣、よいか?」


「え、ああ、うん」


少し戸惑いつつも頷き返す。

確かに何かが変だ。いつもと口調が違うとかそういうことではない。具体的な違和感の正体は分からないが、いってみれば桜花には違いないが、何かが桜花の中に混じっている感じだ。少し違うが、電波がうまく入らなくて見えずらいテレビを見ているような妙な感覚。

そんな戸惑う俺の様子が可笑しかったのか、桜花はくすくすとどこか妖艶さを漂わせる笑みを浮かべた。


「なるほど、キョウには分かってしまうか」


「桜花、いったいどうしたんだ?」


「ふむ、キョウは桜花がとある大妖の転生体であることを知っておるか?」


「いや、初耳だけど」


そんなこと聞いたこともなかった。ただ特別な妖怪であるということしか知らない。


「そうか、妾はいうなればその大妖の経験と記憶の結晶というところじゃな。今は桜花が酔いつぶれて意識を手放したから出てきたのじゃ。まあ詳しくは暫くすれば桜花が自ら語るじゃろう」


「どういうことだ?」


まったく訳が分からない。つまり今表に出ている人格、いや記憶が本当の桜花ということなのか?しかし、俺にはそれが違うのはないかと感じていた。


「簡単にいえば、まだ桜花に妾の記憶と経験が馴染んでいないだけじゃ。成長すればやがて妾は桜花に溶け込んで消えていく」


「そう、なのか」


だとすれば、少し悲しい。今話している彼女がいずれ消えてなくなってしまうとは。


「勘違いするなよ?妾は桜花の一部じゃ。妾が溶けてなくなったとしても今のこの会話は桜花は覚えておるじゃろう」


「そっか。よかった」


桜花が覚えているなら彼女の存在が全て消えてしまうことはない。ならば、少しでも救いはあるだろう。無論、よいわけではないが完全になくなってしまうよりはずっといい。


「キョウは、優しいの」


俺の言葉を聞いて少しきょとんとしていた桜花だが、すぐに嬉しそうな笑顔を浮かべ言った。

俺は別に自分が優しいと思ったことはない。ただ、思ったことを言っただけだ。


「そんなんじゃないさ」


その言葉をどのように受け取ったのか、桜花は優しげな表情を浮かべたまま黙っていた。

それから暫く静寂の時が流れ、ふと桜花が口を開いた。


「のう、キョウは、妾と、桜花と共にいてくれるか?」


不安げな声音。それがどういった意味かは分からないが、迷うことはない。答えは初めから決まっている。まさか、一生を添い遂げるという意味ではあるまいし。


「ああ、桜花がそれを望むなら」


「そうか、安心した」


桜花は心底安堵したような表情で言った。


「会いにくるよ。何度でも」


「うむ。そうしてくれ」


しかし、本当に桜花とはまるで口調が違う。普段の桜花は子供らしい口調なのだが、今の桜花は古風なお姫様風の口調をしている。これが、転生前の桜花の口調ということか。


「なあ、今の桜花、今話している桜花はすぐに消えてしまうのか?」


「いや、今しばらく時間がかかる。もっとも、そう頻繁に表に出てくることはないじゃろうがの。次に会うときは恐らく、桜花の心も身体も大分成長しているじゃろう」


ならばよかった。今の桜花と話すもの楽しい。出来れば消えてほしくないという思いもあるが、そういうわけにもいかないのだろう。また話す機会があるというならばそれを楽しみにしよう。


「そうか、ならまた会えるかな」


「そうじゃな、妾が望めばの」


それからどちらからともなく笑いあった。

そして再び静寂。今度のは長い。どちらも語ることをせず、寄り添って呆と空を眺めていた。

こんな時間もいいなと思っていたら、肩に重みを感じた。見ると桜花が俺の肩に頭を預け寄りかかっていた。その小さな白い手は自然と俺の手に重ねられていた。


「暫く、こうしてても良いかの・・・」


その声は小さく、緊張しているのか少し声が上擦っていた。表情を覗き見ると、真っ赤になって俯いていた。

俺はその声と体の感触ににドキッとしつつも、なるべく平静を装って返した。


「ああ」


それからは本当に言葉は要らなかった。互いの存在を感じながらゆっくりとした時間が流れていった。

気づくと、隣から寝息が聞こえてきた。どうやら眠ってしまったらしい。

次に目が覚めたときには、いつもの桜花が出迎えてくれるだろう。少し名残惜しいような気もするが、また会えるときを心待ちにしようと思う。これが最初で最後の出会いでないことを祈りながら。


「おやすみ、桜花」


俺は桜花の体温を感じながら、眠りの中に溶けていった。

今回の話は今までの中で最長の分量になりました。まあ、そんなに変わらないんですけどね。しかも、最後のやり取りの部分含めなければいつもと同じ量だったのですが。

桜花の正体はバレバレですよね。なんか別人格(記憶)とか出てきてベタな展開に。作者的にはそういうのは嫌いではないので多分このまま押し進めます。

さて多分11話か、12話あたりが戦闘パートになると思います。とかいいながら次回だったり?すみません。まだ未定です。ともかく、近いうちに戦闘パートは確実に入りますし新キャラも登場します。これでやっと主要メンバーが揃います。

では、また次回。

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