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専属契約

やったわ!


どおん、と大きな音を立ててビーストは倒れたの。

すごいわね!

武器があるとはいえ、たった2人であんなに大きな獣を倒しちゃうなんて。


ああ、良かった。ほっとした。


ナンシー先生もふぅーっと大きく息をついて、安心したような笑みを浮かべたわ。


それから、ナンシー先生と一緒に子供たちの手を取って茂みから出たの。ライドさんは振り返って微笑んでくれたけれど、セスさんはちらっと視線を向けただけだったわ。

なんていうか。

ライドさんは対人の壁が薄くて、セスさんは対人の壁が超分厚い感じね。

私もどちらかと言うと人見知りな方だから、そんなセスさんに親近感が湧くわ。

適度な距離感、大事よね。


というわけで、ちょっと離れたところから2人に向かって労いの言葉をかけることにする。

「お疲れ様です! すごいですね! あっという間に倒しちゃうなんて!!」


子供たちは恐々、だけど興味津々に倒されたビーストに近づいていくわ。

私も、そっと、ライオンの頭を覗き込む。深いグリーンの瞳がまだ透き通っている。

ヤギの頭には立派な角もついてるわ。


「お前が、あそこから出てくると明確に言い当ててくれたおかげだ。助かったよ」

そう言ってライドさんが隣に立った。

うふ。褒められた?

なんか嬉しいわ。すごく嬉しい。

この世界に来て、占いを始めて。未来を見るこの力が誰かの役に立つとき、本当に嬉しさを感じるの。


嬉しくて、へらへら笑っちゃうわ。


そのとき、ぎーこぎーこと何かを軋ませる音をさせながら、馬車がやって来たの。

馬車、よね? 後ろに引いているのは荷車みたいだけれど。

「来たか」

それを見てライドさんが呟いたのよ。お知り合いかしらね?

「お待たせー」

そのひとは丸い眼鏡をかけた、さらさらマッシュスタイルの髪型でいかにも「文系」という感じのひと。

年齢は、若そうに見えるけれどライドさんやセスさんと同じくらいね、きっと。


「そう言えば、名乗ってなかったな」

ライドさんはそう言って改めて私に向き直ったわ。

「俺はライド。そっちはセス。それで今来たのが」

「ジェリーでーす」

眼鏡のひとは抑揚のあまりない言い方でそう名乗ると、ひょい、っと思いの外軽い身のこなしで馬車の御者台から降りてきたわ。

「えっと、よつばです」

「どーもー」

「俺たちはハンターで、時々デイジーホームの手伝いをしているんだ。今日はホームで作っている販売用クッキーの材料を届けに行ったんだが、ビーストの情報が得られたのはラッキーだったな」

…デイジーホームの手伝い?

ナンシー先生を見ると、肯定するようににこっと笑ったわ。

ふうん?


ジェリーさんはビーストに近づくと、しげしげと見つめて言ったの。

「ふーん。ずいぶん綺麗に仕留めたね。これでレアな魔法石が取れたらすごくいいね」

「ああ。出てくるのを待ち構えて撃てたからな」

セスさんが答えながらテキパキと荷車にビーストを乗せていくわ。

すごく大きなビーストは見るからに重そう。

どうするのかしら、と思ったら、荷車には滑車が付いているのね。荷台を滑り台のように斜めにしてから、ロープをビーストの足にくくりつけて滑車のハンドルを回すとロープが巻き取られて、ずるずるとビーストが荷台の上に引き上げられていくわ。

ジェリーさんはビーストを運ぶために荷車を持って来たのね。あら? そう言えば、どうやってセスさんに連絡したのかしら?


不思議に思いながらも作業が珍しくてじいっと見つめていたの。そうしていたら、ライドさんが言ったのよ。

「ところでヨツバ。ヨツバはビーストの出現を予見出来るのか?」

うん?

「そういうわけでは無いんですけど。私、夢占いをやっていて、今日はたまたまお客さんの夢を占ったときにビーストが現れるのが見えたんです」

ライドさんはそうか、と頷いて何やら思案顔よ。

何かしら。

「ではヨツバ。今後、今日のようにビーストの出現を予見した場合は、直ちに俺に知らせてくれないか。ヨツバは知らないだろうが、ビーストの情報はハンターに高く売れる。だから、専属契約をしよう。情報が無い日も毎日決まった額を支払う。情報があった日は一頭につき上乗せして支払う。どうだ?」

どうだ、って言われても…。


急なことで驚いてしまうわ。確かに、ビーストの情報が売れる、なんてことは知らなかったし考えもしなかったけれど、今日は本当にたまたま分かっただけだし…。

「その条件だと、ライドさんが損をするのでは?」

そう言ったら、ライドさんは目元を綻ばせたわ。

とても、優しい目をするのね。

「ヨツバの情報はとても正確で有用だ。俺が損をすることは無いし、そこはヨツバが心配しなくてもいい。もし気になるなら、積極的に情報を得るようにしてくれたら有り難い」


積極的に?

「ビーストが、姿を現す場所と時間を探せばいいの?」

「そうだ。頼めるか?」

「…………」

出来るかしら。

今日のように偶然見つけることはあるかもしれないけれど、探そうとして見つけられるものなのか。

でも、見つけられたら、役に立つのよね?

いつ、どこにビーストが現れるのか。事前に知ることが出来たら被害を減らすことが出来るわ。

ライドさんたちが今日みたいに退治してくれるのだもの。


「ビーストの情報は高く売れるが、ビースト退治を生業にしているハンターは荒くれ者ばかりだ。あんたのような若い娘が対等に渡り合えると思わない方がいい」


悩んでいた私にそう言ったのはセスさんよ。

どういう意味かしら?

首を傾げていたら、ジェリーさんが補足するように言ったの。

「つまり、ライドの申し出は、君にとってとても良い話だってことだよ。怖い思いはしたくないでしょ」


そうか。

私がビーストの出現を予見出来る可能性があることが知れ渡ったら、荒くれなハンターさんがやって来て、「知ってる情報を出しやがれ!」とか、「痛い目に遭いたくなかったらちょっと顔貸しな」とかって恫喝されたりするよ、ってこと?


やだ、怖っ。


べ、別にね。フリーな感じで情報を売った方が高く売れるんじゃないか、とか。なんか、そういうの、ハードボイルドな小説とかに出てくる「情報屋」みたいでカッコイイかも、なんて考えて無かったわよ?

本当よっ?!


思わずナンシー先生を見たら、

「ライドさんたちはとても信用出来る方たちよ」

って微笑んでいるのよ。

折り紙付いちゃったわ。それならもう、断る理由が無いわよね?


「えっと、よろしくお願いします」


ぺこっとお辞儀をしたらライドさんはまた微笑んだ。

なんていうか、お兄さんみたいね。

…お兄ちゃん。どうしてるかしら…?


「こちらこそよろしく。これは専属契約の証だ。これをしてれば他のハンターに何か言われることも無いだろうから、必ず身につけているといい」


ライドさんはそう言いながら自分がしていたネックレスを外して私の首にかけてくれたの。

これが、専属契約している印になるのね?

金色の、何かの紋章みたいなペンダントトップに青い石が付いてるわ。

なんか、高価そう?


あら?


セスさんがぎょっとしたように目を開いて見ているわ。よく見たら、ジェリーさんも唖然と言葉を失っている感じだし、ナンシー先生なんて口が開いちゃってる。

顎が、落ちちゃうわよ、先生?


これ、やっぱりすごく高価なんじゃないかしら。

高価なものを預かるのなら、無くさないよう気を付けなくちゃね。言われた通り、肌身離さず身に付けておくことにするわ!


よし、頑張ろう。ビーストを見つけられるよう、工夫してみるわ!


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