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ビースト

それは、神話に出てくるキマイラのような見た目をしていたわ。頭がライオンで胴体はヤギで尻尾がヘビってやつよ。

「頭がライオンで胴体がヤギ」って最初に本で読んだときはどうして胴体だけでそれがヤギだと分かるのか不思議だったの。でもライオンだけでなく、ヤギもヘビも頭があるのね。ライオンの頭とヤギの頭が並んでついていて、前足はライオン、胴体から後ろ足がヤギなんだわ。そう言えば、以前に遊んだことのあるRPGに、そんなエネミー出ていたわ。


ビースト狩りをするハンターさんって、どこにいるんだろう。猟友会みたいなものがあったりするのかしら。

デイジーホームに帰って、先生たちに聞いてみよう。

ハンターさんに連絡を取って、ビーストを退治して貰えばいいわよね?


よし、急ごう。

さっきのお客さんが本来ビーストと遭遇する時間までもうあまり余裕がない。誰か他の人が出会っちゃわないうちに。

走れ!


「先生!」

ああ。久しぶりにものすごく走っちゃった。

息が切れてるし足が痛い。足の裏はもちろんだけど、スネのあたりがとても痛いわ。これ、絶対に筋肉痛になるやつよ。


ホームに駆け込んだら、園長のマーサ・エア先生が驚いたように私を見たわ。

ホームの建物は玄関を入ってすぐのところが吹き抜けのホールになっていて、読書をしたりちょっとしたお客さんの対応が出来るようテーブルや椅子が置かれている。


マーサ先生は一人じゃなかったわ。二十代半ばから後半くらいの男の人が2人、テーブルで一緒にお茶を飲んでいたの。

いけない。お客さまだったのね。


「まあ、ヨツバちゃん。息切らせてどうしたの?」

マーサ先生はおばあちゃん先生なの。優しいけれどキビシイところもある、「先生」らしい「先生」よ。

若干、目がつり上がった気がするわ。

「あ、いえ。お客さまなのにお騒がせしてごめんなさい。メリナ先生やナンシー先生はどちらですか?」

お客さまの相手をしているマーサ先生にハンターさんへの連絡方法なんて聞けないものね。


一応、お客様にもペコリと頭を下げる。

奥に座っているのは、短い黒髪で額を出した凛々しいっていうか、精悍な感じでガタイの良いおじさ、えーと、ちょっと歳が上のお兄さん。手前に座っているのは浅黒い肌をした、目元がきりっと切れ長でひんやりした雰囲気の、やっぱりちょっと歳が上そうなお兄さんね。ライオンみたいな長めのミディアムヘアが、このひとの雰囲気にとても似合っているわ。

でも、維持するのは大変な髪型よね。オシャレなひとなのね、きっと。

奥のお兄さんは笑みを浮かべていて、子供が好きそうな印象よ。でも、手前のお兄さんからは「俺は絶対に笑わない」という密かな気概を感じるわ。


あら。でも。ふたりともイケメンだわね。


つい、じっと見つめそうになったとき、それを咎めるようにマーサ先生が言ったの。

「メリナ先生は明日売る分のクッキーを焼いているはずですよ。ナンシー先生は子供たちとお散歩です。ヘリングの丘まで行ってくると言っていました」

「ヘリングの丘?!」

それって、ヘリングの街道を通るじゃない!

私、真っ青になったと思うわ。

「ヨツバちゃん? どうしました?」

怪訝な表情のマーサ先生に、私、思わず詰め寄った。

だって、お客さまに遠慮している場合じゃないもの!

「ヘリングの街道にビーストが出ます。ビースト狩りをするハンターさんってどうやったら連絡取れますか?」

「ビーストが…!」

マーサ先生もさぁっと青ざめた。


すると、ガタンと音を立ててお客さまの男性2人が立ち上がったの。

「俺たちが行きますよ、先生」

力強く言ったのは、ガタイのいい方のひと。

褐色肌のひとも素早く身支度を整えて、ささっと外に出て行ったわ。

「お願いします!」

マーサ先生は立ち上がると、そう言って頭を下げたの。

あら。

このひと達、ハンターさんだったの?

なんて好都合なのかしら。

短髪のイケメンお兄さんは、

「ヘリングの街道だな? すぐに向かう。心配するな」

そう言って、ぽんと私の頭を撫でたの。

立ち上がると背が高いのね。見上げてしまうわ。


「ライド」

玄関からかけられる声は先に出たひとのもの。どうやら馬を準備していたようね。

馬か。

私もついて行きたい。でも、馬について行くのは無理だわ。

子供たちとナンシー先生が心配だからヘリングの街道には行くつもりだけれど…。

ああ、もう! この世界、自転車無いんだもの。馬車はあるのにね。

うん。私は走って向かおう。ハンターさんたちには、とにかく早く行ってもらわないとね。

よし!


うん…?


気合を入れた私の前に大きな手のひらが差し出されたわ。

「一緒に行くか?」

「え?」

「ライド?!」

驚いた声をあげたのはマーサ先生よ。少しだけ非難めいた響きがある。


足手まといになるかもしれない。でも、連れて行ってくれるなら。

「はい!」

私はその手に飛びついた。



ひえぇぇぇぇっ!


馬の乗り心地って、初心者にはなかなかキビシイものがあるわね。

忘れてたけれど私、絶叫マシーン系の乗り物苦手だったわ。やっばい、怖いぃぃ〜!

わ! 飛んだ! 落ちるっ! うわっ! この身体が浮く感じとGがかかる感じがキライよっっ!!


そろそろヘリングの街道だわ。

ここは切り通しなの。ヘリングの丘を掘削してその向こうのモーレイの街への通り道になっているのよ。

馬車がやっとすれ違えるくらいの道幅しかないから、ひとも馬車もあまり通らないの。


ナンシー先生と子供たちは…、あ!

「いた! あそこ、ナンシー先生だわ!」

良かった、間に合った!


「先生ー! ナンシー先生ぇー! あがっ」

「気を付けろ、舌を噛むぞ」

もう噛んじゃったわよ! 忠告遅いわっ。


うう、痛い。

ビーストに気を取られていて自分のこと見逃したわ。

まあ、でも、こういうことは割とあるのよ。


蹄の音に気がついたのね。ナンシー先生が振り返ったわ。

足を止めたナンシー先生たちに、私たちはすぐに追いついた。

「ライドさんにセスさん、それにヨツバちゃんまで。一体、どうしたの?」

「ナンシー先生、ここは危ないわ。すぐにどこかに、…っ?!」

馬から降ろしてもらって、すぐにナンシー先生に駆け寄った。その直後に、見えたわ。


「どうした?」

馬に乗せてくれたガタイのいいお兄さんはライドさんというみたいね。

私はライドさんに後ろの茂みを指差して言った。

「来るわ。あそこよ」

「分かった。下がっていろ」

馬は2人が指示を出すと自ら茂みの方に行ってじっとしているの。すごいわね。とても良く訓練されているんだわ。


私も先生や子供たちの手を引いて茂みに隠れる。

「なんなの、ヨツバちゃん?」

「ビーストよ、ナンシー先生。危ないから隠れてないと」

「ビースト!?」

「しー」

ぎょ、っと目を見開いたナンシー先生が子供たちをぎゅっと抱きしめたわ。

私は茂みの影からそっと街道を覗き見た。


ライドさんとセスさんが構える先の茂みが、ガサガサと音を立てて揺れているわ。

茂みがガサガサなる音がどんどん大きくなるの。つい、息を詰めちゃう。


「ーっ!」

出た!

未来視の力で見た通りの獣よ。

うわぁ、がうがう言ってる。でっかいし、ライオンの頭とヤギの頭、両方あるってやっぱり不気味。

ライオンは猛獣って感じだけど、ヤギってあんなに禍々しい生き物だったかしら。

尻尾のヘビも首もたげて攻撃してるし、やっぱりすごく危険な獣なんじゃない?


でもね、ライドさんもセスさんも余裕がある。

ビーストの退治に慣れてる感じがするわ。

ふたりとも銃を構えて…。って、銃?! 銃があるのね??


なんかちょっとほっとしたわ。

あんな獣相手に剣とかナイフとか斧とかの近接武器しか使えなかったら、無傷で倒すなんて無理ゲーだもの。


ふたりの連携もすごいわ。戦闘とかよく分からないけれど、すごい。映画みたい。

私、アクションゲームとか格闘ゲームとかってとにかく強キャラ使って攻撃一辺倒、駆け引きとか戦略とか防御とか考えるのメンドクサイってなって、やられる前にやるってタイプなんだけど、このふたりはきっと、プレイヤースキルを駆使してノーダメでクリアするタイプだわ。


乾いた銃声が数発響いて、ビーストがよろめいた。

すかさずセスさんがビーストに近づいて、短剣でビーストの喉を掻き切ったわ。


血がたくさん飛び散って、横倒しに倒れたビーストは動かなくなった。


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