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きっと僕らは君の為…  作者: よろず
ヘビのあし
7/7

素直に

 オレの机に来た幸成が突然、泣き出した。オレは溜息吐いて、苦笑してる友人達を追い払って前の席に座るように幸成を促す。最近よくあるから、オレの友人達ももう慣れたみたいだ。


「で?今日はどうした?」


 制服の袖で涙拭ってる幸成は酷い顔。


「何を、どうしたらいいやら…水瀬さん、怒らせちゃったみたいで……」


 側で聞いてた月穂に目配せすれば、苦く笑った月穂はオレの意図を察して教室を出て行く。

 幸成と水瀬はまだ、恋人なのか曖昧な関係だ。まるで中学生同士の恋愛。二人で話すのは本の事。隣に座るだけで二人は真っ赤になるくらい、純情だ。


「詳しく話せ。何をどうしたらどんな反応が返って来た?」

「えと…普通に、いつもみたいに話してたんだ。そしたらなんか、水瀬さん、不機嫌になって…」

「その会話の内容は?」


 幸成の話を聞いて、オレは頭を抱える。ギャルゲー好きで、ゲームで恋愛シミュレーションしてたんなら女の合図ぐらい気付けよっていつも、幸成に呆れる。


「どうして名字なの?って聞かれたんだろ?そこでどうして名前呼びに持っていかない。」

「だ、だってそれってなんか…馴れ馴れしいじゃないか!」

「でも最初は"しおりちゃん"って呼んだんだろ?」

「それは…だってなんか、まだゲームって感覚が抜けてなかったから……」

「このヘタレ!水瀬は月穂が宥め行ったから、連絡来たら突撃するぞ。心の準備をしておけ。」

「なんの?」

「名前呼びだよ。」

「えぇ?!無理!恥ずかしいよ!」


 真っ赤で狼狽えてる幸成は放置して、オレは月穂に状況確認の連絡を入れる。向こうでは何故か、新堂も一緒に恋愛相談に参加してるらしい。あのチビが相談役になれるのか心配だ。

 新堂は引っ掻き回す方が好きだと思う。


「ややこしくなる前に、行くぞ。幸成は水瀬にちゃんと気持ち伝えろ。多分、不安にさせてる。」

「うぅ…無理だよぅ。ぼ、僕なんて……」


 しくしく泣き続けるヘタレを引きずって、向かったのは図書室。水瀬はいつも、ここにいる。

 図書室入って奥に進んだら、女が三人固まってた。オレらに真っ先に気付いたのは月穂で、オレに襟首掴まれてる幸成見て苦笑してる。


「胡散臭い男とヘタレ男の登場ですぅ。」

「新堂はなんでここにいるんだ?」

「面白おかしく傍観する為なのですぅ!」


 こいつは可愛いウサギの皮被った鬼畜だと、オレは思う。


「傍観ってのは、手も口も出しちゃダメなんだぜ?」


 うさ耳みたいなツインテールを掴んで、新堂を立たせる。代わりに幸成を押し出して、背中を蹴ってやる。

 恨みがましい視線には鋭い視線で返して、やれって無言の圧力。


「みぎゃー!髪がぁ!月穂せんぱい助けてなのですぅ!」

「はいはい。しー、ね?」


 うさ耳放したら新堂は月穂の背中に隠れる。こいつは何処が一番安全かを知った上で隠れて、オレに舌を突き出しやがった。


「塩谷くん、どうしたんですか?」


 水瀬は常に無表情。でも幸成に向ける瞳の温度が普段より低い。それに幸成はたじろいで、また涙目になってる。


「あ、あああの!ぼぼぼぼ僕…」


 あまりにも吃ってるから、心の中で応援したくなるじゃねぇか。

 クソ。頑張れ。


「し、しししししししししお……り、さん………」


 後半蚊の鳴くような声。だけど水瀬はぴくり、反応して幸成をじっと見つめる。


「ぼぼぼ僕…好き、なんだ。本当に……しお、りさんが、好きで……。だめだめで、ごめん。がんばるから…怒らないで……」


 真っ赤で震えた声で、幸成は言った。

 水瀬はというと赤くなって、花開くみたいに、笑う。


「私も、あなたが好きです。幸成、さん…」


 まったく手の掛かる。

 幸成は水瀬の笑顔見て、号泣した。


「不器用なあなたが、可愛いと、思います。子供っぽく拗ねたりなんかして、ごめんなさい。」

「い、いいんだ。僕、こういう事、よくわからなくて…察したり出来なくて、ごめんね。」

「名前、もっと、呼んで下さい。」


 月穂がした水瀬へのアドバイスは多分、"素直に気持ちを口に出せ"だな。月穂に視線をやったら、目を逸らされた。耳が赤い。


「しお、りさん…しおりさん…」

「はい。幸成さん。」


 泣いてた幸成に水瀬がハンカチ差し出して、受け取った幸成も照れたみたいに笑う。

 さてオレらは、退散するタイミングかな。

 月穂と新堂を無言で促したら二人はついて来た。


「あー、甘酸っぱかった!」


 楽しそうに笑った新堂はぴょこぴょこ駆けて去って行く。その背を見送ってから、オレは月穂の腰を掴んで抱き寄せた。


「経験者は語った?」


 囁けば、赤くなった月穂のパンチが顔面向かって飛んで来る。でもオレは食らわずガードして、そのまま抱き寄せてキスをする。


「素直に口に出せって。」

「っ…こ、こんなとこでキスはイヤ!」

「知ってる。でもあと一回。」


 壁に月穂の身体押しやって、オレはニヤッて笑う。平手打ちがこないのは許可だ。


「お前、ほんと可愛過ぎる。」


 キスしたのは、月穂のおでこ。

 可愛い子には意地悪したくなる。

 涙目な月穂の抗議の視線を見返して、オレの笑顔は蕩ける。

 調子乗って深く何度も口付けたら、照れて怒った月穂の拳が腹にめり込んだ。


 "素直に口に出せ"はお前だ。

 でもそこが、可愛いんだけどな。

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