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とらいあんぐる おあ へきさごん  作者: 高槻
さわがしい なつ
29/51

番外・その時の彼ら7

体育祭、健視点。

体育祭だとか文化祭だとか、イベントは本当に憂鬱だ。

 確かに友達と騒げる時間は短くて、こういった時くらいしか羽目を外せないってのはわかる。俺だって、純粋に楽しみたいさ。でもな。


「まあ、なんだ……。どんまい……」


 下駄箱の前で立ち尽くす俺に、正悟が言葉を選んでかけてくれる。それがとても痛い。


「……笹木」


「はぁい、呼ばれて飛び出て笹木です」


 笹木は、なんだか知らんが俺に傾倒しているクラスメートである。恋愛感情では無いらしいんだが、色々と俺の役に立ってくれている。


「処分を頼んで良いか……?」


「もっちろんだよ! 今年はやっと尻尾を掴めたから、入れた犯人ごと処分できるけどどうする?」


「まじか……」


「まじです」


 犯人が分かったらどうしてくれよう、とか考えたこともあったが、実際に犯人がいるとなると恐ろしいものがある。いっそ悪魔の仕業とかのほうが良かった。だって、人間が、しかも同じ学校に通ってるやつがコレを入れてるんだぞ? 一気に生々しい恐怖が這い上がってくる。


「犯人はとりあえず放置でいい……。とにかくコレを今すぐ処分して欲しい」


「ラジャでっす!」


 笹木の手により、おぞましい物は視界から去った。あー、助かった。後日何か礼をしよう。



 気分は最低のまま、着替えて体育館に集合する。

 もうこれは樹を見て和むしか無い。そうじゃないと正悟に負けてしまいそうだ。それほどまでに心が折れている。

 かったるい開会式が終わって一年の列に向かうと、愛しの樹の傍に見知らぬ男がいた。樹の顔はにこやかで、仲が良いようだ。だが樹! そいつの顔を見てみろ! どう考えてもお前に好意を抱いているだろうがァ!! 笑顔なんて安易に振りまくものじゃありません!!

 そいつが離れて行ったことを確認して、樹を背後から抱き締める。今回は、肘を受け止めることに成功したので、ダメージも無い。


「おい、今の誰だ?」


「うわっ、びっくりしたー! ちょっと突然話しかけるのやめてってば。」


 文句を言ってくるが、今はその話をする時では無い。俺は視線で樹に答えるよう促す。


「隣の席の我妻君」


 ほほう、隣の席の我妻君、とな。どういうことだろう、琴美からはそんな仲の良い男子生徒の話は聞いていないし、そんな交友関係も認めたことはない。そう思って睨んだら、琴美は呆れたように首を竦めた。


「クラスメイトとの会話を認めないほど 、私は狭い人間じゃないですよ。あ、でもサッカーなんで宜しくお願いします。」


「分かった。」


 宜しくしてやろうじゃないか。俺の機嫌は最高に悪い。ぎったんぎったんにしてやる。




 と、思っていたら正悟に倒されちゃいました。

 この野郎! 俺の怒りはどこへ向ければいい!?

 仕方ないから、自分の対戦相手にぶつけるか。そう考えてコートに入ると、笹木が朗報を伝えてくれた。


「健くーん、妹ちゃん連れてきたよー!」


「なに! 良くやった笹木!」


 そちらへ向かうと、困惑顔の樹が応援用のうちわを持っていた。


「遅いよ。試合始まる前に会えないかと思っただろう?」


「人垣を越えられなかったんだよ……。ほら、試合始まっちゃうよ? ……兄ちゃん、頑張って」


「うん、勝ってくる」


 なぜか照れている樹に、俺の怒りは収まった。

 もうなんだこの子は。本当に俺の弟…今は妹か…なのか!?

 もともと勝つつもりだったけど、これは絶対勝てる。



 ■ ■ ■



 当分自分の試合は無いし、応援返しということで正悟を連れだって樹の試合を見に来た。

 体育館の中は直射日光は無いものの、人の熱気で蒸していた。

「あちー。バレーはステージ側か」


 コート内では、樹たちが円陣を組んでなにやら喝を入れている。


「あっれー、喜成じゃん。なに、お前も樹たちの応援?」


「はい」


 正悟が見つけた喜成も、二人の応援に来ていたらしい。クラスが違うというのに、こいつらの絆というかなんというかは未だに健在のようだ。どうせ同じ相手を応援するのだからと、喜成も引っ張り込む。

 なかなか始まらない試合に首を傾げていると、琴美と樹がこちらを振り返った。


「樹、頑張れー!」


「琴美ー、バスケ部の根性に懸けても負けるんじゃねーぞ。」


「分かりましたから、先輩方どっか行ってくださーい。うちの子たち、緊張してガチガチですよー、もー。」


 琴美の言っている意味がわからない。応援に来たというのに、どっか行けとは。琴美め、先輩に対する敬意ってもんが足りないんじゃないか? と思ったら樹までひどいことを言い出した。


「兄ちゃん、しょう兄ちゃん、直ちに消えて!」


 消えてってなんだ、消えてって!


「えー! 樹の勇姿を見に来たのに!」


「じゃあ私たちから見えない所で観戦してて! そうじゃなきゃ、決勝の応援行かないからね!」


 ガーン、という効果音が、今の俺には最もふさわしい……。

 なんなの、応援に来たのに……。

 でも樹が応援に来てくれないのはもっと嫌だったから、俺たちは喜成を引き連れてその場から立ち去った。




 そしてやってきたのは、放送席!

 ここは放送部しか入ることができなくて、なんとステージの上部にある部屋なのだ。見晴らしは良い。

 なんでここに入れたかっていうのは、まあ、なんだ。入っていい? って聞いたら放送部の女子たちが入れてくれた。入れてくれたんだから良いだろう。


「なんで女子のバレーって、そこはかとなく可愛いんだろうな」


 正悟がなんか言っているが、俺は樹を見るのに忙しくて答える暇などない。だが心中では答えてやろう。女子が可愛いのではなく、うちの樹が可愛いのだ!


「あっ、樹、Tシャツの裾入れてない!」


「おい、よく上からわかるな……。大体、入れパンはダサいだろ、どう考えても」


 ダサいとかダサくないとかの話ではない!


「へそが見えてしまうだろうが!」


「何、よく見せろ」


「うるさい、お前なんぞに樹の腹チラを見せてなるものか」


「なんだよケチー! 昔は散々見たっつーの! 今だって良いだろうが!」


「今と昔では違うわボケ! 樹は今は嫁入り前の娘なんだ!」


「お前は樹の親父か!?」


「二人ともやめてください……。恥ずかしくて居た堪れないっすよ、俺……」


 正悟とギャアギャア言い合っていたら、喜成に止められた。


「はあ? お前も男なら、これくらいの煩悩の一つや二つ持ってんだろうが」


「持ってるのとさらけ出すのは別ですよ……」


 確かにそうかもしれない。



 ■ ■ ■



「健先輩、正悟先輩! いっちゃんが!!」


 琴美が慌てた様子で駆け込んできたのは、男子ドッジを冷やかしに行っていた時だった。




 樹が怪我をしたと聞いて、心臓が冷えた。慌てて保健室に向かうと、大きな氷嚢が真っ先に目に入った。

 部員が怪我をした時だって、こんなに慌てた事はない。

 樹が喜成に病院へ連れて行かれ、少し冷静さを取り戻した頭で琴美の話を聞く。


「ただ転がっただけのボールで、転ぶわけねーだろ」


 眉をしかめている正悟も、俺と同意見のようだ。コートでは試合は始まっていなかったと言うし、意図的にボールを投げたとしか考えられない。


「これは笹木の出番だな」


「ああ、犯人締め上げてやる」


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