番外・その時の彼ら6
体育祭、正悟視点。
琴美から、毎朝三人が近所の地蔵前に集合して登校しているというのを聞いて、俺と健は今日からそれに付いて行くことに決めた。
だって球技大会近いし。健を愛してやまないヤバい奴らが、樹に何か仕掛けてきたら困るし。
もちろん、琴美も危険な立ち位置なんだけどね? あの子は上手く立ちまわれるから。
でも樹は駄目だ。今までも色々迷惑は被ってきただろうけど、それは男としての迷惑だった。女ってのは、男への対応と女への対応に差がある。樹はそれを知っていない分、危ない。
俺はねー、結構キャットファイトを隠れて見てきましたから。
隠れてってのがミソね。男の目の前でやる奴いないし。だから、女の子とは付かず離れず、皆平等に対応するよ。
集合場所には、俺と琴美と喜成。喜成はあまり口を開くタイプじゃないし、琴美は樹はまだかとそわそわしている。俺はぼんやり地蔵の穏やかな表情を見て時間を潰していると、樹と健が俺たちを見つけて駆け寄ってきた。
「なんで二人もいるの?」
一通りの挨拶をした樹は、俺と樹に付いてきた健を見比べて、きょとんと問う。
「樹に悪い虫が付かない様に、監視するべくだな、」
「うざい」
うんー、確かにうざいけど、健見事に撃沈してる。
「樹ちゃん、そう言ってやるなってー。他にも理由があるからさ、とりあえず行こうぜ。遅れても仕方ないし。歩きながら説明するよ」
そう言って、自然な流れで樹の隣に付いたと思ったのに、冷たい空気に背中から刺された。
「あ、正悟先輩。いっちゃんの右隣は私の定位置なんで、避けてもらっていいですかー?」
冷気の発生源は、琴美だった。笑顔だけど笑ってない。琴美は樹のことになると、昔っから怖い。最近は特に怖い。俺たちのこと先輩として敬ってる感、殆ど無ぇし!
「……じゃあ、俺は左隣な」
「ふざけるな正悟。樹の隣は俺に決まってるだろ」
琴美に逆らうのは、樹とこれから関わる上で上策では無い。そう考えて、俺はすぐさまそのポジションを開け渡し、反対側にまわった。しかし、それは健に阻まれる。
「いやいや、それこそなんの冗談? 俺だろ俺」
お前ら家一緒なんだから、登校の時くらい離れてたってかまわんだろうが。
そう思うが、健は譲ろうとしない。この重度シスコンめ!
言い合って樹に詰め寄るが、樹はさらりとした顔で爆弾を投下した。
「いや、私の左隣は喜成だし。」
嫉妬の炎というものが現実に存在するなら、喜成は一瞬で消し炭になってただろう。
なんとか奪い取ったポジションで、どうして俺たちが登校を共にするか、その説明を始めた。
「そろそろイベント近いだろ?」
「イベント?」
首を傾げる樹と琴美に、一年はまだ情報が足りないかと納得する。
「西高は、そろそろ球技大会があるんだ。多分、今日のLHRで種目分けすると思う。」
昨日、体育委員が臨時招集かかってたしな。もうそんな時期だ。
「それで、球技大会とか文化祭とか、そういったイベントの時ってのは、ファンが暴走しやすいんだよな。浮かれるのはわかるんだけどなー。告白からプレゼント攻撃まで目白押しなんだ。お前らも気を付けろよー」
喜成は確実に怒涛の一日だろう。琴美はそういうのあしらうの上手いけど、今年はまだ、琴美の性格を知らない奴らばっかりだから、琴美も面倒くさいことになりかねない。
樹に至っては、自分がそんな境遇になることすら頭になさそうだ。今だって、自分は関係ありませーん、みたいな顔してるし。無自覚のせいで琴美より手を出しやすそうなの、わかってねーなこいつ。
多分言っても納得しそうにないので、別方向から注意を促すことにした。
「で、だ。健の怖~い陰湿なストーカーが、樹に嫌がらせをするかもしれないだろ? だから俺たちがそんなことさせないように見張ろう、と。」
「うっわ~、すっごい巻き込まれ損」
「ごめんな。でも俺がしっかり守るから……」
顔を顰めた樹の頭を撫でながら、じっとその瞳を覗きこむ。落とすつもりで使ったんだけど、すぐに琴美の横やりが入った。
「ちょっと正悟先輩、いっちゃんを誘惑しないでくれます~? いっちゃん純情乙女なんですから」
「あ、ばれた?」
「バレバレですよー。大体、学年も部活も違う正悟先輩と健先輩が守りきれるわけがないんですよ。教室では私がばっちり守りますから、ご心配なく! 部活はよしくん! 任せたよ?」
「任された。」
「喜成~、くれぐれも頼んだからな?」
「は、はい。」
こわーい顔で健が喜成に告げる。どうやら、この前俺が言った「幼馴染は王道」ってやつが引っかかってるらしい。俺も威圧足しとくか! 手ぇ出すんじゃねえぞ、喜成。
■ ■ ■
体育祭当日。
今年も口には出せないようなものを贈られた健を慰めつつ、体育祭は開催された。
初戦は樹たちのクラスだった。最初はな、手加減してやろうかなとも思ったんだが。
「我妻、だったっけ?」
琴美に頼まれちゃあなあ。先輩としてはそれに応えねばなるまい!
って感じでついね! つい本気でかかっちゃってさ!
ミニゲームであんなに点取れるとは思わなかったわー。
「次は正悟の試合だー! 集まれ乙女どもー!!」
待機してたら、そんなアナウンスが流れた。ふざけんなよ体育委員。つうか塚城。お前あとで覚えてろよ…!
コートに寄ったら、試合を終えた健と樹がなんか話してたので、割って入る。樹の肩を掴むが、なんだろう、やっぱり女子の肩なんだよな。骨ばってもなく、筋肉で固いわけでもなく、柔らかい。少し二の腕にずらしたら、もっと柔らかそうだ。
「樹、俺のことも応援してくれるって言ったよな?」
「はいはいわかってますよ。ちゃんと応援します。兄ちゃん倒す勢いで頑張ってください」
「おう!」
「えー……」
健が不満そうな顔をしたが、知ったこっちゃない。大体、健ばっかり独占するのもいけないと思うんだ、俺は。
しかし、こんな投げやりな応援ではちょっと物足りない。
こう言う時にかこつけて、色々させるのが楽しみってもんじゃないの。
「ねえねえ樹。応援するに当たって、ちょーっとお願い聞いてくんない?」
「はい?」
怪訝な顔をする樹に、少しだけ笑いが漏れる。
「やだなー、そんな変なお願いなんてしないよ? ただちょーっと呼び方を変えてくれるだけでいいんだ」
「……どんなですか?」
「昔みたいに、『しょう兄ちゃん』って呼んで?」
「……えっ!?」
「ほらほら、言ってみ?」
「え、え、ええ~? しょ、しょう兄ちゃん?」
言わせてもらって良いかな。
ほら、樹と俺って身長差あるじゃん?
てことは、見上げてくるわけじゃん?
で、照れてるわけじゃん?
もうね。もう、ね。
なにこの破壊力。
「しょう兄ちゃん、頑張って」
「……ッ!! おう!」
そんなん、勝利しちゃうに決まってんだろ!
またぼちぼち更新していきます。
亀ですが、よろしければごひいきに。




