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IKAZUCHI  作者: 雪 渓
2章-奈良旅行-
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出会いと戦い

 駿太郎たちが「中心部」へ到着した頃にはその一角がすでに破壊されたあとだった。


「くそっ。先を越されたか!」


 肩で息をしながら、駿太郎の怒気と共に悔しさをはらんだ目が破壊された壁を見る。


「まあ、そういうな。内部からは通信ができないようになっている。つまりここに結界を張って待っていれば......」


「狙われている情報(データ)を奪われることはない。わかってるよそんなこと」


 たしなめる泰然(たいぜん)に、駿太郎が腹を立てるように言った。


「山城先輩。緑谷(みどりや)さんにそんなこと言っても意味ないっすよ。今は絶賛後悔中なんですから」


(てる)くんは落ち着いてるのねぇ」


 氷華は感心したように言った。


「いや、そうでもないですよ。ちょっとSなだけですから」


「おい輝善(テル)。先輩には言ってもいいことと悪いことがあるんだぞ。それに氷華、そこは感心するとこではない」


 泰然と共に結界を張りながら駿太郎が言った。だが顔は笑っている。


「まあ、駿太郎(こいつ)、緊張も取れたみたいだしいいんじゃないか」


「ああ。だが上層部(おやじたち)へはなんて言えばいいんだ。まだ『中心部(ここ)』に国防軍がきていないということは気付いていないということではないか?」


 駿太郎が訝しげに問う。


「いや、多分そうじゃないわ。ここにくるまでにも何人かの大陸系の軽装兵がいたわ。と言っても装備は銃だけだったけど。

 彼らは恐らくもともと要塞にいた人たち。要塞内の国防軍は、今日未明に入ってきたトラックに積まれていたと思われる『正規軍』の対応に行ってるんだと思う」


 氷華が考えながら自分の意見を話す。


「確かにそうだろうな。こっちは俺たちがいるわけだし、力は割けないんだろうな。さてと、地上の結界は張り終わった。あとはこの壁をぶち壊した奴らが出てくるのを待つだけだ」


 そういって泰然は顔を上げた。


 ほかの四人の顔も引き締まる。

 

 たまに銃声や爆発音が聞こえてくる以外にしんとした空間で、急に大人数が動いた気配がした。

 そして、それを真っ先に感じ取ったのは輝善だった。


「さて、先輩方。憎き侵入者(えもの)がきましたよ」


 一陣の風が吹き、黄金色の髪が風になびく。巨大な魔力が破裂するようにあたりに広がった。


「さぁ。戦闘(パーティー)の始まりだ」


 ニヤリ。と顔に笑みを浮かべて、輝善が静かに言い放った。


 


   ◆◇◆◇◆◇




 地下に降り「中心部」のさらに中心に侵入して、機密情報(データ)を盗み出した。そこまでは何の問題もなかった。

 だが、ちょうどデータを奪い取ったとき、地上で魔力が動いたのを感じた。


「上がるが、敵がいる。気を引き締めろ」


 返事はない。それでも洪成は、皆が頷いたのがわかった。


 音もなく、彼らは外に出て行く。まずは地上を目指して。


 とはいえ、それはすぐだ。青瑛の拳をしたに向けて打てば地下まで続く大穴があき、洪成たちはそこから入ってきたのだ。そこを駆け上がって行くだけだからたやすいものである。


 地上に出た。やはり周囲は結界で囲まれている。それもちょっとやそっとで破れるような貧相なものではない。


 目の前に転がる青瑛によって砕け散った壁の破片を見ながら洪成は思った。


 恐らく青瑛の力を持ってしてもこの結界を打ち払うのは無理であろう。そうなれば、術者を叩き潰し、強制的に魔法を止めるしかない。


「結界の術者を速やかに殺し、ここを出る。行くぞ」


 これは単なる命令に過ぎないこの言葉に、様々な意味があるということは皆わかっているだろう。


 例えば、結界が張られているということが、結界(その)中で洪成たちを仕留めようという相手側の意図に繋がること。

 そしてこの結界の強度を考えれば自分たちと戦えるだけの力を備えていることを。


 気を引き締めなければ。と自分に喝をいれて進む。


 青瑛が最初に鬼神の力(ゴッド・フォース)を使った場所。つまり「中心部」への入り口に近づいた時。一気に体に緊張が駆け抜けた。


 不適に何かを呟く金髪の少年を中心に、5人の男女が立っている。


「............まりだ」


 目を見張る、とてつもない魔力が無造作に撒き散らされる。


 だが、その中心にいた彼は若かった。


 とてつもなく若かった。彼らは自分の半分も生きていないだろう。


 そこから立ち上る闘気は一級品である。賞賛に値する。洪成は素直にそう思った。


 ......ただし一方的な上から目線で。


 確信的な自らの勝利のもとに。


 彼らの力では、私たちを相手にすることはできない。確かに彼らは強力であるだろうが、数の上でも、実戦経験の上でも自分たちの方が上だ。それは単につけあがっている訳でなく、客観的にみた戦力の差。


 少年少女5人に対して15億人以上と言われる人の海から()りすぐられた30人の魔術師。


 その力の差は歴然としていた。ーーもし少年少女たちがただの少年少女であれば。


 洪成は思う。恐らく二人の大男が結界を張ったのだろうと。感じる魔力が結界のそれと似ていた。




   ◆◇◆◇◆◇




 コンクリートの上で対峙していた二つの勢力の間で「気」が満ち......洪成が動いた。


 それに彼の隊員が続き、他の隊もそれぞれの獲物に向かって歩を進める。洪成の後ろにいる5人の手には、いつの間にか細身の短剣が握られている。


 反射的に右手を敵に向けた輝善(てるよし)が顔をしかめた。


 20メートルほどあった距離は、既に無くなっている。


 洪成の拳が輝善の眉間を狙う。ギリギリでのけぞり、それをかわす輝善。左右から剣が彼の体に迫る。のけぞったままの輝善は、何を思ったかそのまま自分の背中を地面につけるように倒れこんだ。結果的に、左右から直線的に突き出された短剣は空を切り、その攻撃をかわすことができた。

 しかし次が来る。

 地に倒れこむ輝善に天から5本の剣が迫る。


「テル!......」


 仲間の叫び声が聞こえてるこの状況においても、少年の顔は嫌な笑みを(たた)えたままだった。


 そっと地面をなでる左手。


 「砂陣(ディザート)......」 


 振り上げられ、突き落とされる剣が目的地へ届く前に、その軌道は弧を描いてその向きを変える。


 輝善の周囲で、地面が浮き上がった。


 否、浮き上がったように見えた。砂利を含んだ突風が、コンクリートの()から吹き上げたのだ。

 砂塵の中で輝善が立ち上がる。


 右手を上げた。

 

 風はそれと同時に止まり、吹き上がった砂が地面に落ちた。――共に吹き上げたられた五つの体と共に。

 見れば輝善の立つ地面に5つの柱を残して、クレーターが出来上がっていた。目算で半径は10メートル。ただし、翔の狂荒刃風(キル・ブラスター)を例に上げるように、術者である輝善の立つ場所はもとのままだった。そしてもちろん、彼の周囲にいた、氷華たちの地面も下刷りとあられることなく存在していた。


「武器の方は特殊な魔法をかけているのか魔法は通じなかったけど、要塞内(ココ)はは俺のフィールドだ。そう簡単には俺たちは死なない」


 伝わるのかどうなのか。目を見開き、輝善は告げる。5人を襲おうとした敵は、砂塵の壁によって攻撃を遮られすぐに攻勢には出られなかった。

 



  砂状にまで細分化されたコンクリートが辺りに積もっている。


 砂は輝善の魔法によってできたもの。


 自分を中心に球体の範囲を指定し、その範囲内に存在する無機物を自分の思う大きさまでの立方体に「刻」む。

 これが、彼の使用した魔法。「砂陣(ディザート)」。

 そして、舞い上げられた砂。これは智晴(ともはる)の魔法によるもの。

 広範囲一地点を対象に上昇気流を発生させ、人工的に竜巻を起こす魔法「陣風連(ツイスター)」。これによって、「砂」と共にすでに「五体」となった人間を持ち上げ、輝善が右を上げ終えると同時に魔法を解除したのだ。


「砂陣」では、輝善はもちろん、氷華たち4人の立つ位置より半径50センチを底辺に、そこから垂直に下の地面を円柱上に魔法の効果が及ぶ範囲から出す。といった技を見せ、智晴は輝善の魔法の発動と同時に自らの魔法を発動し、舞い上がる砂をその場でとどめておく魔法を並行して行っていた。


 一瞬、敵が怯んだうちに、泰然(たいぜん)駿太郎(しゅんたろう)は既に「中心部」に侵入した敵がいないことを確認して、自分たちが張っていた結界の効果範囲を狭める。こうすることによって、魔力の無駄を省き、これから始まる本格的な戦闘に備えるのだ。


 敵は5人を囲み、5人は自然と互いの背中を合わせることになった。

 性質の全く違う魔法を持つ5人の少年少女。

 先ほど自由落下した者たちは砂にうもれたまま動かな


 一人。他のものとは違うアーマーをつけた男の足が動いた。氷華が声にをだし、敵は全員動き出した。白銀と黄金に輝く壁が展開される。金髪の少年は突出し、堅物そうな少年は彼と他の3人の補助に回っった。


  大国の特殊部隊と小国の次世代の頂点たち。


 25人対5人。


 そこから本当の戦いの幕は降ろされた。

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