たちばなし
壁にもたれかかる輝喜は少しイライラしていた。
(何でさっさとこっちにこねんだ)
「中心部」の入り口に着いてから10分ほど待つと自分たちの前に二人の少年が現れたのだが、そこから輝喜たちを確認した途端、手元の端末とこっちとを交互に見て、なかなか動き出さなくなってしまったのっだ。
今それが5分以上続いていて、彼のイライラの原因となっているのだった。
今ではもう慣れたものだが、自分からはほとんど何もしゃべらない智晴と二人だけで一緒にいるのはあまり楽しいわけではないのだ。別に輝喜が彼のことを嫌っているというわけではないのだが。
泰然に面白から言ってこい言われて、ほぼ強制的にここまできているわけだで、前方には二人の少年がいる。
両方とも顔はイケメンと呼ばれる部類にはいるだろうということは遠目からでもわかった。シアンの目をした少年からは知的な印象を受け、もう一人の濃紺の髪の少年からは、ただならぬ何かを感じる。
だが、同時に輝喜には、どちらも幼さがまだ抜け切っていないようにも見えた。
はたして彼らが泰然の言った人物たちなのだろうか。それならば少し幼すぎないか。疑問は募る一方だった。
と、輝喜が上を向いて思案に明け暮れている間に間に向こうの二人がこちら側に歩いてきた。
「あのう......」
涼稀は思い切って壁にもたれかかる男の人たちに話しかけてみることにした。
あまり乗り気ではない周平を無理やりひっぱっていく。
「あ、おい、まってまって。ひっぱんなよ」
いきなりひっぱられて驚く周平を無視して涼稀は二人の前まで歩いて行く。
「あのう......」
「ん? おっと、すまない」
話しかけられた方は少し戸惑った様子で答えた。どうやら何か考え事をしているようだった。
「すみません、僕たち僕たち『中心部』に入ろうと......しているん......ですけど?」
「どうしたんだ涼稀」
何かに気づいて急に口を濁し始めた涼稀に周平が尋ねる。
肩を持って前後に振るが戻る様子はない。
「おい、熱でもあんのか? あ、すみません。こいつなんかおかしくなっちゃたみたいです」
目の前でぼーっとする涼稀の顔がだんだん高揚していくのをみて、呆気にとられている二人に周平が謝る。
「それはいんだけど、君たちは......」
しかし、彼が続けたかった言葉は、目を光らせながら勢いよく放たれた涼稀の言葉に遮られた。
「あの! もしかして朝日輝喜さんですか!」
「う、うん。そうだけど......」
あまりの熱気に気圧される輝喜はうなずくことしかできなかった。
「ああ、本物だ! こんなところで朝日さんに会えるなんて光栄です!」
「そ、それは良かった」
予想外の展開に少し戸惑った様子の輝喜と、一方時に話を続けて行く涼稀のやり取りでしばらくの時が流れて行った。
「おい、涼稀。そろそろいいだろ」
「あ、うん」
周平が、涼稀と輝喜のやり取りと、智晴の観察に飽きて涼稀に輝喜との会話を打ち切らせた。
「そうだ、話を元に戻そう。まずは自己紹介と、どうして君たちがここにいるのかを知りたいんだけど」
ここまできて、周平と涼稀は自分たちが自己紹介をしていないことに始めて気が付いた。
「俺は、金糸雀周平です。それでこっちが灰桜涼稀って言います。どっちも徳帝高校の1年生です」
「そうか。俺は涼稀くんが言ったように朝日輝喜だ。この無口なやつが大安寺智晴。両方とも山門高校の2年だ。それと、俺たちと話す時は別に敬語じゃなくてもいいから。
それにしても、何で徳帝高校の1年生が奈良要塞にきてるんだい」
「一応、名目は旅行なんですけど、実際には生徒会の娯楽で。なんでも今の会長のが企画したみたいで」
「徳帝高校の現会長といえば、天白さんじゃないか」
輝喜が驚いたように周平に尋ねた。
「ええ、そうですけど」
「へ〜、意外だ。天白さんって"清楚"っていうイメージが強いんだけど」
「あ、おれもそう思いました。というより、どうして天白先輩のこと知ってるんですか」
「えっ、周平。本気で言ってるの......」
周平の質問に、涼稀が冷めた目線を送る。
「ハハハ。まあ別にいいじゃないか涼稀くん」
「朝日さんがそういうなら......周平、朝日さんは五師家の一門だよ。しかも直系の次男。周平、本当にこういうの疎いんだから」
「うっ、しょうがねぇだろ、そういうの興味ねんだから」
涼稀にジト目で見られて、痛いところを疲れたように周平がうなる。
「輝喜」
その時、今まで無表情で輝喜の隣に立っていた智晴が初めて口を開いた。
「誘わないか」
一言しかしゃべらない智晴に周平と涼稀は戸惑う。
だが、輝喜はそれに慣れているようで、言葉の意味を理解した。
「そうだな。周平くん、涼稀くん。よければ山門に見学しに来てみないか」
「えっ、いんですか」
周平も涼稀も彼らが悪い人間だとは思わなかった。それに山門高校は、徳帝高校と同じく全国に八つしかない魔法科高校である。
二人もあばよくば訪れたいと思っていた場所だった。
という経緯があり、周平と涼稀は輝喜たちに二つ返事でオーケーを出した。
「あの、それと、先輩たちや友人も一緒に行っちゃだめですか」
「それなら大歓迎だよ。企画者の天白さんが来てるんだったら、生徒会さまたちも来てるんだろう?
みんな喜ぶだろうから全員呼んでも大丈夫だよ」
「それなら、先輩たちの予定が立てばそうさせてもらいます」
「おっとそれじゃあ連絡手段くらいは持っておいた方がいいな」
そういうと輝喜は携帯端末を取り出し、電話番号とメールアドレスの交換を願い出た。
二人もありがたいと思いつつ、携帯端末を取り出して交換は終わった。
「それで、君たちは「中心部』に何をしに来たんだい」
「あ、そうだった」
輝喜との長話で、本来の目的を忘れていた。
「『中心部』の見学にきたんですけど......ココって入っても大丈夫なんですか」
「普通はダメなんでけど、こんなパスポート持っていないかい」
輝喜がふところからカードを取り出して見せた。
「あ、持ってます。たぶん......コレでいんですか」
周平がポケットの中を探り、一枚のカードを取り出した。旅館を出たあとに涼稀からもらったカードだ。
「あ、そうそうこれこれ。うん。入っても大丈夫だよ。あそこの入り口で審査官に見せて許可が出たら入れるんだ」
「へー。そうなんですか。それじゃ早くいかないと俺たちも予定が押しちゃってあれなんです。えっと、朝日さんたちは......」
輝喜たちには悪いと思うが、背に腹は変えられず時間がないのも事実だった。
「う〜ん。どうする智晴?」
「悪いのは会長だ」
「ま、そうだよね。
実は中に入るには、説明兼監視する人がついていなきゃダメなんだ。今回はその役で俺たちが同行するってことにする」
「ありがとうございます。それじゃ行こう周平」
幸運に幸運の重なった涼稀は今この時間も惜しいというように周平を誘う。
「分かったよ」
「この役するの久々だな智晴」
「ああ」
こうして四人は「中心部」の見学へと向かったのだった。




