プロローグ
三笠企画・東京第二支社。
都内某所の雑居ビル4階にオフィスを構えている。
9月の半ば、そのフロア内の10坪程の、薄暗い倉庫内にデスクが一つ、ポツリと卓上蛍光灯に照らされていた。
ここは今日から物語の主人公、川野の席だ。
川野 光 35歳 女性 独身
三笠企画は、主にイベントや商品の企画を行っている中小企業だ。
東京本社、横浜支社、東京第二支社の3ヶ所を拠点に、事業を展開している。
川野は入社してから、十数年と横浜支社に勤務し、企画・営業力もなかなかで信頼も厚く、係長まで上り詰めていた。
しかし、順調だったキャリアはあっけなく崩れる。
新入社員の一人が、締め切り間近の案件に、手を付けず放置していた事を指摘したところ、折り合いがつかなくなり、ついにはパワハラだと騒がれてしまった。
川野は仕事の事で、熱くなるところはあるが、執拗にプレッシャーをかけたり、怒鳴り散らしたりする様な人間ではない事は、周りのほとんどが、分かっていた。
だが、日頃から川野のその熱さを、鬱陶しく思っていた陰湿上司が、ここぞとばかりに(本当にとても、生き生きと)上部に立ち振る舞い、川野を擁護する同僚の声もねじ伏せ、見事に左遷させたのだ。
役職も、係長から主任へ降格。しかも主任なんて名ばかりだ。
在籍は、倉庫から廊下を挟んだ向かい側の企画・営業部だが、新たなデスクを置くスペースが無いという何とも言えない理由で、実際は川野一人、隔離されているのだから。
あまりにも急で理不尽な辞令―
衝撃と怒りで退社も考えたようだが、長年続けて来た仕事を手放す勇気も気力もなく、流されるまま今に至る。




