エピローグ
「はいこれ」
図書館で翔子がリサに手渡したのは、ある翻訳家が出版した「原作版不思議の国のアリス」だった。
「ありがとう…この本が翔子のお勧めなの?」
「そう、同じ言葉でも訳し方で感じるニュアンスがかなり変わってしまうから」
「なるほど…」
「わたしは、この本が原書に一番近い訳し方だと感じたの…でも」
「でも?」
「リサは、リサの受け止め方でいいと思う。」
「どういう事?」
「例えば、この本」
翔子が持っていたもう一冊をリサに手渡す。
「あ、これは」
それはフランス語に訳された本『Aventures d'Alice au pays des merveilles』だった。
「リサだったら、フランス語読めるでしょ?」
「うん、読めるよ!」
「作者のルイス・キャロルは『不思議の国のアリス』のフランス語版の出版にも深く関わっていたの…たぶん日本語訳より、この本の方がより原書に近い」
「作者の言葉が訳し方に影響されてないって事ね?」
「うん…だから私はリサが羨ましい」
「え?」
「英語を勉強しても、ニュアンスまでは理解できないから…」
「う〜ん…じゃあこの本一緒に読もうよ!」
「リサ?」
「細かいニュアンスは私が教えてあげるから!」
「そうだね、一緒に読もう!」
そうして二人は図書館でフランス語版の不思議の国のアリスを読んでいくのでした。
仲良く、二人並んで、閉館時間まで…
「シャロンの喫茶店」 GW特別編 Lisa's Adventures in Digital Wonderland 完
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回のGW特別編は、いつもの喫茶店「樹」を飛び出し、リサが不思議な「デジタルワンダーランド」を冒険する物語をお届けしました。
物語の裏側
本作のテーマは「逃避と帰還」です。
親しいからこそ甘えてしまい、素直に謝れずに逃げ出したくなる瞬間。リサが迷い込んだワンダーランドは、そんな現実のトゲを忘れさせてくれる鮮やかで甘い世界でした。しかし、そこでの体験を通してリサが気づいたのは、「謝りたい相手がいる場所こそが、自分の本当の居場所である」ということでした。
また、本作には「フルダイブ技術」というSF的要素を取り入れましたが、その裏側で糸を引いていたのが「ハートの王(=博士)」だったという結末は、デジタルな世界であっても、それを動かしているのは「誰かを想う不器用な心」であることを描きたかったポイントです。
原作へのオマージュ
リサが作中で感じた「原作をちゃんと読んでおけばよかった」という後悔は、私自身の想いでもあります。ルイス・キャロルの描いた『不思議の国のアリス』は、単なる子供向けの童話ではなく、言葉遊びや数学的・論理的な仕掛けに満ちた、非常に奥深い作品です。
エピローグで翔子が語ったように、言語によってニュアンスが変わる面白さ。それをリサと翔子が「フランス語版」を通して一緒に読み解いていくラストシーンは、二人の新しい「共通の旅」の始まりを象徴しています。
最後に
映画館、デジタル空間、そして図書館。
リサはたくさんの場所を巡りましたが、最後に飲むシャロンさんの紅茶が一番温かかった。読者の皆様にとっても、この物語がそんな「温かい一杯の紅茶」のような存在になれたなら幸いです。
大型連休の喧騒が過ぎたあと、もしよろしければ、皆さんも一冊の本を手に取って「自分だけのワンダーランド」を探してみてください。
それでは、また次の物語、あるいはいつもの喫茶店でお会いしましょう。




