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ひさしぶり

 土曜日ということも相まって、交通量は皆無に等しかった。やっと見かけたのは練習に田舎道を規定速度以下で走る初心者マークの貼られた軽自動車一台だけでそれからは蛇が横断するかアスファルト上で干からびたミミズを雀がつつきに来るかであった。


 殺風景な景色が続く。それでも白く猛々しく登る雲と青々とした草木の香りで味気ないと感じることはない。


 気づけば昨日来た門の前で足が止まっていた。ここからが問題だ。どうやって珠月に会わしてもらうか。インターフォンを鳴らして出てくるのはご両親か姉の三パターンで珠月が出てくることはまずないだろう。


 ではどうやって話を進める。


 口がきけない人間がどうやって事情を説明するというのだ。筆談をするにも不信感を抱かせはしないだろうか。紙に落とされたインクではまかないきれない空白がそこにはある。

 サキの話でいくとぼくは珠月の姉とは小さい頃遊んでいたそうだがそんな記憶はもちろん持ち合わせていない。そんな状態で対面して、話がかみ合わなかったら、気まずくて想像するだけで死にたくなる。

拭いきれない不安感が喉元に込み上げる。それでも進めなければ、そう頭の中で反芻する。


 インターフォンに指が触れる。


 嫌な汗が背中と首元に溢れかえり、夏の日差しが眼球内の水分を蒸発させたがごとく視界から現実感が薄れる。はっきりと怖いという感情が顔を出す。


「はーい」


 インターフォン越しに昨日聞いた声が聞こえた。


 そこで限界だった。頭の中はサイケデリックな色彩に支配され、頭痛がする。なにも返事がないことを不審に思ったのだろう、もしもし、と催促される。


「あ、ちょっと待ってて」


 何かに気づいたかのように通話は不意に途切れた。


 汗ばむ掌が異様な熱を放っている。体中に恐怖が回っているみたいで体は硬直して動けなくなってしまった。


 扉が開いた。昨日は暗くてよく見られなかった顔が夏の影の立体感を伴って現れる。


「こんにちは、実君だよね。ひさしぶり」

 柔らかなほほえみを浮かべ、彼女はゆっくりと手招きをした。


「暑いでしょ、飲み物出すから上がって」

 年上によくある隔たりを感じさせることない一連のしぐさは、ぼくに少しの安心を与えた。熱をもった金属製の門は軽い音を響かせて開いた。


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