第6話 信じろと言った男
蒼真は、神崎の背中を見ながら歩いていた。
コンクリートの通路に、二人の足音だけが響いている。
さっきまで後ろで騒いでいた連中の声も、今は遠ざかっていた。
誰もがさっきの落とし穴に怯えて、互いに距離を取っているのだろう。
蒼真の頭の中には、さっきの光景が何度も蘇っていた。
床が崩れた瞬間。
落ちていく男たちの顔。
闇の奥で響いた、鈍い衝撃音。
胃の奥が、まだ冷たく縮こまっている。
だが────、それ以上に。
蒼真の胸の奥で、別の感情が静かに膨らんでいた。
(……なんでだ)
視線の先にいる神崎の背中は、相変わらず落ち着いている。
歩く速度も、姿勢も、何一つ乱れていない。
まるで、この施設の中を知り尽くしている人間かのようだった。
(……おかしい)
蒼真は無意識に、さっきまでの出来事を頭の中で並べ始める。
第二ゲーム。
裏切り者を一瞬で見抜いた。
そして────、落とし穴。
神崎は、何の迷いもなく蒼真を止めた。
床が崩れる、その直前に。
(偶然……?)
蒼真は自分の考えを打ち消そうとする。
そんなはずはない。
偶然で説明できることも、この世にはある。
だが。
胸の奥の違和感は、どうしても消えなかった。
ゆっくりと、ひとつの可能性が形を作る。
(最初から全部知ってるだけじゃないのか)
蒼真の足が、ほんのわずかに遅くなる。
前を歩く神崎の背中を見る。
黒い髪。黒のシャツにコート。
長身だが細身の身体。
どこか人間離れした落ち着き。
神崎自身が言っていた”前回”と言う言葉の意味。
(このバカげたゲームを何度も主催した人間なら……)
罠の場所も。
ルールも。
裏切り者の存在も。
全部知っていて当然だ。
喉の奥が、ひどく乾く。
(もし……)
蒼真の胸の奥で、嫌な想像が形になっていく。
(こいつが……)
一歩。
また一歩。
神崎は迷いなく歩き続ける。
くらい、地獄の奥へ。
(黒幕だったら……?)
蒼真の背中を、冷たい汗が流れた。
もしそうなら。
自分は今、誰と一緒に歩いている?
この地獄のゲームを作った人間と。
ずっと隣で、ペアを組まされて。
助けられて、ここまで来ている。
胸が、重く締めつけられる。
(……いや)
蒼真は頭を振った。
そんなわけがない。
もし神崎が黒幕なら、
わざわざ自分を助ける必要なんてない。
疑われるリスクしかない。
(でも……)
疑いは消えない。
むしろ、さっきよりも強くなっていた。
神崎は確実に、何かを知っている。
それだけは間違いない。
だが。
それが何なのか。
(情報が何もない。
今の俺には、分かるわけない……)
蒼真は、神崎の背中を見つめた。
この男のことを。
自分は、まだ何も知らない。
神崎はいつも自分を信じろと言うが────。
(……俺は)
蒼真の拳が、わずかに握られる。
(こいつを信じていいのか?)
それとも。
(警戒すべきなのか……)
答えは、まだ出ない。
ただ一つだけ確かなのは、この神崎という男が────、
このイカれたデスゲームをして、最も危険な存在なのだろうということだった。




