第4話 知っている未来
「そいつだ」
全員が振り向く。
指さされたのは――――、眼鏡の男だった。
「なっ、なんで俺なんだ!」
男は立ち上がる。
神崎は平然と言う。
「簡単だ」
「このゲームのルールを、一番最初に理解したから」
「……は?」
「処刑されたらペアも死ぬ」
神崎は続ける。
「その説明の直後、お前は隣を見た」
「自分のペアを確認した」
眼鏡の男の顔が青ざめる。
神崎はさらに言う。
「つまり」
「お前は“自分が処刑される可能性”を考えた」
沈黙。
「普通の人間は違う」
神崎の声は冷たい。
「普通は“誰を処刑するか”を考える」
神崎は結論を言った。
「つまりお前は」
「このゲーム形式を知っている」
部屋の空気が変わった。
ざわざわと声が上がる。
「確かに…」
「言われてみれば…」
眼鏡の男は必死に首を振る。
「ち、違う! 偶然だ!」
(本当に……?)
ただの言いがかりじゃないのか。
この場に証拠なんて何もないはずだ。
なのに神崎の声には、妙な確信があった。
眼鏡の男が神崎に向き直る。
「…っ!…根拠は?」
冷静な声だった。
「根拠がなければ、ただの冤罪だ」
その通りだ。
ここで適当に一人選べば、二人死ぬ。
誰もが慎重になっていた。
神崎は椅子に背を預けた。
腕を組む。
「簡単な話だ」
視線は男から逸らさない。
「こいつだけ、状況を理解してる」
一瞬、空気が止まった。
「第一ゲームの時」
蒼真の胸がドクンと鳴る。
神崎は続けた。
「全員が混乱してた」
それは事実だった。
誰もがパニックで、叫んでいた。
「でもこいつだけ」
神崎の目が細くなる。
「1回もモニターに質問してない」
蒼真は思わず男を見る。
確かに。
言われてみれば、そうだった。
あの時、この男はずっと黙っていた。
「普通は聞く」
神崎は淡々と言う。
「ここはどこだ、とか」
「デスゲームは本当なのか、どうすれば家に帰れるのか」
どれも、蒼真自身が思ったことだった。
「でもこいつは聞かなかった」
神崎の声が低くなる。
「理由は一つ」
そしてもう一度人差し指を立てる。
その指が――――、眼鏡の男の眼前で、止まる。
「知ってたからだ」
そして一言。
すぐ隣にいる蒼真にだけ聞こえる声で告げた。
「このゲームは“前回”も同じだった。手抜きだな」
(……“前回”?)
蒼真は思わず神崎を見る。
神崎は何も言わない。
ただ静かに立っている。
やにわに神崎は皆に聞こえる声ではっきりと言った。
「全員、こいつを指せ」
その声には妙な説得力があった。
皆が一斉に眼鏡の男を指さし、裏切り者と断定した。
数瞬の後。
モニターのスピーカーから人工音声の冷たい声が響いた。
『第三ゲーム、疑心会議、終了――――。結論が出たようですね。処刑対象が二人、決定いたしました』
男とそのペアの二人は、突如天井から現れた機械アームたちに向かって叫びながら引きずられていく。
「違う!俺じゃない!」
「助けてくれ!」
テーブルの先にあった不自然なビロードのカーテンが開き、金属の扉が現れた。
焼却室――壁に貼り付けられたプレートが光った。
悲鳴を上げ続ける二人を引きずり込んで扉が閉まる。
数秒後。
ドゴン。
やけに厳重な扉の隙間からの不吉な光と、鈍い音。
ギイィィィ…………
重い音を立てて扉が開くと、
2人は床の、ふたつの黒いしみになっていた。
異様なにおいが鼻を衝く。
誰も声を出せなかった。
蒼真はゆっくり神崎を見る。
「……お前」
声が震える。
「なんで分かった」
神崎は肩をすくめた。
「さっき言った。あとは勘だ」
おざなりに話す神崎を、蒼真は軽く睨んだ。
「嘘つけ」
神崎はおし黙り――――、それから小さく言った。
「蒼真」
また、名前を呼ばれる。
「なんだ」
神崎は蒼真を見た。
その目が一瞬だけ、妙に優しくなる。
「お前」
「辛いもの苦手だろ」
「……は?」
「かっこつけて甘いのは嫌いなんて言ってるが、実は相当な甘党。コーヒーも飲めない」
蒼真は目を瞬かせた。
「…なんで知ってる」
神崎は少しだけ笑った。
「なんとなく」
「いいから。俺を信じろ」
ふと蒼真は気づいた。
(この男。さっきからずっとそうだ。ゲームがどう転ぶか知っている。行動も読んでいる。
そして――――、
俺のことをよく知りすぎている。
まるで。
ずっと前から俺を知っているみたいに――)




