第14話 幽路彷徨
二人の足音が、迷宮の奥へと響く。
湿った空気。
かすかな機械音。
蒼真は銃を持つ手を少しだけ下げたまま歩いていた。
「……なぁ」
「なんだ」
「神崎ってさ」
蒼真は周囲を見回す。
「あの……、ここも……道とか罠、分かるのか」
今までみたいに──。
なるべく何でもない風に蒼真は訊いてみる。
神崎は短く答えた。
「いや。ここは毎回、マップが変わる」
その直後だった。
ふいにコンクリートの壁がスライドし、来た道が行き止まりになった。
「普通の迷路なら、もっとやりやすかったがな」
「……」
(毎回……。じゃあやっぱり、神崎は何度も────)
神崎の足が止まる。
「待て」
蒼真もすぐに止まった。
前を注視する。
コンクリートの通路。
だがその先────、
通路全体がこれまでと床の色が違う。
「……これ」
神崎が低く言う。
「分かりやすいな」
神崎は近くに落ちていた瓦礫の欠片を拾う。
ポイ、と投げた。
ガッ
瓦礫が床に当たった。
次の瞬間。
ゴォン!!
先の通路全体が崩れ落ちた。
広範囲がぽっかりと抉れている。
下には────、無数の鉄杭。
先端はどれも鋭利で、落ちていたらひとたまりも無いだろう事が分かる。
蒼真の顔が引きつる。
「……えぐ」
神崎は冷静だった。
「ここを踏んでいたら即死だな」
蒼真は穴を覗き込み、すぐ顔をしかめて離れる。
「こういうの、多すぎだろ……」
神崎は通路の壁を見た。
そのまま目を合わせずに続ける。
「今までの小手調べとは違う。この迷宮は“本格的に人を減らす”設計だ」
「……」
「罠と参加者、両方で殺し、ふるいにかける」
蒼真が苦笑する。
「じゃあ、これが“最後のゲーム”になるかもな」
いつの間にか神崎は、いつもの冷たい眼でじっと蒼真を見ていた。
「…………それは、どうかな」
「えっ。これから先、知らないの?」
いつも何でも知っている風だった神崎の曖昧な表現に、蒼真は思わず目を瞠った。
「……」
答えずに、黒のコートを翻して神崎は先を歩んだ。
二人は慎重に落とし穴を迂回する。
その先。
十字路に出た。
蒼真が通路を覗く。
「どっち行く?」
神崎が壁を見る。
その瞬間。
ゴゴゴ……
鈍い音。床がわずかに揺れる。
「……?」
蒼真が振り向く。
次の瞬間。
壁が動いた。
「え」
巨大なコンクリート壁が、今度はスライドではなく、横に回転する。
迷路の構造が変わる。
今までの道が消える。
新しい区画が現れる。
蒼真が目を見開く。
「またかよ!!」
神崎は冷静に状況を見る。
「回転壁だ」
「構造が変わる間隔が、短くなってきたな」
蒼真が頭を抱える。
「マジかよ……。これじゃ他の奴と鉢合わせしやすく────」
その時だった。
ごく近い距離から────、
悲鳴。
「ぎゃあああああ!!」
蒼真の顔が強張る。
次に聞こえたのは、
ドサッ
何かが倒れる音。
そして、低い笑い声。
「ははっ、あはははは……!」
狂ったような笑声。
蒼真と神崎は視線を合わせる。
狂気と殺意は────、
もう、すぐそばに来ている。




