第11話 深層回廊
神崎の指が、わずかに動いた。
蒼真の腹の前で絡められていた腕が、ゆっくりと力を取り戻す。
そして次の瞬間。
ぎゅっ、と。
むしろさっきより強く抱き寄せられた。
「……おい」
蒼真が眉をひそめる。
「起きてるだろ」
背中に当たる胸がわずかに上下する。
神崎の声が、すぐ後ろで低く落ちた。
「聞こえてる」
まだ少し寝起きの、掠れた声だった。
(……本当に熟睡してたんだな)
蒼真はため息をつく。
「だったら離せ」
神崎の腕は動かない。
むしろさらに密着する。
「……神崎」
「もう少し」
蒼真は呆れた。
「行かなきゃ死んじまうぞ」
沈黙。
それから神崎がぽつりと言う。
「死ぬな」
蒼真は少しだけ黙った。
その言葉は、冗談でも軽口でもない。
神崎は一瞬だけ蒼真を見つめた。
それから、ようやく腕をほどいた。
「……行くぞ」
とりあえず水だけを腹に入れて、
二人は立ち上がる。
施設の中央ホールとは、皆が最初に倒れていた場所だった。
高い天井から白い照明が降り注ぎ、
無機質なコンクリートの床を照らしている。
重い空気。
焦り。
恐怖。
第二ゲームを終えて——
生き残ったのは13人。
蒼真はその人数を頭の中で数える。
(最初は20人いた)
死体。
悲鳴。
裏切り。
そのすべてをくぐり抜けて、残ったのがこの人数。
神崎が横に並ぶ。
誰も会話をしない。
目だけが、互いを警戒している。
蒼真はその視線を感じながら思う。
(第三ゲーム)
(ここで人数はさらに減る)
『第三ゲーム——深層回廊——を、開始します』
ホールが静まり返る。
前方のモニターに映像が映る。
地下の巨大な構造図。
複雑に入り組んだ通路。
何層にも重なる迷路。
蒼真の目が細くなる。
「……迷宮、か」
声が続く。
『これより皆様にはここより更に地下に降りていただきます』
『出口は一つ』
『そこへ辿り着いた者のみ、生存資格を得ます』
誰かが叫ぶ。
「ふざけんな!」
「何人出られるんだ!」
沈黙。
そして答え。
『制限はありません』
その言葉に、空気が一瞬緩む。
だが。
次の言葉で凍りついた。
『ただし』
『迷宮内には武器が配置されています』
蒼真の眉が寄る。
神崎は黙ってモニターを見ている。
声が続く。
『今回に限り、参加者同士の殺し合いは、——許可されています』
その一言で、空気の質が変わった。
人間たちの視線が互いに向く。
敵意。
恐怖。
膨れ上がる、殺意。
声が最後に告げる。
『なお、ペアごとにそれぞれ別の扉からお入りください』
そして——
『ゲーム開始』
轟音を立てて床が震えた。
ぽっかりと空いた床の大穴から地下へと続く階段が見える。
複数の扉。
その奥には、暗い通路が続いている。
地下迷宮の入口だった。
沈黙。
誰も動かない。
その時だった。
神崎が歩き出し、
蒼真の横を通り過ぎる。
「行くぞ」
蒼真が頷いた。
神崎は振り返らない。
「ここにいても始まらない」
蒼真はため息をつく。
二人は同じ扉へ向かう。
他の者たちも、それぞれ違う扉へと向かったようだ。
…………バタン!!
内部に足を踏み入れた途端、
音を立てて扉が閉まった。
「ぅわっ」
驚いて思わず声をあげた蒼真を、
神崎が横目で呆れたように見た。
(ホラーかよ……いや、それよりもっと酷いな)
改めて辺りを見回す。
一言でいえば、
コンクリートで囲まれた広大な迷路だ。
ごく弱い緑の非常灯が照らす、暗い通路。
ひび割れて、正体不明の汚れが付着した壁と床。
湿った、冷たい空気。
足音が響く。
蒼真は周囲の観察を続ける。
先の通路は三方向に分かれていた。
これからも、数え切れないほどの分岐点があるだろう。
床には古い血痕が転々と落ちていた。
思わず、呟いた。
「……ここから出ることなんて——、
できるのかな……」
神崎は短く答える。
「蒼真。ひとつだけ言っとく」
「何だ」
「今回のゲームでは、俺は容赦しない」
初めて会った時のように、
神崎の目が冷たく光った。
「お前も」
「覚悟を決めろ」
何の覚悟かは、聞かずとも分かった。
迷えば、躊躇えば死ぬ。
ここは、ずっとそうだ。
しばらくはちょっとだけ暗~いカンジになりそうです。
いや別に最初から暗いんですけど……。
現実逃避で、いつかあるかも知れない初夜(笑)の
妄想とかしてますw
でもここじゃ15禁にしちゃったから
上げるとしたらどっか他の所でって事に……




