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断罪されたので、裏から王国を乗っ取ります  作者: 早乙女リク


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第61話 王の距離

 協定締結から五日。


 王都は、表向きの安定を取り戻していた。


 市場は落ち着き、

 新聞は帝国との協調を「現実的判断」と評し、

 暴動の気配もない。


 それでも、王宮の空気はどこか変わっていた。


 レオンハルトは、回廊の窓辺に立っている。


 整えられた街並みを見下ろしながら、静かに息を吐いた。


「……三年」


 短い猶予。


 だが三年あれば、できることはある。


 背後から足音。


「お考え事ですか」


 アリシアの声だった。


「考えるのが王の仕事だ」


 軽く返すが、声は重い。


「協定は成功と言える」


「ええ」


「だが勝利ではない」


「当然」


 彼女は、いつも通り冷静だ。


 レオンハルトは、ゆっくり振り返る。


「お前は、最初から三年を想定していたな」


「五年は長すぎる」


「三年なら」


「構造を変える時間になる」


 迷いがない。


 彼女は、常に数手先を見ている。


 レオンハルトは、ふと笑った。


「……私は、まだ一手先だ」


「王は一手で十分」


「慰めか」


「事実」


 短い会話。


 だが以前とは違う。


 どこか、距離がある。


 レオンハルトは、それを感じていた。


「交渉の場で」


 彼は静かに言う。


「お前とカイゼルが話しているとき」


 アリシアは、視線を向ける。


「私には入れない空気があった」


 正直な言葉だった。


 思想のぶつかり合い。


 合理と合理の応酬。


 王である自分が、外側に立っている感覚。


「あなたは、王として答えた」


「だが設計はお前だ」


 沈黙。


 風が、回廊を抜ける。


「王は、設計者である必要はない」


 アリシアが言う。


「王は、選ぶ者」


「選ぶためには理解がいる」


「理解している」


 即答。


「私は合理を出す。

 あなたは責任を取る」


 それが役割。


 だがレオンハルトは、首を振った。


「それでは足りない」


「何が」


「私は、お前と同じ土俵に立ちたい」


 その言葉に、わずかな沈黙。


 アリシアは、彼を見る。


「なぜ」


「王だからだ」


 迷いはない。


「外交は、私が前に出た」


「ええ」


「だが構造を理解していたのはお前だ」


 彼は、一歩近づく。


「三年後、同じ相手と交渉する」


「ええ」


「その時、私は横に立つだけではなく、

 同じ高さで話す」


 その瞳に、静かな決意。


 アリシアは、ほんのわずかに目を細める。


「カイゼルは強い」


「知っている」


「あなたより合理的」


「今は」


 その一言が、空気を変えた。


 彼は伸びる。


 揺れながらも、前へ出る。


 アリシアは、ゆっくりと頷いた。


「ならば」


「?」


「私を超えて」


 静かな挑戦。


 レオンハルトは、笑った。


「厳しいな」


「甘い王は、帝国に飲まれる」


 事実だ。


 王は、成長しなければならない。


 そして。


 その瞬間、二人の間にあった微妙な距離は、

 対立ではなく――


 緊張へと変わった。


 並び立つための距離。


 ――


 同じ夜。


 帝国宿舎。


「王太子はどう見る」


 ユリアンが問う。


 カイゼルは、静かに答えた。


「伸びる」


「脅威に?」


「いずれ」


 その声に、恐れはない。


「だが今は、まだ若い」


 窓の外に揺れる王都の灯り。


「三年後」


 彼は、小さく呟く。


「再び交渉しよう」


 理と理は、終わらない。


 協定は成立した。


 だが均衡は、固定されない。


 王は成長を誓い、

 設計者は次の構造を描く。


 三年。


 それは猶予であり、

 次の戦場への準備期間。


 王の距離は、少しだけ縮まり、

 そして新しい高さへ向かい始めていた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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