第47話 守る理由
公開審問の翌朝。
王都は、妙に静かだった。
暴動もない。
歓声もない。
新聞は淡々と事実を並べている。
『再編支持を王太子が明言』
『責任は王家が負うと宣言』
称賛もあれば、批判もある。
だが決定的な波は、まだ起きていない。
王宮の執務室。
レオンハルトは、一人で椅子に座っていた。
昨夜の言葉が、頭の中で何度も反芻される。
――王家は、再編を支持する。
逃げ道は、もうない。
扉がノックされる。
「入れ」
入ってきたのは、王女セレナだった。
「お兄様」
その声音は、柔らかいが真剣だ。
「昨夜のこと、聞きました」
「そうか」
「本気で、あの方を守るのですか」
守る。
その言葉に、わずかな違和感がある。
「守る、か」
レオンハルトは、少し考える。
「違う」
「違う?」
「再編を守る」
はっきりと答える。
「だが、それは彼女を守ることになる」
セレナは、静かに彼を見つめる。
「彼女は、嫌われています」
「知っている」
「それでも?」
レオンハルトは、立ち上がった。
「嫌われる役を引き受けた」
その言葉に、確信がある。
「誰かが引き受けなければならなかった」
王家は、長くそれを避けてきた。
痛みの決断を、先送りにしてきた。
「私は、彼女に背負わせるだけの王にはなりたくない」
セレナの目が、わずかに揺れる。
「お兄様は、変わりましたね」
「そうか」
「以前なら、様子を見た」
否定できない。
レオンハルトは、静かに言った。
「私は、王になりたい」
それは野心ではない。
「だが王とは、責任から逃げない者だ」
公開審問で言った言葉は、衝動ではない。
本心だった。
セレナは、わずかに微笑む。
「それなら」
「?」
「私は、民衆の声を拾います」
役割の分担。
「再編でこぼれ落ちた人たちを、見ます」
レオンハルトは、驚いた。
「反対しないのか」
「反対する理由がありません」
静かな答え。
「ただ、別の形で補うだけ」
王家は、一枚岩ではない。
だが分裂もしない。
その姿を見て、レオンハルトは小さく息を吐いた。
「助かる」
「守るのではなく、支える」
セレナは言う。
「それが、王家の役目です」
――
その頃。
アルベルト・クラウスの屋敷では、重い沈黙が流れていた。
「殿下が前面に立った」
側近が低く報告する。
「想定外だ」
アルベルトは、冷静だった。
「いや」
首を振る。
「想定していなかっただけだ」
王太子は、決断した。
逃げなかった。
「ならば、戦略を変える」
「断罪は」
「今は無理だ」
完全な敗北ではない。
だが正面突破は失敗。
「時間をかける」
疑念は消えていない。
世論は、まだ揺れている。
――
王宮の回廊。
アリシアは、一人で歩いていた。
背後から足音。
「守られましたね」
マティアスが、低く言う。
「ええ」
淡々とした返答。
「どう思われますか」
少しだけ、間があった。
「予想より、早かった」
それだけ。
感情は、表に出さない。
だが心の奥で、何かがわずかに動いた。
守られたのではない。
選ばれたのだ。
理念が。
そして、その理念を王家が引き受けた。
廊下の窓から、王都が見える。
整った街並み。
静かな空気。
「……これで終わりではない」
アリシアは、静かに言う。
「ええ」
マティアスも頷く。
「むしろ、始まりです」
公開審問は乗り越えた。
だが反動は消えていない。
それでも。
王太子は、立った。
その事実は、国を一段、前に進めた。
悪役令嬢は、今日も嫌われている。
だがもう、孤立してはいなかった。




