第36話 選べる国
再編は、静かに始まった。
宣言も、華やかな式典もない。
ただ、通達が出る。
税制の一本化。
軍需契約の再編。
地方自治の再定義。
紙の上の文字が、
ゆっくりと王国の形を変えていく。
王宮の執務室。
アリシア・フォン・ヴァレンシュタインは、山のような書類に目を通していた。
「北東部の徴税率は据え置き。
ただし徴収方法を統一」
淡々と指示を出す。
「南部は段階的減税。
代わりに物流統制を強化」
感情はない。
あるのは、合理性だけ。
マティアスが、静かに報告する。
「軍からの反発が出ています」
「当然ね」
アリシアは、顔を上げない。
「でも、彼らは署名した」
契約は、拘束力を持つ。
王太子レオンハルトは、別室で同じ書類に目を通していた。
「……厳しいな」
それは、正直な感想だ。
王権の一部が、確実に制限されている。
だが。
「必要だ」
自分に言い聞かせるように、呟く。
会議室では、再び議論が起きていた。
「ここまで強く出る必要があるのか」
「今までが、弱すぎた」
意見は割れる。
だが、以前と違うのは一つ。
――誰かが、決める。
最終判断は、下される。
それが、組織を動かす。
南部では、ラウルが新しい徴税制度の説明をしていた。
「今後は、直接管理だ」
不満の声もある。
「厳しくなった」
「自由が減った」
それでも。
「町は、動いている」
事実が、沈黙を作る。
グランヴィルでは、
商隊が戻り始めていた。
「管理は面倒だが、安定している」
商人は、肩をすくめる。
自由よりも、継続を選んだ結果だ。
一方、王都の裏通り。
ミレイア・ロウは、掲示板を見つめていた。
再編に関する通達が貼られている。
「……戻ってきたのね」
悪役令嬢。
そう呼ばれた女が、王宮で権限を握っている。
憎しみは、消えていない。
だが。
「……変わってる」
数字が、動いている。
市場が、落ち着き始めている。
完全ではない。
だが、崩壊は止まった。
地方都市の宿に戻ったアリシアは、
静かに窓の外を見ていた。
「……どう見えますか」
マティアスが問う。
「まだ、未完成」
彼女は答える。
「でも、選べる」
それが、最大の変化だった。
王都も、地方も、
選択の結果を背負い始めた。
責任を取る者がいる。
契約がある。
反対はできるが、無視はできない。
「これで、国になる」
アリシアは、淡々と言った。
選べない王国は、
終わった。
今は、選べる王国。
完璧ではない。
救われない人もいる。
それでも。
未来は、
初めて“誰かの意思”で動いている。
悪役令嬢は、
まだ笑わない。
ただ、淡々と再編を進める。
嫌われながら。
それでも、必要とされながら。
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