第022話
---翌朝。ベッドから起きると部屋には酒の臭いが充満していた。
「沢山飲んだもんなぁ…。換気しておこう」
部屋の窓を開け、涼しい空気を入れる。
「しこたま飲んだけど、酔っ払わないって凄いな」
絶対にリバースしていただろう量を飲んだのだが、耐性のお陰でそんな事は無かった。酔わないのは残念だけど、有難くもある。二日酔いってのは慣れないものだよね…。
「そういや、昨日いくら使ったんだろう…」
ステータスを開き、金を確認してみると20万ほど減っていた。
「うおっ……。結構使ったな…」
まぁ金は腐る程有ったし、持っている金額からすれば微々たる物だが、数字で見ると何かこう気分的なものがグッとくる。
「…んんっ。寒いよぉー」
声のする方へ目を向けると布団にくるまるローリィの姿が見えた。
「悪い。換気しようと思ってさ」
俺の言葉には返事をせず、ローリィは再び夢の世界へと旅立った。
「皆ぐっすり寝ているなぁ。気分的に疲れたのか?」
疲れを知らない体だが、気分的な物は疲れるんだろう。俺も精神的には疲れたし、そこはチカ達も一緒なんだろうな。
ぐっすり寝ているチカ達を起こさないように、俺は部屋から出る。部屋でする事が無いし、散歩でもしよっかな。
宿から出て、俺は当てのない散歩へと出かける。昨日の大宴会で露店も静かなままだし、活気は無い。
「あれだけ飲み食いしたし、今日はどこも空いてないだろうなぁ」
静かな露店通りを歩き、ギルドへと向かう事にした。ギルドの中には他の冒険者らしき人が掲示板を眺めていた。顔は見た事ないので、昨日広場には居なかったのだろう。
「あ、おはようございます。アルスさん。昨日はご馳走様でした!」
掲示板の前に立ち、惰性で依頼を見ていると受付嬢のおねーさんに声をかけられた。
「おはようございます。おねーさんも宴会に参加してたんだね」
昨日は男ばっかと話してたから、女性陣は誰が居たとか分かんないんだよなぁ。
「ええ、ギルドの受付は殆ど参加してましたよ!」
綺麗な顔で微笑む姿は、数多の男を魅了するんだろうな。
「それは良かった。楽しんで貰えたみたいだね」
「はいっ!チカちゃん達ともお話出来ましたし、とっても楽しかったです!」
いいなぁ…。俺もおねーさん達とお話したかったよ。
「チカちゃん達って、意外にも話しやすいんですね。お高い人かと思ってました」
「そんな事ないよ。アイツらも皆と話してるの楽しそうにしてたし。…まぁ、雰囲気あるのは否定しないけど」
「私も最初は声掛け辛かったです。けど、話して見ると今時女の子だなーって思いました!」
「へぇー?どんな話ししてたの?」
「チカちゃん達、恋話とかに夢中でしたよ?既婚者の方にもどうやってアプローチしていたのか詳しく聞いてましたし」
「…アプローチ?なんでそんな事聞いてるんだろ?」
「あっ……。そ、それはですね、チカちゃん達も年頃って事ですよ!」
「そうかー。将来アイツらも結婚とかするかも知れないもんな。その為の勉強って事か!」
1人納得していると、苦笑いを浮かべたおねーさんが話題を変える。
「そ、そんな事より、今日は依頼を受けに来たんですか?」
「んにゃ?ただ散歩したくなって、ぶらついていただけだよ」
「あ、そうなんですか…」
これから何をするか考えていると、おねーさんが少し大きな声で話しかけてきた。
「ア、アルスさん!よろしければ私と一緒に散歩しませんか?」
「ん?別にいいけど、仕事はいいの?」
「大丈夫ですっ!忙しい時間帯は抜けたので!」
「それならいいけど……。んじゃ、適当に散歩しよっか」
「はいっ!!」
おねーさんは同僚に仕事を頼むと急いで俺の所に来た。同僚の女の人が凄い形相で睨んでるけどなんでだ?
「ささ、アルスさん!散歩しましょっ!」
おねーさんに連れられ、俺は外に出て行く。この街には、孤児院や教会もあるらしく行った事が無かったので、連れて行ってもらう。
「ここが、サガン唯一の教会ですよっ!」
「へぇー。大っきな建物だなぁ…」
目の前には青と白で構成された大きな建物があった。ファンタジー通りの教会で、天辺には大きな鐘がついている。
「ここでは結婚式も行われるんです。街の人達も外にズラーって並んで、その間を新郎新婦が歩くんですっ!」
「レニーさんも挙式はここであげたの?」
道中でさりげなくおねーさんの名前を聞いておいた。
「私はまだですよ!…でもここで挙げるのが、サガンに住む女の子達の夢なんですっ!」
女の子の夢…か。そこら辺は変わらないんだなぁ。
「それじゃ、良い人見つけないとね」
「…なかなか居ないんですよねぇ。この街の男の人達は殆ど知ってますし、恋愛感情が湧かないんですよー」
「ん?結婚してる人達って大体がここ出身じゃないの?」
「王都とか他の街で出会って、ここで挙げている人が大半ですよ。私のお姉ちゃんも冒険者の人と結婚してましたし、外で出会うのが普通だと思います!」
んまー、そうだよな。地元って言っても小さな街だし出会いは外にしか無いんだろうなぁ。
「結婚か…。当分縁は無さそうだし、ここに来る事は無さそうだ」
俺の呟きにレニーさんは瞬時に反応した。
「え!?そ、そうなんですか!?」
「そんなに驚く事なの?」
「だ、だってチカちゃん達とずっと一緒に居ますし、結婚するんじゃないかなーって…」
「んー……。アイツらは俺にそういう感情は持ってないと思うんだよなぁ」
…『忠誠心』だからねぇ。主従関係しか無いと思うんだよ。
「……そっか…。それならチャンスはあるって事?」
「ん?何か言った?」
「い、いえ!何にも言ってないですよ!」
レニーがボソボソ何か言ってた気がするが、気にしないでおく。そのまま教会を後にすると、今度は孤児院へと向かう。
「見つけたぁー!!チカちゃん、ご主人様こっちにいるよー!!!」
露店通りに入った所で、ローリィに出会った。額には汗を浮かべており、肩で息をしている。
「ア、アルス様っ!……よかった。無事でしたのね」
「マスター。探した」
広場からチカとナナが走ってくると、開口一番俺の心配をしていた。
「すまんすまん、散歩したくなって歩いてたわ」
「起きたらアルス様の姿が無かったので……。私達、捨てられたのかと思いました…」
チカの言葉に俺は衝撃を受けた。よくよく見ると、ナナの目元には薄っすらと涙の跡があるし、相当悲しませたのだろう。
「…ごめん」
「本気で心配した。これからはちゃんと言ってほしい」
「…すみません」
「勝手に居なくならないでね?あたし達、ご主人様に見捨てられるのが1番嫌なんだからっ!」
ローリィの言葉に俺は砂漠でのナナの寝言を思い出した。あれはナナだけでなく、チカ達も同じ事を思っているのだと。
「…ごめんな、軽率な行動だったわ。以後気をつける」
俺は自分がした事に酷く後悔した。あの時は、居なくならないよと言ったのに、結果、こんな事になってしまったからだ。
「…約束してくださいね?」
「ああ、約束するよ。金輪際、こんな事はしないって!」
俺の言葉を信じてくれたチカ達は、それ以上追求して来なかった。俺もチカ達を二度と悲しませないと再度心に誓った。
「…それで?アルス様はどこに行くつもりでしたの?」
「ああ、散歩ついでにレニーさんに街を案内して貰ってたんだ。今から孤児院に行く所だよ」
チカ達に怒られている間、レニーさんはあたふたしていた。物陰に隠れそうな勢いだったけど、やましい事は無いし、何で慌てる必要があるんだろ?
「お、おはようございます、皆さん!」
少し変なイントネーションで挨拶をするレニー。
「あ、レニーちゃんだ!おはよー!」
「おはよう」
「おはようございます!」
チカ達はそんな状態を気にする事なく、普通に挨拶を返していた。そのままレニーとチカ達はお喋りし始めた。
…女性の会話って長いんだなぁ。何を話す事がそんなにあるんだろ?
しばらくの間、ボーッと突っ立っていたが、あまりにも暇になったのでレニー達をせかすことにした。
「あのー…レニーさん、孤児院に連れて行って欲しいんだけど…」
「あっ、ごめんなさい。少し話に夢中になってました!」
思い出したかのように、レニーが慌てて孤児院へと案内してくれる。広場を曲がると庭付きのそこそこ大きな建物が見えてきた。
「あそこが孤児院になります。…孤児院って言っても今は孤児がそんなに居ませんので、託児所みたいになっていますけどね」
孤児院に着くと、庭で元気よく遊んでいる子供達が目に入る。年齢は比較的下の子たちばかりで、仲良くボール遊びや走り回っている。
「あーっ!!レニーお姉ちゃんだー!!」
俺達の姿を見た女の子が、元気な声でレニーを呼ぶ。
「みんなおはよーっ!今日も元気だねーっ!」
「お姉ちゃん!今日はお仕事休み?一緒に遊ぼうよーっ!」
「ごめんねぇ…。お姉ちゃんは今日お仕事なの。その代わりこのお兄ちゃん達を連れてきたよ!」
レニーが俺達を紹介すると、子供達は不安そうな目で俺達を見る。
「おはよーっ!レニーお姉ちゃんの代わりに遊びに来たぞー!」
遊びに行くとか聞いてないけど、空気を読んで子供達に挨拶する。
「わーい!新しいお兄ちゃんだー!!ねぇーねぇー、なんて名前なのー?」
「お兄ちゃんはアルスって言うんだよ。こっちのお姉ちゃん達はこの金髪のお姉ちゃんから、チカ、ナナ、ローリィって言うんだ」
「ふーん!そんな事より一緒に遊ぼうよー!」
ぐっ……。自分から聞いてきたくせに!!子供らしいっちゃー、子供らしいけどさ!
「よーし!それじゃ、何して遊ぼっか!」
「鬼ごっこー!」
「ボール遊びだろー!?」
「おままごとよ!」
子供達は楽しそうに何をするか話し合っている。その光景には少し笑みが浮かんでしまう。
「おう!旦那!珍しい所に居るなっ!」
声のする方へ目を向けると、肩に荷物を乗せた焼き鳥屋のおっちゃんが居た。
「あれ?おっちゃんじゃんか…。どうしてここに?」
肩から荷物を下ろすと、おっちゃんは肩をゴキゴキと鳴らしている。
「ああ、露店組合からこの孤児院に毎月寄付金やおもちゃを届けているんだよ。今日は届ける日だったから俺が来たって事さ」
「ふーん。と言う事はここの運営はおっちゃん達がしてるって事か?」
「んにゃ、ここの運営者は辺境伯様だ。俺達はあくまでも援助をしているだけさ」
「ああ、なるほど。すげー良い人なんだな」
「ああ、あの方は素晴らしい人でな。就任してからすぐに、孤児院を作ったり、スラム街を潰してそこに住んでた人に職を斡旋したりしてな…。この街の住人はかなり感謝しているんだ」
おっちゃんの話によると、辺境伯が来てからこの街に活気が戻ったとの事。辺境の地で住む人が少なかったのだが、色々と募集をかけたりして住民を増やしていったみたいだ。それに、戦力も上げるために王都から講師を招いたり、ギルドを作ったりと領地政策をしっかりと行なっているらしい。
「とまぁ、他にも色々と俺たちの為に政策やらなんやらを考えてくれているんだ。旦那達も、いづれ会う機会があるかもしんねーぞ?」
「えー?俺堅苦しいの苦手なんだよ…」
「がっはっはっは。まぁ、まだ駆け出しが会う事は無いだろうが、Cランクにでもなったら会うだろうよ」
おっちゃんは荷物を再び持つと、孤児院に入って行く。庭ではチカ達が子供達と遊んでおり、俺もその輪に入っていく。
「あ、アルスさん。私そろそろギルドに戻りますね!」
レニーが俺に告げると、子供達にさよならをし仕事へと戻っていく。
「アルスお兄ちゃん!鬼ごっこしよー!」
「いいぞー!それじゃお兄ちゃんが鬼をするからみんな逃げろー!」
俺の言葉に、子供達は一斉に逃げて行く。10秒数えてから子供達を捕まえるべく、早歩きで追いかける。きゃっきゃと楽しんでいる子供達を見ながら、俺は童心に返ったつもりで鬼ごっこを楽しむのであった。




