1話 面接
初投稿です。長い作品になると思いますが、よろしくお願い致しますm(__)m
更新は不定期ですが、出来るだけ短いスパンで投稿していきたいと思っています。1週間に1回の更新が今の自分の目標です。
あらすじにも書いた通り、人間の幸せについての物語です。
『翼のない俺達に幸せの粉を!!』を宜しくお願い致しますm(__)m
頭がぼーっとする。
・・・・・・
何かが離れていく・・・・・・
それをただただ見つめるだけ。
完全には離れない。
まだ頭の中に取り残された、何か。
その正体は分からない。
それを感じた直後、俺は目を覚ました。
薄暗く、気味の悪い場所に俺は居た。
いつからだろうか、何も覚えていない。
椅子に座っているのは分かる。目の前にこちらを向いた椅子があるのも分かる。暗闇の中にポツリと置かれたその椅子は、暗くてよく見えないが、学校の教室に置いてあるような椅子。特に変わった匂いもせず、何処なのかはさっぱりわからない。
ふと思い立ちポケットを探る、しかしいつもなら当然持っているだろう携帯は見つからなかった。
「おーい!」
そう叫ばれた声は、暗闇の中を響き渡り、そして静かに消えていく。それほど大きな声は出していないはずだが、妙に響く。
その響き方から、この場所がさほど広くはない部屋だと察する。
「な、何なんだよ・・・・・・」
少しづつ目が慣れていき、部屋の全貌が明らかになってくる。
腰をかけていたその椅子から立ち上がり、ぐるりと周りを見渡すと、
「ん?」
正方形のその部屋の隅には、茶色い長机が2つ並べられていた。
机上には紙が1枚置かれている。
何の変哲もないただの白い紙。ノートの1ページを切り取ったような紙だ。
「なんか書いてあるな・・・・・・」
『面接開始までお待ちください。』
「面・・・・・・接・・・・・・?」
そもそも今が何時なのか、なんの面接なのか、ここはどこなのかは分からない。
分かることと言えば、自分が学校の制服だということ、そして、何やら面接が始まろうとしていることくらいだ。
ここに来た経緯をその場で立ち尽くしたまま考える。
しかし、なにも思い出せない。
いつものように起きて、学校に向かったはずだ。
面接があるような自体に至った覚えはない。
「俺、なんかやばいバイトの面接でも受けちゃったんじゃないよなぁ・・・・・・」
自分の知らない間に、もしくは寝ぼけて、何か悪事を働こうとしているのではとゾッとする。
一旦、落ち着いて現状を整理してみる。
正方形の部屋だ。学校の教室と同じぐらいの広さだが、ものが少ないせいか少し広く感じる。
そして、今何かの面接の待ち時間であることを、座っていた椅子の後ろに置かれた机の上の紙を見たことで知る。
「ドッキリか・・・・・・さあ誰がこんなことを俺に・・・・・・って、 そんな事するような友達、俺にはいねえか・・・・・・はははは・・・・・・はぁ」
自虐ネタを誰もいない空間で披露し、苦笑いを繰り広げた後、そろそろ本当に不安になってきた。
さらに、追い打ちをかけるようにこの不安はランクアップしていく。
頭の中を整理しているうちに、部屋になくてはならないものがない事に気がついたのだ。
「・・・・・・俺はどっから入ってきたんだ?」
扉がない。
ただでさえ知らない場所にいるのだ。不安や恐怖に襲われたとしても無理はない。だが、この部屋に開口部などがない所を見るともはや不安だけでは済ませない。
夏の登校とは違った汗を額から流し、これから自分はどうなってしまうのか、そう頭の中に問う度、今までとは桁違いの不安に駆られる。
こんなにも密閉された部屋を、人間が建てられるとは思えない。
そもそもドアや窓がないのだ。誰かが入ってこれるはずがない。
酸素はちゃんと取り入れられるのだろうか。
そんな不安の中、ある答えに結びつく。
「落ち着け・・・・・・俺。これは夢だ。こんな部屋、人間に作れるはずがねえ」
中学校から工業高校に進学し、建築について学んでいたため、少しは建物の知識はある。
こんな部屋、建てようにも建てれまい。
深呼吸をして自身を落ち着かせると、ホッと一息つく。
「まぁ、夢の中って言っても、面接は面接だな・・・・・・面接が始まるまで気長に待、」
コツっ
夢だと判して落ち着き、元々座っていた椅子に腰掛け、これから面接が始まるまで待つしかないと悟ったその時、突然背後から足跡が鳴り響く。
「すみませーん。少し遅れてしまいました」
一体どこから入ってきたんだ。そんな疑問が生まれた事など、どうでも良くなってしまうような美声。
優しく、綺麗な声、声を聞くだけでわかる、彼女は超絶美人だと・・・・・・
座っている楓の横を通り、目の前の椅子に座った女性を見て自分の予想が的中していた事を確認する。サラサラの黒髪を揺らしながら、その女性は目の前の椅子に腰掛けた。
女子高生だろうか。まだ若く見える。しかし、服装はゲームの中以外では見慣れないような、白ベースの清楚感溢れる服装だ。
清く美しい羽衣を身にまとった少女は、程よく潤う青色の瞳をこちらに向ける。
「えーっと、かたやまかえで君・・・・・・」
なっ・・・・・・
まさか、ただでさえ女友達が少なく、と言うか、そもそも友達が少なく・・・・・・いや友達がいなく、周りがリア充している中でひとり教室の隅でスマホゲームしたりラノベ読んだりしてひたすら暇を潰していたような将来引きニートが約束されていたこの俺、片山楓が、こんな黒髪ロングストレート2重ぱっちり笑顔最高なJKに名前を呼ばれる日が来るなんて、誰が想像していただろうか。想像できるはずがない。
自分では、異世界に飛ばされて可愛いヒロインと共に冒険するなんて定番な話を想像してはいたが、面接という展開も悪くない。ここは夢の流れに乗っかって、この現状を楽しもうと心に誓う。
「あ・・・・・・れ? ちがった? 片山楓くん・・・・・・だよね?」
眉を寄せ、困ったような表情で聞き直す少女。
ーーーーーーーーーーーーかわいい・・・・・・・・・
口を開け、驚きと感動に満たされた楓は首をブルブルと振り、すぐに自分を取り戻すと緊張で序盤裏返りまくった声で、こう返す。
「え!ぇえぇと、は、はい!そうです! 片山楓のはずです! よ、宜しくお願いしますぅ・・・・・・!!」
ちゃんと挨拶出来たはずだ。うむ。悪くない。
最初スタートダッシュをミスして途中で転んだ挙句最後に語尾が気持ち悪くなってしまっただけだ。何の問題もない。
なんの面接なのかも知らないのにも関わらず、何故かよろしくしてしまった楓。そもそもこんなにも若い女の子が面接官と言うのも、夢の中ならではの展開だ。
だが、夢にしてはリアルすぎる目の前の女性に疑問を抱き、夢かどうか確かめるために、自分の頬を抓ってみた。痛みは来る。普通にくる。
ーーーーーーーーーーーー夢じゃ・・・・・・ねえのかよ
「そ、そう! なら良かった! じゃあ、今から面接を、」
「あ、あの、今更で悪いんですけど、この面接っていったいなんの・・・・・・。 そ、そんでもってここどこですか? 入口も出口も無いようですけど・・・・・・」
最初の挨拶で若干引き気味の面接官は何言っているのと言わんばかりの目でこう答える。
「あれ? 裏、読んでないの?」
「う、裏・・・・・・?」
ふと思いたち、自分の後ろに並べられた机の方を向く、
「見てきたら?」
さっきまで緊張で足が震えていたコミュ障丸出しの楓は不安定かつ不思議なステップで机のところへ向かうと、
「うわっ、下に小さく裏面読んでって書いてある・・・・・・」
気づくはずもない小さな字。テストだったら裏面に気が付かず大量失点だ。
たとえ気付いたとしても楓は大量失点なのだが。
紙を手に取り、裏返す、すると表面よりも長い文でこう書かれていた。
『この度は、お亡くなりになったあなたの来世のための面接を行います。詳しくは面接が開始次第お伝えしますので、どうぞよろしくお願い致します。』
何度もその文を読み返したが、書いてある文は何度読んでも変わらない。
「こ、これは・・・・・・どういう、し、死んだ・・・・・・? 俺が・・・・・・?」
「そう、あなたは死んだ。そしてこれから、来世のための面接を行うの」
「そ、そんな・・・・・・そんなこと信じられるか! ここから早く出してくれ! こんなの通報レベルだぞ!!」
「通報? あぁ人間界のケイサツ? だったっけ? そんなの無駄よ、だって私は・・・・・・あ、申し遅れましたね、私の名前はエフィルロ。 面接官を担当している天使」
「て、天使? 馬鹿なことを言うなよ! 茶番はこれまでだ! はやく・・・・・・早く俺を開放してくれ…!」
これまでまともに話すことさえ出来なかった楓だが、こんな状況では流石にそのままではいられない。
死んだ後に天国や地獄に行くなんて事、趣味が読書の楓にとって身近な情報であった。
だが、1度も信じたことはない。
確かに、そんな世界があってもいいなと思ったりもするが、常識的に考えてそんな事はありえない。そう考えるのが一般的だ。
もちろん楓も、その一般的な考え方の持ち主であり、故に、今の状況も信じられなかった。
「落ち着いて、もうあなたはあなたとして、人間界には帰れないの」
「落ち着けるわけないだろ!! いきなり訳の分からないところに居て、聞いてもいない面接が始まって! その上、俺は死んでるだって? ふざけるのもいい加減にしろよ!! そ、そうだ! これは夢・・・・・・夢なんだよ!」
不安と恐怖に染められていはずの楓の心情は、いつの間にか怒りに変わり彼女に罵声を飛ばす。頬を抓って痛みを感じると言うだけでは信じきれない。夢だと信じていたい。
「フゥ・・・・・・まあそうなるのも仕方ないわよね、夢ではないし、私は天使。 そうねえ・・・・・・じゃあこれならどう?」
「なっ……!」
自分の事を天使と名乗った彼女の背から、絵本で見るような、綺麗な翼が生えてきた。
服の背中の穴の空いた部分から、ニョキニョキと折りたたんで収納されていたかのように伸びたその翼は、鳥が持っているものとさほど変わらない。色は白く、白く煌めいている。
そんな彼女は、童話や神話で言い告げられている天使そのものだった。
美しく、きめ細かい、この翼がCGじゃないなんてこと、素人でもわかる。
「これ、生やすの結構コツいるんですよ、ふつう、天使はいつも生えてますけど、私は仕事の都合上、いつも隠してるんですよ。最近はその必要は無くなってたんですけど・・・・・・」
おっと、と何かを言いかけた彼女は混乱させてしまってますかねと、目を瞑り指を鳴らす。
スったと力を抜いた彼女の背にそれは収められていく。
この場合、もしここに100人の人間を集めたとしたら、恐らく、満場一致で彼女は天使だと認めるだろう。いくら現代社会が発達していたとしても、こんなリアルに再現することは、不可能に近い。
だが、俺は認めない。
信じられない、いや、信じたくないのだ。
「信じられるわけ、ないだろ・・・・・・」
「これだけしても、信じてくれないんですか?」
「ま、まだ・・・・・・」
「まだ、なんですか?」
彼女は呆れているだろうか、哀れんだような目で、涙を流し始めた楓を見つめている。
「俺には! やり残した事がたくさんあるんだよ!! 誰にも相手にされなくなって・・・・・・ただのゲームのように過ごしていた日々だったけど! 母さんはずっと女手一つで、ずっと俺の事を見ててくれてたんだ・・・・・・俺がどんだけ母さんに生意気言っても、いつも笑ってくれてた、悪い事したらちゃんと叱ってくれた。いい事したらよく出来たねって褒めてくれた。仕事ばっかで疲れてるはずなのに、毎日早起きして、弁当作ってくれてたんだよ、 俺の・・・・・・たった1人の家族だったんだよ!! それに、今日だって普通に学校に・・・・・・」
涙が止まらない。目の前にいる彼女の顔色さえ確認出来ないほど涙が溢れてくる。
「もう・・・・・・帰られないなんて嫌なんだ、まだ、まだ・・・・・・母さんに、ありがとうって、今までありがとうって、言えてねぇえ!!」
楓の人生には、楓の母、片山椛の存在は偉大であり、なくてはならない存在だった。
中学からは、あまり他の人とは関わらなくなった楓が、いつも助けられていたのは母だった。
死んだ。それが事実なのであれば、もう母に会うことは出来ない。
母との最後の記憶は曖昧だ。行ってきますとちゃんと言っただろうか、それすらも、もう覚えいない。
そんな、当たり前の生活の中で、感謝はしていたものの、それを伝える機会などなかった楓にとって、この突然の母との別れは酷く残酷であり、これ以上の苦しみはなかった。
それからしばらく、沈黙が続いた。
全てを出し切って、泣いて、喚いて、必死になって自分が死んだ事実を否定して、でも受け入れるしかなくて、そんな楓の頭を、落ち着いた?と言葉をかけながら、優しく撫でてくれたのは天使エフィルロだった。
「もうこんなの馴れっこなんですけどね、やっぱり目の前であなたは死んだ、なんて伝えるの辛いんですよ」
先ほどのような、哀れんだ目とは変わり、楓の苦しみを理解し、同じように苦しみ、悲しんでくれているような目をしている。
麗しいきれいな瞳で楓の心を落ち着かせる。
辛い、切ない、虚しい、そんな感情が頭の中をグルグルかき回し、全く頭が回らない状況下に置かれた楓を、その一瞬で落ち着かせてしまう彼女。まさしく天使にふさわしい。
楓の中の疑念は少しずつ消えていった。
目の前の天使は本物だ。
それは、翼を見たからでも、服装が変わっているというだけで見分けた訳では無い。
感じたのだ。
頭を撫でられた時、この上ない落ち着きを。
その後の彼女の話す一言一句から、この上ない優しさを。
そんな事で、天使と信じきってしまうのは間違いなのかもしれない。
何者かに嵌められ、騙されているのかも知れない。
だが、楓は信じる事にした。
彼女の作る落ち着きが、彼女の放つ優しさが、嘘だとは思えなかったからだ。
「わるいな・・・・・・俺、本当は信じるしかないって思ってたけど、どうしても信じられなくて、夢じゃないってのも、ホントはずっと分かってた」
いいの、と返してくれた彼女の後に楓は続けた。
「すまん、信じるよ。俺、ほんとに死んじまったんだな・・・・・・」
「いいの、私は平気、 君は・・・・・・辛かったよね」
自分が死んだと認めたその時、頭の中である記憶が呼び覚まされた。
「あぁ、辛いさ、でももう死んじまったんだ、思い出したよ、俺」
頭の中で、少し前の事であるはずの記憶が浮かび上がる。
楓は、あの日、事故にあった。
学校に行く途中、暑くて意識も朦朧とする中、目の前に横断歩道を渡ってる女の子がいた。
そこに、信号無視したトラックが突っ込んできた。運転手の顔は見えなかったが、居眠りか飲酒かその変だろう。
とっさの判断だった、いつの間にか足が動いていた楓は目の前の女の子を突き飛ばした。
そこからの記憶はない。つまり、
ーーーーーーーーーーーー俺はその時、死んだんだ。
「ほんとに、死んじまったんだな・・・・・・」
目の前の天使は無言のまま頷き、目を瞑り深呼吸する楓を見つめる。
「ふぅ・・・・・・落ち着いた事だし、来世のための面接ってやつ、始めようぜ」
ぱっと明るい表情になった天使は、優しい笑みを浮かべながらうんと頷く。
「こんな可愛い子の前で泣きじゃくるとか、恥ずかしいっちゃありゃしねえ」
そう、彼女に聞こえない程度の声量で呟く。
「なんか言った?」
いや何も、そう答えると、微笑しながら用意された自分の席につく。
まだあったばかりの彼女の前で泣きじゃくった事に羞恥心を抱きながら、死後の世界の面接は始まった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「はぁ・・・・・・こっからどうしようかしら」
少々お待ちをと、楓をおいて部屋の隅に向かった天使は、携帯の様なもので誰かと会話をしていた。
『ほんとに人間をローズベルクに!? まあ仕方ないですね、私は、』
「あのー! 面接はまだ始まらないんですか??」
電話の相手が何かを言おうとしたその時に、楓はエフィルロを呼び出した。
「はーい! 今からよ!! じゃあ、もう切るわよ」
薄暗く、冷たい風が吹くその場所にある、お墓のような碑石の前で、電話の相手は呟いた。
『私は、嫌いですが』
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