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エピローグ一

 鬼龍院一族殺人事件から、一週間が経過。

 真犯人たる魔術師の死亡により、世界改変による悪影響が消滅した。

 容疑をかけられ警察に連行された和也は、事件終了後すぐに釈放。かなりの慰謝料をもらったらしい。

 その後、あの事件は虎龍院大我が犯人で、彼は最後の犯行前に己の罪に気づいてそれを償うべく自殺、という形で決着を迎えた。

 これは、京香がそのように仕向けたのだろう。逢魔家の力を使えば、事件の真相を隠すことなど容易に可能。そして、今回の一件はそうすべき事柄だった。

 きっと一月も経たぬうちに、この案件も人々の記憶から消える。

 あってはならないイベントは、日夜起こっているのだから。

 

 そう、例えば――昼下がりの繁華街とかで。

 

「カズ君、待ったー?」

「いんや、今来たところだよ」

「そっか、良かったー」

「にしても香澄、お前そろそろ時間厳守を心がけたほうがいいぜ? 普通こういう時は俺が遅刻してお前が怒るってのは定番なんだからよ」

「む……い、以後気をつけまぁす」

「ぜってぇ治んねぇな、こりゃ」

 苦笑しながら、和也は香澄の手を握った。

 そうして、二人は街中を歩き始める。ラブラブカップルといった空気を放出しながら。

 その様子を別々の物陰から見つめ、嫉妬の表情を浮かべる美少女達。まさしくハーレム主人公のエンディング場面である。

 そのワンシーンの背景に、邪魔な歯車モブキャラが映っていた。

「ぐぎぎぎぎぎ……」

 和也、香澄から少し離れたところで、淀川暗人は歯ぎしりする。

 爪が食い込んだ掌から血が滴り落ち、目はまん丸に見開かれていた。

 事件終了後、香澄は自分の居ぬ間に起きた出来事を知り、大層落ち込んだ。それも無理からぬこと。姉のように慕っていた沙耶が殺害されたのだから。

 で、彼女が負った傷を暗人が癒す――前に、思い人は和也のところへ行ったというわけだ。

 彼女は、メンタルケアの相手にあの腐れ主人公野郎を選択した。どこぞのクズいモブキャラなど歯牙にもかけず。

 その結果がこれである。

 和也と香澄の絆はより一層強くなり、愛情も深まり、毎晩ズッコンバッコンやる仲になった。

 その反面、頑張った暗人が得たものは――これは言うまでもない。

「ふぅむ、暗人よ。残念だったなぁ? 己の計画が大失敗に終わって。なぁ、今どんな気持ちだ? 恋敵と思い人の仲を裂こうとした結果、逆に仲が深まってしまって、どんな気持ちになってるんだ? んん?」

 どこから湧いて出たのか、少年の隣で京香がいやらしく問うてくる。

 暗人は肩を震わせながら応答した。

「……別になんとも思ってないよ。僕は鬼龍院さんが幸せならそれでいい。これからは彼女の笑顔がずっと続くよう、祈り続けるだけさ」

「ほぉう? それは殊勝な心がけだなぁ? ……で、本音はどうなのだ?」

 暗人は大きく息を吸い、己の中にある何もかもを解き放った。

 

「なんでこうなるんだよ、クソがああああああああああああああああああああああ! いつもいつもいつもいつも失敗失敗だよ、どグサレええええええええええええええええ! 今回は珍しく上手くいくかなとか思った僕が大馬鹿だったわッ! やっぱりこのザマじゃねぇか! だったらもう夢とか見せんなや畜生ッ! あああああああああああああああああああ! 腹立つうううううううううううううううううううううう! なんでこうなったのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! もうどいつもこいつもくたばっちまえええええええええええええええええええ! 特にあの二人は性病にでもかかって苦しんで死にやがれ、ボケナスがあああああああああああああああああああああああ!」

 

 血の涙を流し、ドロドロとした感情を遠慮することなく絶叫に乗せる。

 周囲はもうとんでもない有様だった。

 和也と香澄を見ていたヒロイン達、無関係な一般人、そこらへんの建物、そして和也と香澄の二人。全員が、撒き散らされた不幸によってえらい目にあっている。

 ヒロイン達は大量のカラスが放ってくる糞を浴び、汚物まみれに。

 一般人は転ぶ、下痢になる、眼鏡が割れる、電信柱にぶつかる、野良犬に追い立てられるなど様々、

 建物は看板が爆発するわ、窓が木っ端微塵になるわ、置いてあったマスコット人形がロケットのように飛び立つわで、やっぱり悲惨。

 和也と香澄はなぜだか突然殴り合いの喧嘩を始めた。なんでまた二人がそうなったのかは、不明である。ただ一つ言えることは――全部暗人が悪いということだけだ。

 阿鼻叫喚の地獄絵図の中で、ただ一人、逢魔京香だけが楽しげに笑っていた。

「くははははははは! いいぞ! それでいい! それでこそ私のパートナーだ!」

「きえええええええええええええええええええええええええええええええ!」

 抱腹絶倒する魔術師と、奇声を発して災厄を撒く歯車。

 

 今回もまた、少年はなんの得もすることなく、事件の終了を迎えたのだった。

 

 


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