Mission.5 採掘&カバ
「・・・・・・さて、採掘に行くとしようか。」
3匹の変異獣“一角豹”から剥ぎ取りを終え、ハーライトはロッククラブの操縦席に腰を落ち着けた。
不用な危険を冒さずミッションをクリアするなら、ADAに乗って移動するのが一番である。動かすための経費がかかるものの、作業用とはいえADAに乗れば道中の安全は保証されたのも同然だからだ。
MOB側のAIとしても、無謀な攻撃はしないようになっており、それこそ大型の変異獣である象や白熊の系統MOBでもなければADAに攻撃は仕掛けない。またADA側から攻撃を仕掛けると、ほとんどの小型MOBは逃走に入る。
しかし、システム上生身でターゲットを取って戦闘状態に入ると、その後ADAに乗り込んでもMOBはすぐに逃走しないことが発覚している。ヘイト値が絡んでいると推測されているが、詳細はまだ不明である。とりあえずこの仕組みを利用して、ハーライトはリベンジを果たした。
「【豹の一角】に【肉食獣の毛皮】か、まあまあだな。・・・・・・BOSS、レーダーに反応は?」
『敵性体の反応無し、その他感知機器にも特異な反応はありません。』
ロッククラブ搭載型AIであるBOSS(適当にハーライトが命名)が応答する。AIはADAに必ず搭載されており、機体制御から火器管制まで全てを補助している。大まかな動きをプレイヤーがレバー、ペダル等で直接操作し、ADAと接続した電脳を通じてAIに伝えられたイメージを元に、AIが細かい機体制御を行う仕組みだ。
「よし、このまま東の鉄鍋山地に向かうので、ルートの表示を頼む。」
『了解しました。』
このAIは今朝引き渡されたばかりで、ほぼ初期状態のままである。AIも経験を積んで成長し、能力が変化する仕組みになっている。現在の状態だと、ある程度の機体制御のみ行う程度なので、一々指示を出して経験を積ませているのだ。これは作業用のAIだからで、これが戦闘用ADAのAIになると、索敵、火器管制等の能力も最初から一定レベルで備えている。火器が無い以上火器管制の能力は必要ないが、索敵や地形分析等の能力は必要であるため、面倒だが指示を出す必要がある。
「・・・・・・うん、ルートについては最短経路と燃費の良い経済的な経路、道中のMOBとの遭遇率もデータがあれば出すように。」
『了解しました。現在は敵性体のデータが無いため、遭遇率は表示できません。』
面倒臭いと思いつつも、さらに指示を出して機体を発進させる。
左右270度、上下120度の範囲で構成されたスクリーンに周囲の景色が映し出される。背後は別ウインドウで上部に表示してあり、咄嗟に確認できないのは真下と直上ぐらいだ。
くぐもった音を立てて6本の足がリズミカルに上下し、森の中を進んでいく。操縦席は外から見るほど揺れておらず、車で砂利道を走る程度に収まっている。もっとも、安定性の高い多脚型だからであり、通常の二脚ADAではもっと上下の揺れが激しいだろう。
ロッククラブは人によっては嫌悪感を抱くかもしれない足の動きで、軽快に道を進んでいった。
鉄鍋高地は、文字通り鉄鍋を伏せたような形をした場所である。エアーズロックを少し丸くしたような形状で、山地というよりは山か丘に近い。都市に近い側には採掘場があり、鉱石を掘り出すなど金属資源が豊富な場所だ。ここが都市から最も近い採掘可能場所となる。
「さて採掘場は・・・・・・おお、生産職の連中が多いな。」
遠目に見ただけで、露天掘りの採掘場に群がっている人々がカメラに映る。ピッケルかハンマー、人によっては削岩機を持ち込んで岩を削っていく。採掘場の規則で爆発物は禁止になっているので、発破音は聞こえ無い。
ここ、別に採掘場の外でも採掘は可能である。実際、良いポイントを探して柵の外で腕を振るっている者も存在している。
だが大多数は採掘場の中だ。なぜならば、ここは鉱物資源が豊富なため、それを求めて機獣が徘徊している場所だからだ。
今もカメラの映像の中で、岩の裂け目から這い出してきた小型の機獣が、無防備なプレイヤーの背中に襲いかかっている。
「ああ、あれは死んだな。」
特に何とも思わずハーライトは呟く。
コブラの様な形状をした機獣は、あっさりとプレイヤーに絡みついて動けなくすると、高速で回転している牙を突き立てる。10秒も経たない内に決着は付きプレイヤーは都市に送還された。
くねくねとした動きで勝ちどきをあげる機獣。しかし次の瞬間には周囲にいた多数のプレイヤーからの攻撃を受けて、あっいう間にぼろぼろになってしまう。生産職とはいえ、自衛のためある程度の戦闘用技能を取る者は多い。
変異獣ならばすぐに倒せていたのだろうが、機獣は総じて硬い。特に刃物・銃器にもそれなりの耐性があり、鈍器もしくは爆発物が効果的とされている。その機獣“アイアンコブラ”は降り注ぐ銃弾の中、手近なプレイヤーに飛びかかる。流石に相手も用心しており、転がって回避した。その隙に体格の良いプレイヤーがハンマーを構えて駆け寄り、コブラの頭部に重い一撃をたたき付ける。衝撃で動きの止まった所に再度銃弾が降り注ぎ、ようやくスクラップとなった。
「・・・・・・ま、生身の一対一でやるなら、装甲服が欲しいよな。」
採掘場の脇を通り過ぎながら呟く。機獣は小型であろうと危険性が高い。今生身で行ける地域としては、ここは危険度の高い場所だと言えるだろう。ちなみにADAで相手をするのは小型の群れか中型以上のMOBになるため、生身で随伴してはいけない。せめて何か乗り物に乗るべきである。
ハーライトは悠々と採掘ポイントを探して動き回る。採掘場は3キロ四方程度の広さがあるが、山地はその十倍以上の面積がある。余り奥に入ると、MOBが急激に強くなるため深入りはしない。
『指定箇所は採掘可能です。』
「よし、採掘に入るから、レーダーの反応には注意してくれ。」
しばらく彷徨った後、奇襲され辛く良さそうなポイントを見つけたので、採掘を開始する。ボタンを押すだけで、螺旋状の物体がゆっくりと回転しながら姿を現す。鋭い作動音を響かせ、両腕の2本のドリルが唸りを上げる。
「採掘・・・・・・開始っ!」
周囲と多少色の違う岩肌がむき出しになっている箇所にドリルを突き立てる。適度な距離を開けて両腕のドリルを動かし、岩盤を大きく崩すように動かす。
「この振動・・・・・・この轟音、飛び散る火花も素晴らしい! 今日はこれだけでも満足だ!」
誰も聞いていないのをいいことに、好き放題叫ぶハーライト。AIもつっこみを入れるような機能は無いため、止める者は誰もいない。
「はははっ・・・・・・実に馴染むなあ!」
叫びながらレバーを押し込んだ所で、大きくひび割れの走っていた岩盤がぐらりと崩れ始める。ハーライトは即座に後退し、崩れる岩が機体に当たらないようにする。
「まあ、当たった所でほとんど装甲は減らないが・・・・・・。BOSS、採掘された物の選別及び回収を頼む。」
『了解しました。作業用アームの使用許可を願います。』
「許可する。」
未だ唸りを上げ続ける両腕とは別に、機体の脇腹部分から補助腕が展開する。メインアームはクローとドリルなので、細かい作業が必要な場合に使用する物だ。つまりこのロッククラブは4本腕6本足である。
岩塊が落ちた後のポイントにさらにドリルを突き立てていき、その下でAIが回収を行っていく。
採掘ポイントは深く掘れば掘るほどレアリティの高い鉱石などが出現すると言われている。β版ではそこまで深く掘ることができなかったため、確定情報ではないが、ハーライトの知る限りではその傾向がある。
「是非検証しようじゃないか、このドリルでなあ?」
不気味な笑いを浮かべながら採掘を続けていると、その時警告音が鳴り、AIがメッセージを送ってくる。
『レーダーに金属反応3、6時方向距離300。小型機獣と思われます。』
「!」
即座に掘削を中断し、<感知>を使用する。レーダーはあくまでも機械的に探知し、座標を表示するだけだが、そこに技能を合わせることで、より感覚的に位置を掴むことができる。
ハーライトの脳裏に立体的な位置感覚が表示される。距離も近いせいか、おおまかではあるが近寄ってくるものの形状も判別できるようだ。
「四つ足・・・・・・でワゴンサイズか。迎撃するか。」
今の機体とのサイズ差は、機体を人間で例えれば猪といったところか。このぐらいのサイズになると、ADAにも有効なレベルの火器を内蔵している。ましてやこの機体は作業用であり、油断はできない。そもそもMOBはADAに対しては、有効な攻撃手段がなければ攻撃してこないのだ。
幸いにしてまだ距離は250ほどあり、準備は可能だ。索敵機能を強化しておいたおかげで、レーダーの有効範囲は戦闘用に引けを取らない。
接敵まで約20秒、敵の搭載火器次第で戦闘開始はより早くなる。ハーライトは急いで機体の背部にある格納ブロックから積んでおいた地雷を取り出し、技能を使って高速で設置する。
掘り出した鉱石に紛れるように十分な数を設置したところで、MOBが岩陰から姿を現した。その姿を見て、思わず動きを止めてしまう。
一言で言えば赤いカバ。
「あれはデザインのセンスを疑うな・・・・・・っと!」
動きの止まったハーライトに対し、赤カバは3体とも大口を開ける。その口腔から覗いたのは黒光りする束ねられた銃身。すでに回転を始めているそれを見て、慌ててペダルを踏み込み逃げにかかる。
事前に確認しておいた窪み飛び込んで遮蔽を取ると、先程まで機体のあった空間を火線が通り過ぎていく。
「ガトリングガン付き・・・・・・か? 厄介な。」
ハーライトも初めて見る機獣であり、難しい表情をする。
「BOSS、敵の装備をチェック。映像の記録も頼む。」
『了解しました。』
指示を出しながらさらに格納ブロックから道具を取り出す。火線が遮蔽を取る岩を削る中、ドラム缶サイズの物体を適当な位置に放り投げる。
一瞬で赤カバのいる地点周辺が灰色の煙に覆われる。色々と妨害効果も付随したスモークグレネードだ。ちなみに通常のADAであれば取り出して投げる等という面倒なことをする必要は無く、ボタン一つで投擲できる。
一旦銃撃が途切れ、僅かに間を置いて敵が飛び出してくる。2体が接近し、1体が改めて口から銃弾を放ってくる。流石に全身を隠せる場所ではないため、肩の装甲が削られていく。
「小癪な・・・・・・だが2体は貰った。」
機体を伏せさせた瞬間、閃光と轟音が走り接近していた2体が爆炎に包まれる。
「やったか!」
『確認中です。』
感知式の地雷は威力だけは高いため、これで倒せなければ逃走あるのみだ。そう重いながら、煙が晴れる前に機体を起こして走らせる。
推進剤を消費して大きく跳躍し、残骸があるであろう場所を飛び越えて後ろの1体に迫った。主武器は銃弾が出るまでにタイムラグがあるため、多少被弾しても肉薄できると計算している。
煙を抜けたハーライトが見た物は。
「SRM(短距離ミサイル)!?」
いつの間にか敵の背中から箱の様な物2個せり上がっており、そこに装填されているのは紛れもなく小型のミサイル。左右合わせて10発が顔を覗かせている。
「ま、ず、いっ!」
武装を認識した瞬間、同時に発射されたことも確認する。機動性の高い機体であればともかく、瞬発力の低いこの機体では躱せないと判断し、体勢を低くしてそのまま加速する。
両腕で頭部と操縦席のある胸部を庇い、体当たりを敢行する。
「・・・・・・!」
発射されたミサイルの内、4発は上方を抜けて後ろで爆発したが、6発は着弾もしくは至近で爆発した。
強烈な振動が機体を揺さぶり、スクリーンの一部がブラックアウトする。赤い警告灯が点灯し、機体に異常が発生したのが確認出来る。無視し得ない損傷を受けたようだ。
だが、突撃するには問題ない。
さらに踏み込み、半壊している右腕から体当たりを行う。鈍い破砕音が響き、右腕が砕けると同時に、赤カバが吹き飛ばされる。いくら作業用といえども、そのウェイト事態が十分な凶器。中型機獣程度なら、見ての通り弾き飛ばせるだけの破壊力を生み出せる。
追撃し前脚で押さえ込む。
まだ稼働する左腕から高速で回転する駆動音が発生し、おそらくは中枢があるであろう頭部にドリルが突き刺さる。
火花が飛び散り、一瞬悲鳴のような破砕音が響き渡る。次の瞬間には壁を突き破った様に抵抗が減り、ドリルが潜り込んでいく。
『目標、沈黙しました。』
AIの言葉にハーライトはドリルを停止させる。既に根本付近まで潜り込んでおり、どのみち一旦止めるつもりだったからだ。
索敵機器への被害を確認しつつ、指示を出す。
「機体の被害報告を頼む。スクリーンにも表示してくれ。」
『・・・・・・了解しました。機体の被害は以下の通りとなります・・・・・・。』
邪魔にならない位置に機体の図と、損傷箇所が表示される。主なところで右腕全壊、左腕小破、補助腕左右全壊、前脚部右小破、前面装甲6割喪失、索敵機器2割破損というところだ。SRMにより綺麗に装甲が剥がされてしまっている。
ハーライトは機体の被害に頭を抱える。
「右腕は犠牲になったのだ……。手酷くやられたと思うべきか、これで済んだと思うべきか・・・・・・悩むな。」
装甲については消耗品であるため仕方ないが、右腕が全壊したのは想定外である。修理と新品では、かかる費用に大きな差が存在する。
ドロップで補えればいいと思いながら、倒した機獣の残骸からアイテムを回収する。地雷にかかった2機は、問題なく残骸と化している。
「【壊れた機械A】×3、【スクラップB】×5、【レアメタル(小)】×2、・・・・・・いかん、地雷だと過剰だったのか・・・・・・?」
攻撃力こそ高かったが、この機獣のサイズはそれほど大きくない。そして使用した地雷は大型の機獣にもダメージを通せる代物である。つまりオーバーキルでドロップ品も壊れた可能性が高い。
「そう考えればこいつからは状態のいい物が取れるはずだが・・・・・・む、【壊れた電子部品C】と【レアメタル(中)】・・・・・・【???】だと?」
名称が表示されていないアイテムを入手する。知らないアイテムは?で表示され、判別するまでは使用することも不可能だ。自力で判別できなくとも、最終的には都市の施設に行けば有料で判別して貰える。
ハーライトは技能を持っているため、AIに警戒を指示してから判別に入った。判別に使われる技能は鑑定・分析・解析の3系統で、さらに細分化される。別系統のアイテムは判別できないが、同系統の物であれば代用技能として判別は可能だ。
「・・・・・・」
使用にはEPと一定時間が必要となる。対象のレアリティが上がれば上がるほど時間がかかるらしい。
およそ3分後、判別が終了する。ちなみに成功しても失敗しても時間は消費される。
「成功か。」
やや笑みを浮かべながら、詳細を確認する。表示されたのは【TW-2C“ツインバード”
】、機獣の使っていたSRMのようだ。威力はそう高くもないが、軽めで弾数はそれなり、誘導性能もそれなり。それほど強力ではないが、扱いやすく、また装備する機体を選ばない(作業用機体を除く)代物だ。
「割といい品物だが・・・・・・使わないし売るか。」
一切躊躇せず売却を決定する。ロッククラブはシステム上、兵器を搭載するハードポイントすらないため装備することは出来ないのだ。火器管制システムも搭載できない。
ドロップ品の回収を終えると、ハーライトはすぐに機体の損傷を考慮して帰還することにした。同様のMOBが再度出た場合、装甲が耐えきれないと判断したのだ。
「やれやれ、いきなり新MOBとは面倒臭い。BOSS、さっきの敵のデータを司令部に照会してくれ。」
『了解しました。しばらくお待ち下さい。』
戦闘したMOBについてのデータが司令部に送られる。プレイヤーが遭遇したMOBなどの報告を司令部又は各組織にすることにより、データを他のプレイヤーも確認出来るようになる。情報は秘匿しておくべき物と考えがちだが、この程度のMOB情報は隠しても仕方がない。それに報告が早ければ報奨金が貰えるという特典もある。
周囲を警戒しつつ道を走行する。このロッククラブ、作業用として脚部に車輪も付いており、それほど速度は速くないが装甲することもできるのだ。平坦な道路であれば、こちらの方が経済的だ。
『司令部より回答あり、“迅速な情報の提供に感謝する”とのことです。』
「了解。迅速・・・・・・ということは、少なくとも5番以内か。」
情報は複数のプレイヤーから報告がされないと、確定情報として表示されない。5人に達すると確定としてデータベースに登録されることになっている。仕様が変わっていなければ、5番目まで報奨金が出る。
「BOSS、都市までの運転を頼む。」
『了解しました。』
AIに操縦を任せ、取得したアイテムの仕分けを始める。この場合技能の上昇は無いが、AIに経験を積ませていることにはなるので、時間の有効活用を含めて無駄にはならない。
現在、機体の貨物容量は半分ほど埋まっている。アイテムは重量が設定されており、カード状になっても重量制限を超えて保持することはできない。したがって積載スペースのある乗り物は非常に重要なものだ。
さて、採掘したアイテムを仕分けた結果は以下の通りである。
【鉄鉱石】(★1~★3)×23、【石英】×16、【重晶石】(★1)×4、【琥珀】(★1)×3、【???の化石】×1。
人力だと種類にもよるが、持てて10~15個くらいか。まあADAで採掘に専念すると人力とは効率の桁が違うが、その分音が大きいため大型の敵を引き寄せ易い問題がある。また、採掘素材の中には人力で慎重に掘らないと壊れてしまう物もあるため、多少の差別化はなされている。
本当はもっと掘る予定であったが、機体がこの状態では仕方がない。移動には支障はないものの、見た目はかなり酷い状態だ。すれ違うプレイヤーも、皆注視してくる。
鉄鍋高地の裾に広がる森林地帯を抜け、中央都市との間に広がる荒野に入る。何故荒野の真ん中に中央都市があるのかは未だ不明だ。イベントを進めていくか、バージョンアップで明かされるのだろうと言われている。
センサーの範囲内に敵影は無い。この辺は軍が巡回しているため、アクティブなMOBの出現率が低い。ただ、草食系を初めとするノンアクティブなMOBは放置されているため、それなりに数が存在する。それをねらって狩りをしているプレイヤーも遠目にちらほら見えている。
「あれも意外に効率良いからな・・・・・・。」
意外に草食系MOBのドロップアイテムは売値が高い。NPCの買い取り価格もそうなのだが、基本的に必需品なのだ。肉は通常の食料アイテムやドラッグに、皮や角は日用品及び修繕、納品用にと需要は多い。
まず狩りで金を貯める選択肢もあったのだが、楽な分同じ事を考える者も多い。それでβ版では揉め事が多かったため、リスクの大きい採掘を選んだのだ。
最終的には足回りの強化を行って、巷では旨味が少ないと言われていた輸送系ミッションを制覇するのが今回の目標である。作業用ADAにしたのは、戦闘型ADAは燃費が悪く、赤字になり易いためである。もっとも、今回のMOBのような小さいくせに攻撃力のある敵が多いと、脆弱な作業用はリスクが高い。ハーライトとしても頭が痛い所である。
特にトラブルも無く都市に辿り着き、拠点の倉庫に荷を下ろした後駐機場に機体を持って行く。ちなみにここの倉庫に置いたアイテムは、僅かな手数料で直接アイテムを持って行かなくても売買が可能になるという便利なシステム付きだ。
ハーライトはADAファクトリーの受付に行き、修理を頼んだ。すぐにNPCの技師が見積もりを出してきたので、多少値下げ交渉をした程度で修理を依頼する。
「やっぱりパーツ交換が入ると時間がかかるな・・・・・・。」
今日はもうADAで出かけられないため、どうするかと考える。
「ふむ・・・・・・そうだ、オークションに行こう。」
中央都市には一通りの施設が揃っている。何かに特化した商品は売ってはいないが、最低限全てを賄うことができる場所だ。
規模の大きい街にしかない施設がオークション会場である。基本的にプレイヤーがドロップアイテムや生産品を出品し、競売にかけることになる。出品料が必要であり、常に高く売れるとは限らないため、ご利用は計画的に。不定期でNPCの出品物もあり、通常手に入らない掘り出し物も登場する。
無駄に広い会場に入ると、適当な席に座って手続きを行う。今回来たのは落札がメインではなく出品がメインだ。ドロップしたばかりのSRMを適当な値段で出品する。初期値段を高くすると、それだけ出品料も多く取られるので見極めが大事だ。
リストを眺めても兵器部門の品揃えはまだまだ少ない。並んでいるのは、言ってしまえばそこいらの店で売られている品ばかりだ。上手く買えば安く調達できるということで、それなりに買い手は存在している。おそらくは皆修理中などで時間を持て余しているのだろう。
とりわけ活発なのはやはり素材系オークションだ。自分では必要ないアイテムを売りに出している者が多く、生産職が集まってひっきりなしに出品と落札が繰り返されている。
状況を眺めている内に、先程出品したSRMがリストに登場する。この手の兵器のドロップ率は低く、金食い虫になりがちだが威力も高い切り札として需要は高い。
「ん、おい見ろ。」
「・・・・・・ほう。」
「勿体ないな・・・・・・。」
「少し威力不足だから俺は要らないが・・・・・・お前はどうだ?」
目ざとい者はすぐに新商品に気付き、相談を始めている。威力を見てすぐに興味を無くす者や、じっくり性能を見た後でどこかに通信している者、様々だ。
とりあえず会場の反応を見たいだけだったハーライトは、後は自動で落札まで行われるため席を立って会場を後にする。
中央都市の片隅にあるウェポンショップ「ボム・フリークス」は設置武器・工作兵器の専門店である。路地の奥まった場所にあり、目立たない半地下の入口と相まって来たことのない者が辿り着くのは容易ではない。
ハーライトがこの店に着くまで、オークション会場を出て1時間以上経過している。彼自身β版ではこのような店を利用したことはなかったため、入口を見つけられずに大分時間を浪費している。
薄暗い店内にはほとんど商品が置かれていない。カタログを見て、店員に注文するようになっている。何故か商品のあるべきスペースには、無駄に精密なジオラマが飾られている。
店の奥で佇むNPCの店主に見守られながら、ハーライトはカタログを捲る。今回ここに来たのは、MOB相手に痛い目にあったので戦力を強化する目的である。
作業用ADAは固定兵装が無く、携帯火器を扱うことが出来ない仕様になっている。格闘戦は可能だが、流石にそれだけでは分が悪い。それを補うのが設置武器である。
設置武器は一部を除いて作業用でも扱いが可能、というか生身でADAや大型機獣を狩る場合の主武器と言っても良い。高い威力に低コストであり、直撃すれば高確率で撃破できる素晴らしい武器だ。問題点は、索敵能力の高いADA相手には大体看破されてしまうことか。大体普通に回避されるか処理されるかのどちらかである。機獣にしても、索敵能力が低いわけではなく、設置技能が低ければ普通に回避されてしまう。
流石にハーライトは、何も考えずに設置武器を使っている訳ではない。作業用機体をむしろ工作機として位置付け、積載量の多さを使って戦うつもりである。また、隠蔽技能を高めることで設置武器を看破されにくくすることができる。ただし可能な限り戦闘は回避する予定だが。
「大型地雷“コナミジン”を3セット、吸着式爆弾“ハチノミ”を2セット、後は・・・・・・自動迎撃銃座“ワタシガホンタイ”の、MGを3機。」
「分かった、明日には届けよう。」
今日使用した地雷の補充分と、戦力を底上げするための設置兵器を購入する。基本的に攻めるのには向かない物ばかりだが、迎撃しかする気はないので問題ない。
「しかしお前さん、変わっているな。」
「んう?」
ハーライトが費用を計算していると、いきなり店主が話しかけてきた。これは予想していなかったので、思わず変な声を出してしまう。
「こんな武器をまとまって買っていくとか、まあ普通じゃないな。」
「余計なお世話ですね。」
「まあそういうな、どうだい、設置武器は好きかね?」
何やら意味ありげな表情で店主がハーライトを見つめる。
「・・・・・・・・・・・・。」
ハーライトは素早く考えを巡らせる。ほぼ間違いなく、この問いかけは何らかのイベントの発生だと判断出来るからだ。
もっとも、イベントの有無に関わらず答えは決まっている。
「好きかどうかと聞かれれば、間違いなく好きですが。」
「・・・・・・そうか、まあ愚問だったな。」
そこで店主は地雷を磨きながら、言葉を続ける。
「最近は好んで使う奴も少ないからな、同業者も少なくなっちまった。お前さんもここに居る間はここがあるが、遠出した場合には困るんじゃないか?」
「まあ・・・・・・困るね。」
「せっかくだ、この中央地区内の設置武器専門店のリストをやろう。どこもここ以上に目立たない場所にあるからな、補給に利用するといい。」
いつの間にかカウンターにデータカードが置かれている。手にとって電脳に読み込むと、専門店の名前と位置が表示される。どの街にあるか一目瞭然であるが、中には街中ですら無い店もあるようだ。
「まあ、有り難く頂戴しておくよ。」
「これからもご贔屓に頼むよ。」
イベントはここで終了なのか、店主は無言になる。
少々物足りないが、これで終わりとも限らないため、それなりに通おうと思うハーライトであった。




