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「ごめんなさい。……みんな、ごめんなさい」
謝罪を繰り返しながら、少年は森の中を駆ける。枝が顔に触れ、わずかな痛みを感じた。それにも構わずに走り続ける。
不安に駆られて後ろを振り返るが、誰かが追ってきている気配はない。それでも怖くて怖くてたまらなくて、走る足を止めることはできなかった。
夜の闇の中、遠くで雷が鳴る音が聞こえる。もうすぐ、ここらへんにも雨が降るかもしれない。
それまでに少しでも家から遠ざかり、雨宿りできるところを探さなくては。
涙で視界が滲む中、少年は何度も何度も謝罪の言葉を繰り返しながら、夜の森の中を走り続けた。
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数日後。
「本当によろしいのですか?」
緊張感の漂う静かな部屋の中に、不安そうな侍女の声が響いた。
こんなことを頼んでしまうのも申し訳ないと思いながら、フィオナは強い決意を込めた眼差しを鏡越しに向けて、迷うことなくうなずいた。
「お願い。やって」
「本来なら、あなた様がこのようなことをなさるべきではないと思うのですが……」
「それでも、私はやるって決めたの」
自分の主人が一度決めたらなにを言っても絶対に譲らない頑固者だと知っている付き合いの長い侍女は、隣りのワゴンに置かれていた大きなハサミを手にする。
それは普段なら使用人たちが使うものであって、主人であるフィオナに使うような代物ではない。
しかし、どうしても、とフィオナに頼まれて借りてきたものだ。
まさか、このようなことを頼まれるとは思っておらず、軽い気持ちで借りてきたのが運の尽きだった。
「本当によろしいのですね?」
最後の確認をするような言葉に、決意が変わらないフィオナは迷うことなく頷く。
鏡越しに視線を合わせ、それでも主人の決意が変わらないと悟った侍女は覚悟を決めた。
散髪用に使われる大きなハサミが、躊躇いがちにフィオナの長い髪を断ち切った。
悲嘆に暮れて頭を抱える両親は、一瞬息子と見間違えるほどに変わってしまったフィオナの姿に目を丸くして言葉を失った。
目の前に現れた変わり果てた娘の姿に、両親は時が止まったのではないかと思うくらいに動かない。
そんな両親に対して、フィオナはにっこりと笑った。
今のフィオナの中に迷いはなかった。
大事な弟を守るためなら、これくらい平気だ。痛くも痒くもない。
「これは、お父さんのためじゃないから。エリオットのためだからね」
はっきりと断言し、フィオナは父親を見据えた。
衝動的にこのようなことをしたわけではない。何日も何日も考えた結果の行動だ。だから、後悔なんてしていない。
「私がエリオットの代わりに騎士団に入るから」
それが、フィオナが出した答えだった。
昔からよく似ている双子だと言われていたが、フィオナが長かった髪を切って同じ髪型にすると、長年仕えてくれている侍女も「そっくりです」と言うほど似ているようだ。
これだったら、うまくいけば周りにはバレないかもしれない。
「だから、お父さんは早くエリオットと仲直りしてね」
フィオナ=アリソン。
歴史あるシンクレア王国の中でも指折りの古い名家であるアリソン伯爵家長女。
行方不明になった双子の弟の代わりに、ノーブル騎士団へ入団を果たす。




