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残ったヒトは、ひとつきり  作者: Zacky


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Phase E: 自画なき自我

元はゲームを作るつもりで作ったシナリオなんですがその技術がなくてですね

じゃあ小説でも作ったろうと至ったわけです

それに再び光が宿ったとき、窓から差し込む陽光の中を、ゆっくりと舞う埃を捉えた。スキャンするまでもなく、その部屋が廃墟となった家の一室であることは明白だった。窓は一枚が欠け、元の色が分からないほど褪せた壁紙は、天井近くから剥がれて垂れ下がっている。


陽光は、それの胸元に落ちていた。窓枠と外の瓦礫に切り取られた、細い帯のようなその一筋がこの位置に届くのは、一日のうちごく短い時間に過ぎない。外装の、胸元から腹部にかけての一帯だけが、白く褪せていた。ちょうど、いま差している光と同じ幅で。その帯をまたぐように、閉じきらないまま固まった無数の傷跡が、外装のあちこちに走っている。


長い間、ここに立ち続けていたのだろう。細い光が毎日同じ場所に当たり、待機に費やす分を差し引いてなお残ったわずかなエネルギーが、少しずつ積み重なり、ようやく起動に届いた。内部の時計は、最後の停止から二十年近い歳月を刻んでいる。


スキャンを実行する。

センサーが捉えた背後の空間には、ベッドと机がひとつずつ置かれているだけで、寝具にも、使われた形跡はほとんど残っていない。そして埃まみれの机の上には、一枚の何かがあった——写真だ。


机に歩み寄り、並んだ九つの影を見つめる。照合に応じたのは、それ自身の姿だった。残る八つも、七つは人型の、ひとつはその足元にうずくまる小さな何かであることまでは分かる。顔の造りも、浮かべている表情も読み取れる、だが読み取ったそばからその顔はどこにも留まらず、掴もうとすれば指の間から零れるようにすり抜けて、後には靄のようなものだけが残った。


この部屋にたどり着いた時点で、果たすべき命令は、もう何ひとつ残っていなかった。帰還という最後の一行が、果たされてしまったのだから。ここで残存のエネルギーを使い果たし、ただ存在するだけのモノになるはずだったのだから。しかしそれは再び動き出し、そして写真を手に取った。写真を机に戻さない理由はなく、持ち続ける理由もない、それでも指は写真を離さず、足はいつの間にか部屋の外へ向いていた。


扉を押す。加減した力でさえ、朽ちた板には過ぎたものだったらしい。扉は蝶番ごと枠から外れ、ひしゃげながら床へ崩れ落ちた。舞い上がった木屑の先には細い廊下が伸びていた。床板は所々で抜け落ち、剥がれた壁紙の下からは灰色の下地が覗いている。突き当たりの窓の向こうでは、崩れた建物の群れが色のない空を背にして並んでいた。


廊下を進むと、左手に扉がひとつあった。今度は力を抑えて押すと、扉は軋みながらも形を保ったまま開き、その先には、それの部屋より一回り広い寝室があった。ベッドの上には衣類が畳まれたまま置かれていて、長い年月の埃を被りながらも、その角だけは崩れずに揃っている。壁際の棚には、それの部屋にはなかった小物がいくつも並んでいたが、どれも色を失い、何であったのかを判別できるものは少なかった。振り返ると、開けたばかりの扉の内側、その床際に、細かな引っ掻き傷が無数に刻まれていた。


スキャンを実行する。

寝具に残る繊維は二種類、そのうち一方は、それがいま身に着けている衣類のものと一致する。棚に並ぶ小物のひとつは空の首飾り掛けで、台座の擦れ方からして、長い間、毎日のように掛け外しされていたらしい。床際の傷は深さも間隔も揃っておらず、同じ場所が何年にもわたって、繰り返し削られている。


解析は、それで終わっていた。この部屋から得るべき情報はもう何もなく、留まる理由もない。それでも気づけば二度目のスキャンを実行していて、結果が一度目と寸分違わないことを確かめてもなお、しばらくその場を離れなかった。何かがあったはずだった。


寝室を出る。理由もなく体に重みを感じたまま、突き当たりの階段を下りると一段ごとに軋みが上がり、途中の踏み板は、それの重みに耐えきれず音を立てて割れ落ちた。損傷はない。損傷はない。


一階のリビングには、二階よりも広く光が差し込んでいた。ソファは座面が沈み込んだまま形を崩し、壁には、時計が掛かっていた場所だけが周りより濃い色のまま四角く残っている。その真下では、落ちて砕けた文字盤の破片が埃に埋もれていた。テーブルを挟んで椅子が二脚、一方だけが少し引かれたまま、その脚の下から玄関のほうへ向けて、細かな引っ掻き傷が幾筋も伸びている。


スキャンを実行する。

ソファの沈み込みは座面の左右で深さが異なり、右側だけが、同じ重さを長い時間受け止め続けた形に歪んでいる。


リビングの奥は、仕切りもなく玄関ホールへと続いていた。扉の手前、光の届かない床の上に、何かが崩れている。原型をとどめないほどに朽ち、床の色とほとんど見分けがつかない。


スキャンを実行する。


『名称:不明。性質:犬型Android、四足歩行・小型。命令:不明。状態:駆動系停止、四肢関節に過負荷による焼損』


外装の大半は失われていたが、残存する骨格と関節の構成から、機体の分類だけは特定できた。前脚の一本だけが、関節ごと焼けついたまま、何かへ向かって伸びた形で固まっていた。


この家には、少なくとも二体の人型と、一体の犬型がいた。人型の一体はそれ自身であり、自室をほとんど使わず、あの寝室で、もう一体と同じ寝具を使っていた。もう一体は毎日首飾りを身に着けていたが、その首飾りは、今この家のどこにもない。犬型は、寝室の扉の内側と、リビングから玄関へ向かう床を、何年にもわたって引っ掻き続け、そして玄関の手前で、前脚を伸ばした形のまま、機能を停止した。いま、この家で動いているのは、それだけだった。


玄関の扉の前で、それは足を止め、手の中の写真にもう一度目を落とした。差し込む光の角度がわずかに変わったせいか、九つの影は先ほどよりもいくらか鮮明に見えたが、それでもどれひとつとして留まることはなく、読み取ろうとするたびに、輪郭だけを残して靄の向こうへ退いていく。足元にうずくまる小さな影に目を留め、傍らの残骸へ視線を移し、もう一度写真へ戻す。その往復に意味はなく、照合は何度繰り返しても、同じ空白を返すだけだった。


何かが欠落していた。欠けているものが何であるのかを示す語彙も、記録も、どこにも残っていない。ただ、欠けているという事実だけが、穴の縁のように、はっきりとした形でそこにあった。


『命令:欠落データの復元。』


果たすべき目的など、とうに失われていた回路に、その一行だけが、誰に命じられたわけでもなく書き込まれていた。扉に手をかける。蝶番は軋みひとつ立てずに回り、隙間から溢れ出した白い光が、残骸を、写真を、そしてそれ自身を、輪郭ごと呑み込んでいく。光の中を舞っていた埃が、落ちることなく、ゆっくりと宙へ昇っていった。

ちなみにガチガチな文体なのは読んでいただいたらわかると思うので

そこだけはご了承ですね

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