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少年の出発

「ノルテ国が落ちた」

「馬鹿な、こうもあっさりと」

「王族や貴族は皆殺しにあったそうだ」

「庶民は」

「それはわからん」


 冒険者ギルドでもノルテ国の壊滅が話題になり、ザワザワと落ち着きがない。

 人類の盾とも言われた北の大国が、二年間という短期間で陥落した事実は冒険者たちにも衝撃と動揺を与えた。魔族はひとまずノルテを拠点とするようですぐさま南下してくる様子は見られないという。

 だがこれからどうするのか、戦うのか、逃げるのか、そんな言葉が冒険者の間で交わされていく。それでもリオはいつものようにカウンターにその日の獲物を乗せて、報酬を受け取っていた。


「リオ!」


 その日はいつかのように声をかけられ、視線を向ければロイたちがこちらに向かって手を振っていた。

 先日、この場であった時と同じように食堂の一角であった。


「久しぶり」

「おう、久しぶり。ちょっと北の方に行っててさ」


 この前に会った時以来の顔合わせになることをリオが言えば、ロイがそう返した。思わずリオは目を見開いた。そこかしこで冒険者たちが話しているように、今北のほうは魔王が率いる魔族との戦争状態なのだ。


「北って」

「ノルテではねぇな。とは言え、そこも結構な混乱だったけどよ」


 そういってロイは少し疲れたような顔をした。それなりに大変だったようだ。どうやらノルテが魔族によって陥落したという話は、ロイたちが持ち込んだ情報らしい。

 ついさきほどまでギルドのお偉いさんたちを相手にあれこれ質問されていたという。


「ノルテからはすげぇ数の難民が出てる」

「なんでも、勇者と聖女が魔王に殺されたらしい」


 ロイは声を潜めていたが、その言葉はおそらくこの場にいたほとんどの冒険者の耳に届いただろう。

 シンッと、耳が痛くなるほどの静寂が建物を満たした。


「それ、本当?」

「わからん。俺が聞いたのはその噂だけ。聖女はノルテの貴族令嬢だっていう話で、勇者はその婚約者の王子だっていうし、ただの話題作りで玉砕したんじゃねーか。っていう話でもある」


 ロイが答える。ノルテ国が人類の盾と呼ばれ、大国である理由はその国に勇者と聖女が生まれるからだ。実際、二年前に聖女が預言によって見つかり、ついで勇者も発見されたという一報がギルドにも伝わっていた。

 だがその聖女と勇者は魔族に殺されたという。ロイが言うにはあまりにもあっさりと殺されすぎて、ノルテ国上層部が偽物だったという告知を出したらしい。

 だがそれでも聖女と勇者を名乗り、その二人が死んだという話が、ノルテ国の滅亡を招いたのは間違いないだろう。


「まぁ、魔族の方も勇者と聖女を探してるって話だな」


 ロイが最後にそう付け加えた。確かにあちら側からすれば、一番の目の上のたん瘤だろう。

 ノルテ国が滅亡前に発表した「死んだ勇者と聖女が偽物」という報告が本物であれば、まだ人類には希望があることになる。

 そう言うロイの言葉にうなずきながらリオは「そういえば」という様に話題を変えた。


「あ、そうだ。僕、明日にはこの街を出るよ」

「え、随分と急だな」


 ガズが驚いたようにそう言った。ロイとラルも同じような表情を浮かべている。そんな三人に、リオは肩をすくめた。


「そうでもないよ。目標金額がたまったからね」

「そりゃまぁめでたい」

「よかったね」


 ガズとラルがそう答えると、ロイも「そうだな」と頷いた。リオがなんど誘われてもロイ達のパーティに入らなかったのも、何か目的があるのだろうと三人は思っていたが、どうやらそれがかなったらしい。

 寂しくなるな。と、ロイは言う。


「町を出る前に会えてよかった」

「水くせぇな! まぁまたどこかの町であったらメシでも食おうぜ」

「そうだね」


 リオの言葉にガズはバシバシとその背中をたたきながら言うと、リオは少しだけ照れたような表情を浮かべて頷いたのだった。



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