ep.143 王女奪還作戦②
すっかり忘れていましたが、第2巻が本日発売でした!
更新が遅くなり申し訳ありません!
「ということで、スリード近郊に着いたわけだけど」
さすがにグラさんに乗って街に行くわけにはいかないので、スリード近くの砂漠地帯へと降り立った。
気配察知で探ってみたものの、勇者はおろかエリーの気配すら察知できていない。これは、なにかしらの対策をされていると考えてもいいだろう。だが、テンドの性質上、エリーがすでに死んでいるということはないはずだ。
おおかた、俺と勇者を戦わせようとかそんなところだろう。なぜかテンドは俺にこだわってくる節があるからな。だが、今回に限っては逆に安心できる。1つ不安と言えば、エリーが勇者に襲われていないかどうかだが……こればっかりはなんとも言えないな。勇者の側にいた女性がストッパーになって、くれて、いると…………あ。
「あ」
あることに気がついてしまった。勇者は洗脳もしくはそれに準ずるなにかをされている可能性が高いと。これは、もしかしたら聖属性の魔法でなんとかなるのでは……? テンドによる妨害があったら分からないけど、もしそうじゃなかったらそれでかなり状況が改善するのでは?
「――と思うんだけど、3人はどう思う?」
一緒に来てくれているミレイちゃん、ルナ、ヨミに確認してみると、3人はぽかんとした顔をしている。そんなに難しい話をしていたつもりは無いんだけど……もっと砕けた言い方をしたほうがいいのか?
「えっと、普通にそのつもりだと思ってたよ?」
「はい、あとはどこにいるかだけだと思っていました」
「うふふ、みんなで手分けすればすぐだと思います」
婚約者達が優秀すぎてつらいんだが? ただ、テンドがそこまで考えていないとは思えないからなぁ。まぁ、ひとまずエリーを救出するのが優先か。
「俺はこのまま砂漠地帯を探索してみるから、3人は手分けしてスリードの街を探索して欲しい。何か分かったら伝声の魔導具で連絡すること。あと、絶対に危ない真似はしないように!」
「わかった!」
「承知しました!」
「うふふ、すぐに見つけてきますね」
ミレイちゃんも特訓に特訓を重ねたお陰でかなりの強さを持っている。Aランク冒険者相当はあるはずなので、すぐに遅れをとることはないだろうが、対人戦の経験は少ないからやや不安はある。ヨミにはそっとその旨を伝えておいたので、フォローしてくれるだろう。
「さて、これで人払いはできたかな」
確かに、未だに勇者やエリーの気配は察知できていない。言い換えれば、俺の気配察知と空間把握を誤魔化せるほどの魔法を使われていると言うことになるわけだ。そうなると何が起こるかというと――
「――あの辺だな」
およそ2km先あたりに視線を向ける。視線の先からは勇者達の気配は一切感じない。そう、勇者達含む全ての生き物の気配の気配が無いのだ。
言うなれば空白地帯になっている状態なのだ。ただ、これが第三の封印によるものなのか、勇者の魔法によるものなのか、はたまたテンドによるものなのかは判断できないが、何かしらがあるのは間違いない。
「身体強化、待機呪文、遅延呪文、気配遮断」
久しぶりに補助魔法を全力展開した。まぁ、気休め程度にしかならないかもしれないが、俺の全力と良い勝負をするとテンドが言っていたのだから、用心するに越したことは無い。しかし、ここからは初めて使う魔法だ。それこそ、テンドも知らない魔法と言うことになる。
「完全把握」
これは、気配感知・空間把握・感覚強化・五感強化・並列思考を複合させた魔法で、取得できうる情報より、自分の周囲における情報を完璧に把握するものだ。これは擬似的な未来予知にも届きうる魔法と言っても過言では無い。弱点を上げるならば、脳への負荷が大きすぎて長時間の使用は危険と言うことだろう。
実際に使うのは初めてなので、どれくらい使えるかは不明だけどね。だが、この魔法を使って初めて分かる。先程まで何も無いと思っていた場所に、薄らとだが結界のようなものが見える。印象としては、次元そのものが違うような、そんな印象だ。
「中までは分からないな……。だけどはっきりした。あれは封印じゃないな。あれが封印だったら、普通の人間では見つけることはまず無理だろう」
となると、勇者の張った結界ということになるけど……近づいたら思うつぼだよな。どうにかしてここからあの結界を破壊できれば……
おもむろに右手に用意したのはミスリルで作った弾だ。いつも使っている鉄貨とは訳が違う。もはやお馴染みとも言えるが、雷属性の魔力により磁界を発生させる。さらにミスリルの弾を魔力で包み込む。いつもならこれで発射するところだが、さらに追加で風属性を纏わせて空気抵抗を減少。発射のイメージはジャイロ回転するように、だ。ここまでくれば新しい魔法と言っても過言ではないかもしれない。
「くらえっ――電光雷砲撃!」
文字通り、目にも留まらぬ速さで射出されたミスリルの弾丸は、あっという間に結界へと到達した。魔法への親和性の高いミスリルの弾丸は、いともたやすく結界の弱点を撃ち抜いた。俺の完全把握のおかげで、比較的に結界の弱いところを発見できていたのだ。
あれが勇者ではなくテンドの張った結界だったならば、こんな芸当は無理だったかもしれないけど、今回は運が良かったと言うことだろう。
かなり広い結界にできたほんのわずかな歪みだが、それは決定的なものとなる。一度決壊したダムはもう止まることなど無く、瞬く間に全壊するのだ。
この技は展開するのに時間(約3分)こそかかるけれど、威力だけ見ればとてつもないものがある。改良の余地ありかな。
結界が無くなった途端、感じ取ることが出来なかった懐かしい気配を感じ取れる。間違いようのない、エリーのものだ。気配を感じ取ったと同時に走り出し、2kmほどあった距離を1分も経たずに詰めると、そこには椅子に座ったままぐったりとしているエリーと、感情の読み取りにくい顔をした勇者が立っていた。周りには以前見かけた女性2人が見えないが、どこかに置いてきたのだろうか。
しかし、今はそれどころじゃない。はやる気持ちを抑えながらも勇者へと声をかける。
「エリーを返してもらおうか」
「……お前が邪神を復活させようとしているっていう悪者だな? お前に王女は渡さない。生け贄になどさせてたまるか!」
「えっと、何を言っている? 生け贄? なんのこと?」
「しらばっくれるな! 神がお前は邪神を復活させる悪者だと言っていた。そんなやつが王女に近づく理由は、生け贄以外にあるはずがない! 俺はお前を殺して……殺して……あれ、殺して、どうするんだ……? いや、でも……とにかく殺す! 邪神復活はさせないぞ!」
若干だけど記憶に障害があるように見受けられる。テンドが強制的に洗脳をかけたのか、それとも洗脳されているところに洗脳を上書きされた弊害か。しかし、試してみる価値はあるな。
「……セイクリッドヒール」
バチンッ
「ん? 何かしたか?」
勇者がにやにやした顔でこちらを見てくる。どうやら自分の周りに結界か何かを展開しているのだろう。面倒なことこの上ない。
どっちにしろ、話が通じるような相手ではないことは間違いないし、ここは、一度たたきのめして正気にもどすしかないだろう。回復魔法をかけようにも、抵抗されるうえにその前に移動されたり攻撃される可能性も否めないからね。
「かかってこい!」
勇者との戦いの火ぶたが切られた。
のんびりと更新していきます。
(書く時間が確保できないだけ……←)
前書きでも書きましたが、本書の第2巻が本日発売です。
(電子書籍は11月27日だったらしい)
年末は時間が取れそうなので、頑張って話のストック作るぞ~!




