ep.142 王女奪還作戦①
「アウル様! 第三王女様が勇者によって攫われました!」
朝起きたと同時くらいに入ってきたメイドによって、一大事が伝えられた。
「!」
いつもだったら王女の悪戯だと言って切り捨てるだろうが、今回は違う。前日にテンドから聞いたこともあり、これが現実だとすぐに判断することができた。それにしても、気になることがある。
いくら勇者とはいえ、一国の王族を誘拐するなど正気の沙汰とは思えない。……正気の沙汰じゃ……ない?
「……誰かに操られている?」
テンドが操っている……とか? いや、あいつがそんなつまらない事をするとは思えないし、第一、直接手は出さないと言っていたんだから、そんな面倒なことをするとは考えにくい。
あくまで自発的に、それでいてテンドが面白おかしくなるような方法をとったに違いないだろう。となると、要因はそれ以外にあると考えてもいいはずだ。召喚された日本人とはいえ、見た目や雰囲気からは馬鹿っぽさはあまり感じられなかった。
むしろ、どちらかというと頭のキレそうにも思える。本人以外に要因がありつつ、勇者を操縦できる人物。そうなったら考えられる人物は多くない。
あの恋する兎亭で見た妙に色っぽい女性、あれはかなり怪しい。纏っているオーラがかなり独特なものだったのを覚えている。しかし、雰囲気から推測するに、決して強くはないのに勇者の旅に同行が許されている。
では、その同行を許可したのは誰か。
勇者が自ら推薦した可能性もあり得るが、一番考えられるのはやはり『教皇』だろう。勇者のサポートという立場を笠に着た、監視と操縦があの女の役目と考えていいだろう。
とまぁ、ここまではちょっと考えればわかることかもしれないが、なぜエリーを誘拐したかだ。だが、これには見当がついている。
「どうせ、俺がイナギを復活させようとしていることを聞いたんだろう。そんなやつが王女の近くにいるんだ。勇者に選ばれるような男が、それを聞いて黙っていなかったんだろう」
俺が王女を助けるんだ! くらいは思ったんだろうな。それで、それを可能にするための能力をテンドからもらったと。そんなところだろう。まぁ、操らないにしても、テンドも暗示くらいはかけたかもしれないしな。
っはぁ~……面倒だな。
全てがすっきりするまで頑張ると決めたとはいえ、些かのんびり成分が足りていない。旅行でもなにかと忙しかったし、ボケっとする時間が少なすぎる。我ながら働きすぎだよな。エリーの無事も確認したいところだし、なるべく早く片を付けるべきだろう。それに、契約期間前とはいえこのまま放置しておくのは護衛としてちょっとなぁ……。
下手に難癖付けられて報酬をなくされても困る。だが、これはある意味で好都合ともいえる。
おそらく教皇にとってもテンドが絡んでくるのは想定外だったはずだ。つまり、こんなに直接的に王国に喧嘩を売るつもりはなかったに違いない。だが、テンドのせいでその思惑は崩れた。
第三者的にみると、宗教国家ワイゼラスが召喚した勇者が王国の王女を理由なく誘拐したようにしか見えない。あとから何か言おうが、それはこじつけでしかないだろう。
要は、先に喧嘩を売ったのはワイゼラスなのだから、手加減は無用ということだ。
「遠慮は無用だな。あとは、勇者の能力だけど」
テンドからもらっているであろう力はおそらく空間かそれに準ずる何かに違いない。でなければ王城の誰にも気づかれずに王女を攫うなど不可能だろう。
こんなときに頼れるのはやはりあの人だろう。
『……あー、アルフにお願いがあるんだけどいいかな?』
『第三王女の捜索、でございますか?』
『耳が早いね、さすがアルフだ。……もしかして、もう居場所が分かっていたりする?』
どこで情報を仕入れたからしらないけど、やっぱりアルフは頼もしい。
『申し訳ありません、正確な場所までは……――しかし、大まかでよろしければわかっております』
……有能すぎない? なんか、俺がいらない気がするんですが。でもまぁ、空間能力が使えるのは、龍帝を除けばアルフだけだ。アルフでわからなかったらお手上げだからな。王都に連れてきていて本当に良かった。
『ちなみに、それはどこなの?』
『それが……スリードと呼ばれる街の近くにある砂漠地帯のようです』
「スリードかぁ……」
スリードは第3の封印場所として想定している場所だ。まさかとは思うが、偶然だよな……? いや、こういうときは最悪の場合を想定するのがセオリーか。これについてもテンドが関わっていると考えた方がいいだろうな。
『わかった。じゃあ国王に説明してからすぐに向かうよ』
『かしこまりました。私は先行いたします』
そうと決まれば早いほうがいい。下手に動かれて軍が出張ってくれば、封印の場所に沢山の軍人がくる可能性が高い。封印が露見する確率が低いとは言え、あまり好ましい状況でもない。さらには、俺がなんの憂いも無く戦うには人は少ない方が良い。
未だに部屋の片隅でハラハラしつつも待機してくれていたメイドさんに声をかけた。
「国王陛下に謁見をお願いしてもよろしいでしょうか。少し時間が無いので、急いで頂けると――」
「――すぐにお伝えしてきます!」
俺の言葉を待っていたかのように、すぐに笑顔で返事をして部屋を出て行った。
国王への謁見はすぐだった。それこそ、15分程度というレベルだ。まぁ、謁見と言うよりは応接室での談話という形式だが。
「して、エリーは無事なのだろうか!?」
「おそらくですが、無事だと思われます。居場所についても仲間がおおよその場所を見つけております」
「おお! それはまことか! そこはどこなのだ!」
今更だが、どうして王女を誘拐したのが勇者だと判明したかだが、王女の部屋の前で待機していたメイドが物音に気づき、部屋に入ったら勇者がいたそうだ。勇者の特徴は事前に聞いていたと言うこともあり、すぐに分かったそうだ。
「スリード、と呼ばれる場所です」
「スリードか……うむぅ……」
スリードは王都からどれだけ急いでも、馬車で4日はかかる場所にある。さらに、軍を編成して行軍の準備、それら全てをひっくるめても1週間はかかるはずだ。
「そこで俺たちが先行します。移動手段についても僕たちにはグラさんがいますので」
「そうか……まだ護衛依頼予定よりはやいが、すまないがエリーを――娘を頼む!」
「お任せ下さい」
確実に助け出してやるぜ。だが、これはチャンスでもある。上手くいけばスリードで欠片の回収も出来るし、この任務自体終わらせることが出来る。
そこからは急いで王都に家へと帰宅し、グラさんに頼み込んだ。アルフにお願いしようにも、先程から連絡が取れなくなってしまっている。アルフに何かがあったと考えるのが妥当だろう。
幸いにも、グラさんが快諾してくれたのでスリードへは1~2時間もあれば着く。
「待ってろよ、勇者」
◇◇◇
SIDE:アルフ
夜中に若干の不穏な空気を感じたと思ったら、案の定の結果となってしまいました。空間属性の魔力が王都から一気にかなり遠くの場所へと移ったのを感じましたが、1回の転移でここまで移動できるとはかなりの使い手でしょう。
「場所は……スリードですか。ふむ……あそこは確か三番目の封印の場所だと主様が言っていましたね」
そうこうしているうちに、主様から念話が来ました。どうやら王城から第三王女が誘拐されたと。そして、それが勇者によるものだとか。とくれば、先程感じた空間属性の魔力は間違いなくそれでしょう。
ただ厄介ですね……。空間属性の魔力反応から察するに、主様と同程度の強さである可能性が高そうです。何故に王女を誘拐したのかはわかりませんが、正常な理由ではないことは間違いないでしょう。
主様は国王と話があると言っていましたし、私はすぐさま現場へと行った方がいいでしょう。さすがにこの距離で人の移動は魔力の消費が激しすぎますからね。主様のことですから、龍帝に頼んですぐに来られるでしょう。
「転移」
……ふむ? いつもならすぐに着くはずが着きませんね……。まさか、何者かに妨害された?
『やぁ。君がアウルの懐刀だね。まさか空間属性を使える存在がこの時代にいるとは……おっと。そういうことかい。君はあの時代の存在か! あははは、まさか遙か昔に封印された君を召喚するとは、さすがはアウルだね!』
「……いったいなんの話です?私が封印?」
『そうか、完全には思い出せていないんだね。だけど、それは僕にとっては好都合だな。けど、君という存在は少し厄介だな。さすがに君には勇者は勝てないだろうから、この世界で留まってもらうよ』
ふむ……やはりここは異空間でしたか。しかも、かなりの強度がありそうです。念話もできませんし、この空間を破壊して外に出ようにも、おそらく1日はかかるでしょう。
「……あなたの目的はなんです?」
『僕の目的?うーん、そうだなぁ……。アウルと同じ、かな?ふふふ、じゃあ、僕は面白いところを見逃せないから、ばいばい!』
明らかに私よりも格上の存在でしたが、殺されずに済んで御の字ですね……。あんな存在がいるとは思いも寄りませんでした。もっともっと鍛錬をしなければ。
「主様、どうかご無事で」
そう独り言ちた私は、何も無い真っ白な空間を破壊すべく、魔力を練り上げ始めた。
のんびりと更新していきます。
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私事ですが、子育てと体調不良等で纏まった時間が取れずに更新が遅くなってしまいました……!
少しでも楽しみにして頂いていたなら誠に申し訳ありません。
ペースが落ちますが更新は続けますのでよろしくお願いします。




