ep.141 勇者とテンド
レーサム王国で同郷の人間と出会った。お面をしていたせいで顔を見ることは出来なかったが、あのときの僕よりも強いというのは直ぐに分かった。いや、理解させられたというべきか。アリーシャとイシュタルは気づいていなかったみたいだけど、後から出てきたお面の男からは今までに感じたことのない圧力を感じた。まるで魔力で押しつぶされるのではないかと錯覚するほどだ。
あの男と戦っていたらまず間違いなく負けていただろう。2人の手前、なるべく対等に話し合っていたけど内心ではずっと冷や汗をかいていた。しかし、あれのおかげで気付けたこともあった。
『魔法はイメージが重要』ということだ。
魔導士団長はイメージよりも詠唱を大事にしろと言われたが、違うということだろう。それのおかげで、その後の魔法訓練で実際に試してみたら驚いた。
魔法の威力の違いに、だ。
「あの男の強さには驚いたが、おかげで僕は一歩前に進むことが出来たわけだ」
まだあの男には勝てなくとも、いずれは追いついてみせるさ。きっと。
話は変わるが、レーサムでは魔導具をいくつか買うことが出来た。それこそ、水が永遠に出続ける水袋や火元がなくても温められる鍋などだ。あとは、障壁が一枚自動展開される指輪が目玉だな。値段も相当したがその価値はあった。僕が本気で攻撃しても1回までなら防ぐという優れものだ。
レーサム王国は軍事力においても有数だと聞いていた。中でも、4大貴族は槍のランサーズ家、剣のブレーディア家、槌のハンマーズ家、斧のアクスィア家と言われているらしい。
長男や長女といった最強と呼ばれる人たちはいなかったが、学院をトップの成績で卒業したという4人に会うことが出来た。
槍のランサーズ家次女
ランサーズ・フォン・リルティアナ
剣のブレーディア家三男
ブレーディア・フォン・アーガイル
槌のハンマーズ家三女
ハンマーズ・フォン・ミミュウ
斧のアクスィア家次男
アクスィア・フォン・トリクラス
4人は年齢的に僕俺のいくつか下だった。それでも、纏う雰囲気は確かな物だったが、子供の域を出なかった。実際に戦ってみたが、学ぶところはあるもののそれだけだった。というよりも、お面の男と比べてしまったせいかもしれない。
詰まるところ、仲間に出来るような人間はいなかった、ということだ。
あの男よりも先にきた2人からも、強い気配があった。男ほどではないもののそれに近い実力があったはずだ。僕が全力で戦ってギリギリ、いやもしかしたら……。
あまり考えたくないな。
……これも違うな。
冷静に判断すれば、僕は嫉妬したんだろう。同郷の人間だというのに、あいつは僕よりも強かったという事実に。あの男は転生で僕は転移。過ごした時間の違いを考慮すると、僕の成長度のほうが高いのは明らかだが……ふと、ひとつの考えが頭をよぎったのだ。
『僕は、あそこまで強くなれるのか?』
最初こそ大丈夫だと自分に言い聞かせたものの、生まれた疑念は時間と共に成長していったのがわかった。井の中の蛙、大海を知らずとはまさにこの事かもしれない、ってな。
そのとき、僕の目の前に『神』が舞い降りた。
薄々おかしいとは思っていたんだ。勇者として召喚されたというのに、女神や神といった存在に会えていなかった。しかし、やっと出会えた。まぁ、神にしては色が黒い気もするが、纏っているオーラは人のそれではない。まさに、天使や神というにふさわしい。
『やぁ、君が召喚されたっていう勇者だね?』
「あ、あぁ!四宝院 天馬だ。……あなたは?」
『僕?そうだなぁ。……すでに予想はついていると思うんだけどね』
「じゃあ、僕は……この世界で、なにをすれば良いのでしょうか?」
『うーん、そうだなぁ。この世界には君以外の転移者――転生者がいるのは知っているだろう?その者はね、実はこの世界の邪神を蘇らせようとしているんだ。そして、その者は君が次に行こうとしている王国の第三王女の直ぐ側にいる。第三王女は君の案内役に任命されていて、その王女の護衛という立場になぜかいるんだ。……ここまで聞けば分かるかな?』
邪神を復活させる……? あの男が? しかし、もしあの男が邪神から力を得ていると仮定するとあの強さも頷ける。そして、そんな男が僕の行く先で待ち構えている。ということは、レーサムで出会ったのは偶然ではなくて必然ということか? おおかた、僕の実力を測りにでもきたってところだろう。
「……あの男は、王女をどうするつもりなんだ?」
『そこまで定かではないけど、悪者が王女に近づく理由なんて、想像がつくだろう?』
邪神の復活――生け贄というのが妥当だろうな。
「そんなの許せないな。王女は何も悪くないだろうに」
『ふふふ、そうだよねぇ。けど今の君にはその者は倒せない』
「くっ……」
こうもストレートに言われるとグサッとくるね。
『そこでだ!君に力を授けようと思うんだ。それも、とっておきのね』
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
神が手をかざしたと思ったら、身を焼くような強烈な痛みが襲ってきたのだ。それが終わるまで1分なのか10分なのか、それとも一瞬だったのか分からないが、痛みが引いた頃、今までに感じたことのない万能感があった。今なら、あの男にすら勝てると確信できるほどに。
『ふふ、君に与えた力は【空間】だ。この世界では失われた属性と呼ばれる強力な力だ。使い方は――分かるだろう?』
体の内から溢れ出る強大な力が、その力の使い方を教えてくれる。制約はあるものの、転移や重力魔法といった魔法が使えるようになったのだ。
「王女もこの世界も俺が救い出してやるさ」
『うんうん、それでこそ勇者だ。王女の元へは僕が送ってあげるよ』
「うん、世話になる」
待っていてくれよ、王女様。俺が絶対に救い出してやる。
◇◇◇
ふふふ、行ったね。勇者が思ったよりも言うことを聞いたのには驚いたけど、きっと教皇がなにかしたんだろう。しかし、そのおかげでこっちもやりやすかった。
僕のプレゼントにアウルは喜んでくれるかな?
『あぁ、アウル。僕の大事な大事なアウル。今の僕にはこれくらいしか出来ないけど、喜んでくれると良いな。君には僕の――――ためにも、もっと頑張ってもらわないといけないんだから』
ゆっくりと更新していきます。
評価・ブクマ等して貰えたら嬉しいです。
自分が正しいと思っている勇者にアウルは勝てるだろうか……。




