どうやら《魔国プレナウス》の魔人は虎の子のゴーレムを投入していた模様
久々の更新なので調子にのって連日更新w
「ガアッ!」
ダイアウルフの一頭が咆哮を上げ、ブロブ・ゴーレムに噛みついた。
そのまま振り回しブロブ・ゴーレムを地面に叩き付ける。
だが、ブロブ・ゴーレムはそのままダイアウルフに纏わり付く。
ジュワッ!
「グギャアッ」
何かが焦げ付いた臭いがしたかと思えば、ダイアウルフの苦痛の声が上がる。
ブロブ・ゴーレムの攻撃手段は《捕食》。
スライムと同じく、取り憑いた相手を溶かし、そのまま吸収する。
ただ、ブロブ・ゴーレムはスライムより素早く、魔法に対する耐性も高い。
特に炎、雷撃、土系の魔法は全く効果が無い。物理現象を発現させる【魔法の矢】の様な魔法も無効。唯一効果があるのが氷系の魔法なのだが、凍結により一時的にその行動を封じるのが精一杯で、倒すには至らない。
当然、魔法の使えないダイアウルフには倒す手段が無い。
「グアボッ! ゴボゴボッ!」
それどころか、噛みつかれたブロブ・ゴーレムはそのままダイアウルフの口腔から体内――胃や肺に入り込んで捕食していく。
僅か一分強で全長二メートルはあるダイアウルフが骨も残さず消化される。
一時的にダイアウルフの血で紅く染まったブロブ・ゴーレムは、完全に消化吸収が終わると元通り透明な身体となる。その身体は捕食したことにより、一回り大きくなっていた。
ブロブ・ゴーレムはその軟体の一部を持ち上げ、蛇の鎌首のように次の得物を見定めると、近くにいたソード・ディアーに飛びついた。
ソード・ディアーは反射的に飛び退くが、避けきる事が出来ず、足首を絡め取られる。僅かに速度で勝ったブロブ・ゴーレムは、足首から全身へと這い上がり、そのままソード・ディアーを地面に引き倒し捕食を開始する。
「ケーーーーッ!」
ソード・ディアーが悲痛な叫びを上げ、それを助ける為に《白き風の森》の眷属達が組み付くが、全てがブロブ・ゴーレムの餌となっていった。
■
ワスプ・ゴーレムはブンブンと羽音を立て周囲を威嚇する。
やがて一体のシルバーバックに目を付けたのか、群体で一斉に襲いかかった。
シルバーバックは拳を振るって応戦するが、ワスプ・ゴーレムの速度はそれこそ蜂の様に速く、的確に捕らえる事ができない。
稀に何匹かのワスプ・ゴーレムを平手ではたくことに成功するが、数匹が行動不能になったところで千匹近い群れで構成されたワスプ・ゴーレムには殆ど効果が無い。
それどころか弾き飛んだワスプ・ゴーレムも、大したダメージを負っていないのか、すぐに復帰してシルバーバックに攻撃を再開する。
ワスプ・ゴーレムは通常の蜂と違い毒を持たないが、矢尻のようにシルバーバックに突き刺さり、内部から攻撃を加える。
やがて心臓を食い破られたシルバーバックは、口から大量の鮮血を吐き出すとそのまま崩れ落ちた。
ブロブ・ゴーレムとワスプ・ゴーレム。
対抗手段のない相手との戦闘は次第に躙と化し、《白き風の森》の眷属達に動揺と混乱が拡がる。
それはやがてパニックとなって彼らを悲惨な末路へと追い立てた。
■
両腕が鎌になった半人半虫のゴーレム――人間サイズのカマキリのようにも見えるその名は《ブレード・マンティス》と呼ばれる存在。
ブロブ・ゴーレムやワスプ・ゴーレムに比べると与し易い相手ではあるが、それはその速度に対応できた場合に限る。
その細い身体は空気抵抗が少なく、身体の大きさからは想像もできない速度で森の中を自在に動き回った。
十メートル程度の距離であれば、瞬きの間に移動出来る程機敏であり、その速度に翻弄され命を落とす者も多い。
それが周囲の眷属達に次々と斬りかかる様は、一方的な虐殺と言って良かった。
ブレード・マンティスが眷属達の脚や腕を斬り裂き、移動速度を奪った所に他のゴーレムが襲いかかる。
《人形繰者》ラディルの手によって高度な連携を行うゴーレム達に、眷属達は為す術無く翻弄され続けた。
■
『グオアッ……バ、バカな……』
一頭のダイアウルフが、眷属達だけに伝わる言葉で驚きの声を上げる。
その喉からは何かに噛みつかれたのか、ダラダラと血が流れ出していた。
辛うじて致命傷は免れているが、このまま治療もせずに戦い続ければ、やがては命を落とすことになるだろう。
驚愕に彩られたその両目には、己が仕える眷属の姿があった。
眷属の混乱に拍車をかけるそれは、煌牙狼ファオリアの側近である光狼。
真っ赤に燃え上がる光狼の両目には、かつての理性的な気配は見えない。
遙かに邪悪な気配でもって、眷属達を敵として見なし、その爪と牙を振るっていた。
他の眷属達も光狼に対し、どう対応すべきか分からず、いたずらに負傷者を増やしていく。
この光狼はメイフィスが森に入る際に支配した眷属であり、今は自己の意思を呪いによって押さえつけられている。
そう……ただメイフィスの為に戦うメイフィスのペットでしかない。
それが分からない眷属達は、何とかして光狼の目を覚まそうと説得を試みるが、そもそも呪いを解呪しない限り、それは叶わない。
混乱の中、突如として巨大な白い腕が光狼を押さえつけた。
『慌てるでない。此奴は呪いを受けておる』
『呪い……ですか?』
『うむ、敵に《獣魔王権》がおるのじゃ。彼奴に支配されとるのじゃろう』
そう言いながら、モードレットは暴れる光狼を難なく左手で押さえつけた。
そのまま空いてる右手の人差し指をズドンと光狼の首筋に叩き付ける。
『カフッ』
光狼は短く呼気を吐くと、そのままグッタリと倒れ伏す。
それを見た眷属達は、皆一様に安堵の息を漏らした。
だがそれもつかの間。
モードレットの左頬に黒い塊が激突し、モードレットを吹き飛ばす。
更に気を失った光狼にも動揺に黒い塊が襲いかかり、一瞬で血塗れの肉片へと変貌させた。
自分たちの主たる霊獣を地面に叩き付けた謎の現象に、眷属達が浮き足立つ。
その隙を許さないとばかりに、何度も眷属達を黒い塊が遅い、周囲の地面が赤い沼地へと変貌を遂げた。
しかも、何故か所々が焦げ付き、血液は沸騰し泡を立てていた。
『キ……貴様……』
立ち上がったモードレットが見たのは、モードレットより巨大なゴーレム。
《小妖精のローブ》を身につけていた時は人間と大差無いサイズだったが、それを脱ぎ捨てた今、その全高は七メートルを超える鋼鉄の塊。
《人形繰者》自慢のアイアン・ゴーレム。
漆黒の巨体は鎧を身につけた兵士の様であるが、そのシルエットは横幅がかなり広い。
相当な筋肉質の兵士が全身鎧を身につけても、こうはならないだろうと思われるほどの圧倒的な存在感があった。
その太い両腕は血で染まっているが、その血が熱した鉄板にぶちまけられたように、ジュウジュウと音を立てている。
見れば、殴られたモードレットの左頬も火傷を負っていた。
アイアン・ゴーレムは他のゴーレムと違い、鈍重な身体に効率良く魔力を伝達する為の《血液》とも言えるものを持っている。
その《血液》の正体は《熱で溶けた鉄》。千六百度以上に加熱された鉄が魔力で保護された《血管》の中を流れ続けている。
その為、アイアン・ゴーレムの全身は、低い所でも数百度の熱を纏う。
特に拳は血管が表層に近いため、温度が高い。
そんな拳で殴られたのであれば、火で熱した鉄鍋を押し付けられるのに等しい。焼けただれるのも当然と言えた。
ただ、モードレットには一つ疑問があった。
モードレット達とアイアン・ゴーレムの間は十メートル以上の距離が空いている。
身長が七メートルを超えるとは言え、アイアン・ゴーレムの拳が届く距離とは思えない。
一体どんな技を使ったのか……。
その答えはすぐに出た。
アイアン・ゴーレムは腕を振りかぶり、右ストレートを繰り出す。
すると、肘から先が切り離され、飛んできたのだ。
モードレットは咄嗟に躱すが、回避した先にはアイアン・ゴーレムの左腕が飛来し、モードレットを直撃する。
『ぐはっ!』
モードレットが苦悶の声を上げる。
飛んできた両腕は空中で弧を描くと、アイアン・ゴーレムの元に戻っていく。
レイジがこの場にいれば『ロケット・パンチじゃねーか!』と騒いだかもしれない。
だが、モードレットはそんなものは知らない。
ただ、鈍重と思っていたアイアン・ゴーレムが、想像以上の難敵であると初めて理解し、舌を巻いていた。
レイジ:「シ……シリアス展開?」
お前出てないからねw
レイジ:「なんですと!?」