表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/71

ターゲット③

 Mr.Tに依頼したのは、NHKに応募した際の俺の住所を書き換えることだ。当選者だから、当然パソコンかサーバーで管理しているだろう。それにアクセスして、住所を書き換えてもらうのだ。このマンションを探り当ててしまうのは、非常にまずい。だから偽の住所に変えるのだ。頼んだのは歌舞伎町の雑居ビルの住所だ。佐々木組長から紹介してもらった空き事務所である。俺は、ここに分身仏を待機させるつもりだ。テレビ放送後、動きがあれば、連絡が入る。


 しかし、まさかこの歳になって、お母さんといっしょに出演するとは、全く思っていなかった。翌日の朝、俺は、こっそりテレビを見た。出演している児童は、歌のお姉さんとお兄さんと、一緒にお遊戯したり、歌を歌ったりしている。レイちゃんによると3歳までしか出られないというが、俺、一応、4歳になったような気がするんだけど大丈夫なのか。しかし、実際、テレビに映っているのは、1、2歳くらいの子たちが多い。保育園に通い始めた頃、俺は恥ずかしくて仕方なかった。でも、今回の方がずっと恥ずかしい。なぜなら撮影されるからだ。撮影されると思うと、もうたまらなくなる。そして、放送は絶対に録画される。必ず、それを何回も見せられる。さらに、かすみとレイちゃんが選んで買ってきた洋服は、おそらく、ヒラヒラがついたパステルカラーのド派手な服のはずだ。その上、俺の美貌。かなり目立つ。テレビカメラが俺をターゲットにするのは、予想がつく。俺はどんな顔で映されるのか。いや、どんな顔をすればいいのか。かすみは泣いてはダメだと言っていたが、すでに泣きそうだ。

『何見てるの?』

俺は慌てて、テレビの電源を切った。しかし、すぐにリモコンを取り上げられ、再び電源をオンにされた。画面にお母さんといっしょが映し出された。

『ちひろちゃん、いやと言いながら、本当は嬉しかったのね。テレビ見て、予習してるとは、熱心だわ。』

『ママ、違うの。たまたまテレビをつけたら、やってただけなの。』

『ちひろちゃん、ママに嘘は通じないって知ってるでしょ。別に隠さなくていいのよ。恥ずかしがらずに、一生懸命、楽しんで来なさい。こんな経験、普通は出来ないんだから。』

一理ある。普通はあり得ないのだ。そっか、楽しむことに専念しよう。

『ちひろ、かすみから聞いたわよ。あなた、お母さんといっしょに出るんだって。私は忙しいけど、ちひろの晴れ舞台、仕方ないから見に行くわ。』

なんか嫌な予感がする。現場の監督に演出の注文をするかも。モンスターペアレンツになりかねない。

『そういえば、ちひろは母親を知らないのよね。お母さんといっしょに出るのに抵抗ないの。』

『大丈夫。今は大好きなママがいるから。』

『そうね。ちひろは甘えん坊さんだ。ほら、ママに抱っこしてもらいなさい。』

彩先生が俺を抱え、かすみの膝に預けた。

『ママ、大好き。』

『まあ、ホント、甘えんぼさんだわ。でも、レイが嫉妬しないのが不思議なのよね〜。ちひろちゃんのおかげで、レイはとてもしっかりしてきた気がするわ。ありがとうね。』

『ママ、レイだって甘えたいよ。でも、私はお姉ちゃんだから、妹を守るの。だって、ちひろちゃんは可愛いんだもん。』

『レイ姉ちゃん、優しいね。』

『あら、ちひろちゃん、泣いてるの?甘えん坊さんだけでなくて、泣き虫さんになっちゃったね。』

『私、みんなが優しくしてくれて、嬉しくなって、そしたら、涙が出てきちゃった。』

この体だと、涙腺が崩壊してしまう。俺は女性の感情を完全に会得したようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ