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共通点②

『ヒロ殿、何の用じゃ。』

俺は、阿修羅大王を呼び出した。すると3分ほどで、大王はやって来た。

そして、だだだだた、、、。

廊下を走る音。レイちゃんが気がついたようだ。

『おじさんが来たでしょ。』

『おお、レイ姫。今夜はヒロ殿と話があるのじゃ。』

『なあーんだ。つまんないなあ。』

『レイ姫に、そうだ言われると、辛いでござる。将棋のリベンジをしても良いかな。』

『やったあ〜。今、持ってくるね。』

レイちゃんが部屋を出て行った。

『阿修羅大王、いいのかい?』

『なんの、なんの。幸い、わしには顔が三つある。将棋をしながら、ヒロ殿と話も出来る。なんの問題もない。』

『ありがどう、大王。』

だだだだた、、、。レイちゃんが戻ってきた。

『おじさん、勝負ね。その前に、ちょっと待ってね。ぼんちゃん、約束は守らないとダメだよ。ここにいる時は、女の子にならないといけないんでしょ。早く、ちひろちゃんになって。』

我が家の女性陣は、俺に対して厳しい。これから、阿修羅大王と真面目な話をするつもりだから、ヒロの姿でいたが、許してくれそうにない。断ればいいだけだが、レイちゃんの頼みは、どうしても断れない。俺は4歳のちひろに変身した。

『お姉ちゃん、これでいい?』

『うん。お利口ね。チュッ。』

レイちゃんが、俺の頭を撫でた。何か、昨日、石川プロダクションで竹田に対して行った俺の行為と同じだ。レイちゃんは、将棋の盤面に集中し始めた。

『それで、ヒロ殿。いや、ちひろ殿。何の用じゃ。』

『先日の婆娑羅大将からの宿題、俺なりの仮説を立てたの。それを聞いて欲しい。』

『なるほど。話してみなされ。』

阿修羅大王の目は、俺の目を見ている。その目は鋭いが優しい。一方、将棋の盤面を見つめている目は険しい。レイちゃんに攻め込まれている。劣勢のようだ。

『私の仮説はこうよ。二つの殺人事件の共通点、それは、証拠がない。目撃者がない。動機がない。「ない」が共通点になっている。特に、証拠を残さずに殺人を行うというのは、素人の犯行ではないことを示唆指している。これは、プロの犯行。しかも、超一流のプロよ。私は裏社会を精通している。私の知っている限り、こんな離れ業を行えるのは、3人だけ。一人は私。そして、赤崎彩、つまり、彩先生。この二人は除外出来るのはいいわよね。もう一人は、近藤仁。でも、犯行当時、北朝鮮にいたことが判明しているわ。しかも、すでに死亡している。私が抹殺したから。

 そう考えていくと、この犯行は人が行ったものではないと推測できる。神の裁きが下ったのか。いや、被害者は、二人とも、悪事を働くような人ではなかった。だから、神と同じ力を持つもの。ずばり、魔界の住人の犯行と思うの。

 二人の被害者の唯一の共通点。それは「かすみ」よ。かすみの夫と、かすみの妹が被害者なの。犯人が魔界の住人、つまり悪魔だと考えれば、次の仮説が成り立つと思います。

 悪魔の狙いは、救世主。救世主とは、将来、レイちゃんから生まれる男の子。犯行当時、救世主の母であるレイちゃんは生まれていなかった。悪魔は頭がいい。ならば、救世主の母が生まれなければいいと考えたと思うの。レイちゃんの父親と母親の抹殺を魔界の暗殺者に依頼したと私は思っている。秦純平と秦香澄の暗殺。父親である秦純平の暗殺は成功した。しかし、母親である秦香澄の暗殺は失敗に終わる。たまたま、姉の家に来ていた妹の榊原泉美が、かすみと間違えられて殺されてしまったと思う。

 悪魔は、父親の暗殺成功で、目標は達成できたと安心したのかもしれないわ。しかし、悪魔は誤算をしたの。すでにその時、かすみのお腹にはレイちゃんが宿っていたの。かすみは名前を変え、姿を消し、そして、レイちゃんが無事に誕生したわ。

 そこで、悪魔は、次のターゲットをレイちゃんに定めた。しかし、ここで、また誤算が起きる。私の存在。私がレイちゃんを守っている。そのため、手出しが出来ずに、手をこまねいている。悪魔は頭がいいと言ったけど、悪知恵が働くだけだ。奴らの思考回路は単純。レイちゃんに手出しが出来ないのであれば、何を考えるか。すぐに答えが見つかるわ。レイちゃんから生まれてくる男の子。その男の子の父親。つまり、将来、レイちゃんと結婚することになる男の子をターゲットにするはずだ。だから、その男の子を守らなければならない。

 これが私の仮説。間違ってるかしら。』

『うーん。』

阿修羅大王は、目をつぶり考え始めた。険しい顔だ。


 阿修羅大王の険しい顔は、10分ほど続いた。そして、目が開いた。

『これで、どうだ。』

3-6銀。大王が目をつぶり、考えていたのは、将棋のことであった。

『おお、ちひろ殿、すまん。全く聞いてなかった。レイちゃんの将棋の能力が、この前よりさらにアップしておる。わしの脳みそ一つでは、太刀打ち出来ないレベルじゃ。しかし、幸いにも、見ての通り、わしには脳が三つある。だから、三つの脳で、3-6銀、この手を考えたのじゃ。申し訳ないが、話は後回しにしてくれるかの。わしは将棋に集中したいのでな。』

俺の仮説を全く聞いていなかったのか。俺の力の入った言葉、聞いていなかったとは、、、。夢中になるとは、恐ろしい。

『レイ姫、一つ聞きたい。姫は将棋を始めて、どのくらい経つのだ?』

『えーとねー、ぼんちゃんが、まだ、ちひろちゃんに変身してなかった時だから、ちょうど一年くらい前かなあ。ぼんちゃんに教わったんだよ。ぼんちゃんは、ヒロ君のことだよ。』

『まだ、一年しか経っていないのに、もうこんなに上達したのかあ。ということは、教えたヒロ殿は、さぞかし強いのか。』

『全然強くないよ。レイは、一回も負けたことないもん。』

『わしなんか、将棋を始めて、かれこれ3千年は経つ。3千年の歴史の中で、姫が最強かもしれない。』

『レイ姉ちゃんは、そんなに強いんだあ。』

『そうだよ。だから、今日も勝つよ。ほら、これで決まり!』

『う、、参りました。』

阿修羅大王が、頭を下げた。

『今回も完敗じゃ。前回より確実に強くなっておる。姫は、どのように将棋の勉強をしておるのか?』

『将棋の勉強なんて、したことないよ。その場で考えてるだけよ。』

『なんと。うーん、流石じゃ。ヒロ殿が守る理由が分かるわ。』

『それで、私の話は、どうなるのでしょう。』

『そうじゃったな。それがメインであったわ。悪いが、最初から話して下され。レイ姫、楽しかったぞ。また、再挑戦するからな。』

『おじさん、ありがとう。レイは、もう寝るね。お休みなさい。』

仕方ない。俺はもう一度、仮説を話した。

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