アイドル①
月曜日。ヤングマガゾンが書店やコンビニに並んだ。本当に評判になるのか、俺は半信半疑でいた。
『ママ、20歳になっても、やっぱり、ちひろちゃんは、おねしょしてるよ。』
『レイ、それは仕方ないのよ。赤ちゃんなんだから。ね、ちひろん。』
『ママ、おっぱい。』
『もう、完全に母乳の虜なのね。本当に、私の赤ちゃんみたい。』
かすみは、俺の口に乳首を当てがった。俺は夢中で吸った。この上ない幸せだ。
『ねえ、ママ。ちひろちゃんが結婚して、子供が生まれたら、やっぱり母乳出るのかなあ。』
『どうなんでしょう。母乳の前に、子供を産むことできるのかしら。』
『そしたら、ちひろちゃんは、赤ちゃんになれなくなっちゃうよね。レイ、それはつまらないなあ。赤ちゃんのちひろちゃんと遊ぶの楽しいんだもん。』
『でも、ひょっとすると、可能かも。ヒロ君の得意技。分身仏をいっぱい出してもらえば、平気かも。赤ちゃんの分身仏、保育園児の分身仏、モデルの分身仏、そして、母親になった分身仏。ね、これなら問題ないわ。』
『ママ、頭いい。それなら、普通のぼんちゃんもいるから、ママもラブラブできるね。』
『何言ってるのよ。レイったら。』
『本体は、赤ちゃんにしよう。そしたら、ずーっと赤ちゃんのままでいられるから。』
2人で、勝手な妄想話が進んでる。このままでは、俺は一生、赤ちゃんのままになる。この策略は阻止しなければいけない。俺にとっては、今がベストだ。赤ちゃんの姿で、おかすみに甘えたり、4歳児で保育園やバレエを頑張り、20歳の女性で恋愛を楽しむ。毎日が充実している。あれ?何かが違う。俺自身が隠れたままだ。俺が登場しないということは、平和な証拠と思えば苦にならない。
夕方、石川プロダクションの二階堂亜美から、連絡がきた。
『もしもし、ちひろさんですか。マネージャーの亜美です。』
『はい。こんばんは、亜美。』
『ちひろさん、例の雑誌の評判が凄いことになってます。問い合わせの電話が鳴り止まないです。だから、忙しいけど、部長の機嫌は最高です。仕事の依頼が、ビックリするほど来ています。ドラマや映画の話もあります。私、ワクワクしてます。』
『それ、本当なんですか。本当なら、海外ロケ行けるのかなあ?』
『間違いなく実施されるはず。私も水着、買っちゃおうかなあ。あはは。とりあえず、ネットで「ちひろ」で検索してみてください。凄さの一端が垣間見れますよ。とりあえず、知らせたくて、電話しちゃいました。明日あたり、部長から連絡行くはずです。では、失礼します。』
亜美の興奮状態から見て、評判になっているのは間違いないだろう。
俺はパソコンの電源を入れた。ネットに繋ぎ、言われた通り、「ちひろ」を検索してみた。すでに、雑誌に掲載されていた写真が無数にアップされている。コメントも多数、書かれている。低俗な文章も載っている。この女とやりたいとか、拉致したいだとか、まあ酷いものだ。ただ、大方の評判はいい。美人であるとか、スタイルがいいだとか。知性的だとか。なかには、こんな美しい女性など存在しない。CGによる合成だと決めつけている者までいる。
石川プロダクションは、第2弾を載せたいと思っている出版社の猛攻撃を受けているのであろう。ちひろは金のなる木と考えても無理はない。20歳のちひろは、忙しくなりそうだ。




