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誕生日③

『お待たせいたしました。』

シャンパンが運ばれてきた。

『ちひろん、誕生日おめでとう。かんぱーい!』

『カンパイ。』

グラスを合わせ、そして、シャンパンを飲んだ。久しぶりのアルコール。喉から胃に入っていく。しみる。以前、3歳児のちひろの時にワインを飲み、倒れたことがあった。果たして、20歳のちひろは、お酒に強いのか弱いのか、俺にも分からない。酔っ払って醜態を晒すことだけは避けたい。

 乾杯の合図をきっかけに、料理が運ばれてきた。どの料理も美味しく、そして会話も弾んだ。洋介さんは、シャンパンの後に、白ワインを注文してくれた。このワインが格別に美味い。これ飲み続けたら、完全に酔うと思った。シャンパンだけで、体が熱くなっているのが分かるくらいだ。

『洋ちゃん、お願いがあるんだけど。』

『どうしたの、ちひろん。』

『これ見て。明後日発売の雑誌の見本。』

俺は、例の雑誌を渡した。洋介さんは、表紙を見て、ビックリした表情を見せた。そして、中をペラペラとめくった。当然、プロフィールも読んだであろう。

『ちひろん、モデルをしていると聞いていたけど、まさか、ヤングマガゾンの表紙を飾るとは、ビックリだ。だけど、これは評判になるよ。なぜだか分かる?答えは簡単。美しすぎるから。これを見た男性は、みんな心ときめくはず。それで、お願いというのは、何かな。』

『編集長からも言われたのですが、今度の月曜日以降、周りの目に注意しなさいって。君は有名になるから、悪い人も近寄ってくるかもって。月曜日以降は、目立つような行動は慎むようにしないといけないの。一緒に歩いたりしづらくなると思うの。だから、今日だけは、普通のデートを満喫したいの。』

『大丈夫。ちひろんがモデルで成功することの邪魔はしないから。謎の美少女のプライペートを粗探しする輩が出てきそうだね。パパラッチに追われるかも。いずれにせよ、僕は味方だということを覚えておいて下さい。』

『ありがとう、洋ちゃん。今日はいっぱい甘えちゃおうかなあ。』

言ったことの意味を考えたら、恥ずかしくなってきた。

『私、酔っちゃったかな。』

『酔ったのは僕の方。完全に、ちひろんの美しさに酔ってます。』

『もう、何言ってるのよ。』

『そして、美しい君に、これ。気に入ってもらえるかな。』

洋介さんは、カバンから箱を取り出し、俺に渡した。

『ありがとう。開けていいかしら。』

『もちろん。』

厚い紙の箱の中から、ジュエリーケースが出てきた。ケースの中には指輪が入っている。ブルガリのリングだ。俺は、仕事柄、物の価値はそれなりに把握している。ジュエリーに興味はないが、その良し悪しは分かる。これ、安物ではない。かなり高価な代物だ。高校教師が会ったばかりの女性に贈るにしては、いささか高すぎる。

『とっても素敵。洋ちゃん、ありがとう。だけど、こんな高価なものいただいていいのかしら。』

『やっぱりおかしいよね。』

『いいえ、おかしいとか、そういのではなくて、私なんかにもったいないと感じたの。私は、洋ちゃんの気持ちだけでも、全然、嬉しいのよ。余計なこと言って、水を差しちゃったら、ごめんね。』

『ちひろんには、嘘はつけないや。口止めされているけど、話します。でも、その前に、リングをしてもらえたら嬉しいなあ。』

俺は、首を小さく縦にふり、左手の薬指にリングをはめた。サイズがピッタリ。なるほど、読めた。彩先生の策略だ。

『まあ、ピッタリ。洋ちゃん、大好き。』

俺は洋介さんの頰にキスをした。

『洋ちゃん、叔母の入れ知恵があったのね。ゴメンね。いつもそうなのよ。何にでも口を挟むの。悪気はないんだけど、行き過ぎることもあって。ほんと、ゴメンね。』

洋介さんに俺の指のサイズなど分かるわけない。俺自身も分からない。さらに、よくよく考えてみれば、レイちゃんがティファニーを購入するのも不自然だ。今日、俺は4人から、誕生日プレゼントをもらった。全て、アクセサリー。ところが、プレゼントが上手にコーディネートされている。かすみから、ネックレス。レイちゃんから、ピアス。彩先生から、腕時計。そして、洋介さんからは、指輪。出来すぎだ。

『ちひろんの言う通りです。正直に話します。事前にプレゼントを何にするか打ち合わせみたいなことを行なったのです。そのとき、彩さんから、「洋介さんは指輪担当よ。ちひろを幸せにしてあげて。」のようなことを言われて、僕は断れなくて、それに、そう言われたら、一番似合うものを選びたくなって、ちょっと無理して買ってしまったというのが事実です。』

『私の発言、男のプライドを傷つけてしまったみたいね。』

『そんなことないですから。ちなみに、孝から、予算オーバーした分は、彩さんが全て支払うと言われたのですが、さすがにそれは断りました。』

『変なこと言って、私って、可愛くないよね。』

『そんなこと言わないで下さい。僕がちょっと浮かれてただけですから。』

『洋ちゃん、この指輪、ずっと付けてるね。私、素直になります。ありがとう。』

『改めて言います。どんな宝石より、ちひろんが一番輝いているよ。誕生日おめでとう。そして、愛してます。』

『それなら証拠を見せて。指輪ではなくて、言葉でもなくて、、、私にキスをして。』

洋介さんは、椅子から立ち上がり、俺の腕を掴むと、強く抱きしめた。そして、唇を重ねた。

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