↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『異世界召喚された俺、現代知識を一つ教えるたびに美少女が増えていく 〜役立たず勇者と捨てられたのに、王女も聖女も竜姫も「次は私の国を救って」と押しかけてきました〜』  作者: 藤原朝臣御神常陸介釋寛浩


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
41/41

第40話 王女とエルフと聖女が、なぜか俺の夕食を監視している

「孝太郎さん。それが、今日初めての食事ですか?」


 聖女セラフィナの問いかけに、俺は口へ運びかけていた硬いパンを止めた。


「初めてではありません」


「では、朝は何を召し上がりました?」


「パンです」


「昼は?」


「……パンです」


「今、持っているものは?」


「パンですね」


 自分で答えながら、嫌な流れだと思った。


 俺たちが森の村から王都へ戻ったのは、日が沈んでからだった。


 セラフィナは約束通りフィルたちを診察した。


 膏薬を止めてから、三人とも黒い斑点の広がりは鈍くなっている。ただし、熱は完全には下がっていない。


 セラフィナの治癒で体力は戻せたが、原因を取り除けたわけではなかった。


 その後、神樹の封鎖状況を確認し、第二回の古代麦試験について農耕師と話し合い、王都へ戻って記録を整理していたら、夕食の時間を大きく過ぎていた。


 厨房へ行くのも悪い気がしたので、机の引き出しに残っていたパンを食べようとした。


 そこへ、セラフィナが来た。


 リュシアも来た。


 なぜかエレオノーラまで来た。


 現在、俺の小さな部屋には、三人の美少女が並んで立っている。


 見た目だけなら夢のような状況だ。


 ただし全員、俺が罪を犯したような顔をしていた。


「孝太郎」


 エレオノーラが硬いパンを指さす。


「昨日の夕食は?」


「食べましたよ」


「何を」


「干し肉とパン」


「一昨日は?」


「パンと……薄いスープ?」


「なぜ疑問形なのです」


「忙しかったので、あまり覚えてなくて」


「記憶再現の技能を持つあなたが?」


「興味の薄いことは、思い出す気にならないというか」


 エレオノーラの目が細くなる。


 まずい。


「食事に興味が薄い?」


「食べられれば、だいたい何でも」


「お前は馬以下だな」


 リュシアが言った。


「馬以下?」


「馬でも、自分に必要な草を選ぶ」


「俺だって毒草は避けますよ」


「森で、見たことのない団子を食べただろう」


「食べないと村へ入れなかったからです!」


「そのあと苔の汁も飲んだ」


「あれを出したのは、そちらでしょう!」


「全部食べたのはお前だ」


「食べろと言われたんですよ!」


 セラフィナが硬いパンを俺の手から取り上げた。


「あっ」


「これは夕食とは認めません」


「俺のパン!」


「パンに罪はありません。ですが、これだけでは体が持ちません」


「返してください。まだ半分残ってる」


「残りは明日のスープへ入れて柔らかくします」


「勝手に明日の予定まで決められた!」


 セラフィナの笑顔には逆らいにくい。


 彼女は机の上を見回し、積み重なった紙を一枚ずつ持ち上げた。


「食事をしながら記録を書くのも禁止です」


「どうして」


「紙を汚すからです」


「俺の体を心配していたんじゃ?」


「それもあります」


「紙が先ですか?」


「記録を失えば、多くの方が困ります」


 合理的なのに、何となく寂しい。


「夕食なら、私が用意させました」


 エレオノーラが廊下へ声をかける。


 待っていた侍女たちが、大きな盆を運び込んだ。


 豆と根菜のスープ。


 柔らかく煮た鶏肉。


 焼いた芋。


 黒パン。


 量は多くないが、久しぶりにまともな食事を見た気がする。


「おお……」


 思わず声が漏れた。


 エレオノーラが少し得意そうな顔をする。


「厨房へ、今の孝太郎に必要なものを確認しました。肉だけでなく、豆と野菜も食べてください」


「ありがとうございます」


「当然です。あなたが倒れれば国の仕事が止まります」


「最後の一言がなければ、もう少し嬉しかったんですが」


「事実です」


 そのとき、リュシアが持っていた包みを卓へ置いた。


「待て。人間の料理を先に食べるな」


「どうしてです?」


「森の粥を持ってきた」


 葉で包まれた器の蓋を開く。


 湯気とともに、青い草の香りが立ち上った。


 中には薄緑色の粥が入っている。細かく刻んだ茸と木の実も混ざっていた。


「また苔は入ってませんよね」


「入っている」


「入ってるの!?」


「食べられる苔だ」


「前にも同じことを聞きましたよ!」


「森では、病人や疲れた狩人へ食べさせる。胃に優しく、体を温める」


「毒見は?」


「私が食べた」


「最初からそうしてくださいよ!」


 リュシアは自分の匙を取り、粥を一口食べて見せた。


「ほら」


「同じ匙で食べろと?」


 俺が尋ねると、リュシアの動きが止まった。


「違う!」


「では新しい匙を」


「分かっている!」


 耳の先が少し赤い。


 エレオノーラは、その匙をじっと見ていた。


「リュシア」


「何だ」


「使者が、試食へ自分の匙を使う必要はありません」


「毒がないと示しただけだ」


「別の器へ取り分ければよかったでしょう」


「急いでいた」


「孝太郎は、人が使った匙でも気にしない方ですが」


「気にしますよ!」


 なぜ俺が何でも口へ入れる人間のように扱われているのだ。


「森の食事は、材料が分かりません」


 セラフィナが粥を覗き込む。


「黒い病の影響を受けた茸は入っていませんね?」


 リュシアの表情が険しくなった。


「入れるわけがない」


「確認です」


「私が孝太郎へ病んだものを食べさせると思うのか」


「思っていません。ですが、黒雨茸も見た目だけでは判別が難しかったのでしょう」


「私なら臭いで分かる」


「リュシアが調理したのですか」


「村の薬師だ」


「では、運ぶ途中に他の包みと混ざっていない保証は?」


「ない」


「なら確認します」


 セラフィナは笑顔のまま、粥の匂いを慎重に嗅いだ。


「問題はなさそうです」


「お前も疑い深いな」


「命に関わりますから」


「孝太郎と似ている」


「似てませんよ!」


「なぜ、そこまで嫌がるのです?」


 セラフィナが傷ついたように尋ねる。


「嫌がってはいません。ただ俺より、ずっと怖いので」


「怖い?」


「笑いながら命令するところとか」


「私は命令していません」


「さっき食事を禁止しましたよね」


「必要な助言です」


「眠れも、助言ですか」


「はい」


「断ったら?」


「眠るまで見守ります」


「それを監視と言うんです!」


 エレオノーラが小さく頷いた。


「見守ることは大切です」


「王女様まで加わらないでください」


「孝太郎は、自分に関する命令だけ無視する傾向があります」


「命令が多すぎるんですよ」


「必要だからです」


「お前は人間の王女に飼われているのか」


 リュシアが真顔で尋ねる。


「飼われてません!」


「では、なぜ食事まで管理される」


「共同責任者だからです」


「便利な言葉だな」


「俺も最近そう思います」


「孝太郎」


 エレオノーラの声が低くなった。


「冗談です」


「半分は本気でしたね」


「三割くらいです」


「増えています!」


 俺は椅子へ座った。


「とにかく、食べてもいいですか。目の前に料理を並べられて待たされるのは、かなりつらいです」


 三人が顔を見合わせる。


「まずスープです」


 エレオノーラが言う。


「森の粥が先だ」


 リュシアが言う。


「少量の水を飲んでからにしてください」


 セラフィナが言う。


「俺の夕食ですよね?」


「そうです」


 三人の声が重なった。


「では俺が決めます」


 水を一口飲み、スープを少し食べ、粥も口へ運ぶ。


「どうだ」


 リュシアが身を乗り出す。


「苦いです」


「薬草が入っているからな」


「でも前の苔汁よりは、おいしい」


「比べるな!」


 鶏肉へ手を伸ばすと、セラフィナが止めた。


「よく噛んでください」


「分かってます」


「今、三回しか噛みませんでした」


「数えてたんですか?」


「十二回は噛んでください」


「子供じゃないんですよ!」


「子供でも、もう少し自分の体を大切にします」


 フィルやルーカスの顔が浮かんだ。


 たしかに、あの二人の方が俺より食事へうるさいかもしれない。


「芋も食べてください」


 エレオノーラが皿を寄せる。


「粥が冷める」


 リュシアも器を寄せる。


「一度に口へ入れすぎないでください」


 セラフィナが水差しを持つ。


「近い近い!」


 三人が卓を囲み、俺が何をどれだけ食べるか見張っている。


「食べづらいんですけど」


「気にしなければよいでしょう」


 エレオノーラは平然としている。


「見られてると気になりますよ!」


「森では皆で食べる」


「ここまで監視しませんよね?」


「お前が普通に食べれば、見る必要はない」


「普通に食べてます!」


「野菜を避けましたね」


 セラフィナが即座に指摘した。


「避けてません。最後に食べるだけです」


「先ほど豆も端へ寄せました」


「細かい!」


「孝太郎」


 エレオノーラが真剣な顔で言う。


「好き嫌いがあるのですか」


「ありません」


「では食べてください」


「今から食べますよ!」


 俺は根菜を口へ入れた。


 三人が一斉に頷く。


「何なんですか、この会議」


「健康確認だ」


「食事指導です」


「共同責任者としての監督です」


「言い方が違うだけで、全部監視ですよ!」


     ◇


 夕食の途中、古代麦の第二回試験について話し合うことになった。


 話し合いというより、俺が食べながら説明し、三人が口を挟む形だった。


「森から月の水を運んできた」


 リュシアが小さな壺を卓へ置く。


 透明な水だった。


 見た目は普通の水と変わらない。


「本当に満月の夜に汲んだんです?」


「ああ」


「別の日の水と違いは?」


「精霊の力が強い」


「それを確かめる方法は」


「森の者なら触れば分かる」


「俺には分かりません」


「鈍いからな」


「人間全体の問題では?」


 セラフィナが壺へ手をかざす。


 淡い光が指先に集まった。


「わずかですが、生命力を支える性質があります」


「魔法の水なんですか」


「魔法というより、森の力が溶け込んでいるのでしょう。ただし、それが発芽へ必要かは分かりません」


「なら、比較できます」


 俺はパンを置き、紙へ手を伸ばした。


 すぐにセラフィナに取り上げられる。


「食事中です」


「思いついたときに書かないと!」


「口で説明してください。私が書きます」


「聖女様を……じゃなくて、セラフィナさんを書記にするのは恐れ多くないですか」


「字はあなたより大きく書けます」


「そこ、まだ言います?」


 セラフィナが炭筆を持つ。


「どう比較するのです」


「種を五つに分けます」


「また分けるのか」


 リュシアが不安そうな顔をした。


「今度はもっと少量です。一つ目は何もせず植える。二つ目は普通の井戸水へ浸す。三つ目は月の水。四つ目は一度沸かして冷ました月の水。五つ目は森で月の水へ浸し、そのまま森の土へ植える」


「なぜ月の水を沸かす」


「沸かしても効果が残るなら、水に含まれる成分が関係しているかもしれない。消えたら、熱に弱い何かや精霊の力かもしれない」


「精霊を煮る気か!」


「水を煮るんです!」


 リュシアが本気で嫌そうな顔をする。


「月の水を火にかけるなど、長老が許さない」


「壺全部じゃありません。杯一つ分だけ」


「駄目だ」


「理由を調べるためです」


「森の恵みへ、意味があるか試すなど」


「リュシア」


 セラフィナが穏やかに呼ぶ。


「孝太郎さんは、森の恵みを否定したいのではありません」


「では、何だ」


「人間の土地でも、同じ条件を作れるようにしたいのでしょう」


「そうです」


 俺は頷いた。


「古代麦を育てるたび、満月の夜に森の泉まで水を汲みに行くのは無理があります。必要なら必要で、なぜ必要なのか知りたい」


「すべてのものへ理由が必要なのか」


「必要じゃないものもあります」


「例えば?」


「王女様が、俺の膝を確認したがる理由とか」


「孝太郎!」


 エレオノーラが顔を赤くした。


「今それを出しますか!」


「聞かれたので」


「私は怪我を確認しているだけです!」


「その話は何度聞いても妙だな」


 リュシアが腕を組む。


「妙ではありません!」


「孝太郎さん」


 セラフィナまで真剣に尋ねる。


「膝に古傷があるのですか」


「ありません」


「では、なぜ確認を?」


「転ぶからだ」


 リュシアが答えた。


「いつも転んでません!」


「三歩で転んだ」


「一度だけです!」


 セラフィナが何かを紙へ書く。


「何を書いたんです?」


「転倒しやすい、と」


「患者記録へ追加しないでください!」


 エレオノーラが口元を押さえて笑っている。


 腹立たしい。


 けれど、彼女がこんなふうに笑えるようになったのは、悪いことではないと思う。


「比較試験は必要です」


 エレオノーラが表情を戻した。


「ただし、再び種を失う可能性があります。参加する農民と森の長老へ、条件をすべて説明しましょう」


「もちろんです」


「失敗した場合の公表方法も、先に決めます」


「王女様、慎重になりましたね」


「前回の失敗から学んだだけです」


「いいことです」


「褒められると、なぜか腹が立ちます」


「リュシアと同じこと言ってる!」


「一緒にしないでください」


「私も同じにはされたくない」


「どうしてそこで喧嘩するんですか!」


     ◇


 食事を終える頃には、俺の腹は久しぶりに満たされていた。


 野菜も食べた。


 豆も食べた。


 森の粥も、結局全部食べた。


「もう十分です」


 俺が匙を置くと、三人が皿を見る。


「芋が半分残っています」


 エレオノーラ。


「粥の木の実を一つ残した」


 リュシア。


「水をもう一杯飲んでください」


 セラフィナ。


「まだ続くんですか!」


「残すのですか」


「食料不足の国で?」


 エレオノーラの一言が一番強かった。


「食べますよ!」


 残りを口へ入れる。


 そのとき、廊下から激しい足音が聞こえた。


「孝太郎殿!」


 扉が勢いよく開く。


 飛び込んできたのは、カレルの村から来た若い農夫だった。


 息を切らし、全身泥だらけになっている。


「どうしました!」


「試験畑が!」


 俺は立ち上がった。


 椅子が後ろへ倒れる。


「また黒い水ですか。それとも種が腐った?」


「違う!」


 農夫は何度も息を吸い、震える手を前へ出した。


 その指先には、湿った土がついている。


「土が割れたんだ」


「割れた?」


「種を埋めた場所だけ、下から持ち上がってる。まだ何も見えてねえ。でも、畑の土が動いてる!」


 部屋の空気が止まった。


 エレオノーラが俺を見る。


 リュシアは耳をぴんと立てた。


 セラフィナは、いつの間にか祈るように両手を組んでいる。


「行きます」


 俺が言うと、三人が同時に立ち上がった。


「私も行きます」


「私もだ」


「私も参ります」


「夜ですよ?」


「孝太郎が言うことですか」


「お前一人では途中で転ぶ」


「暗い畑では怪我をする可能性があります」


 三方向から反論された。


「では、全員で行きましょう」


 俺たちは王城を飛び出した。


 たった一粒の種が、土を押し上げた。


 まだ芽が出たとは限らない。


 また失敗かもしれない。


 それでもその夜、誰一人として、朝まで待とうとは言わなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。