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『異世界召喚された俺、現代知識を一つ教えるたびに美少女が増えていく 〜役立たず勇者と捨てられたのに、王女も聖女も竜姫も「次は私の国を救って」と押しかけてきました〜』  作者: 藤原朝臣御神常陸介釋寛浩


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第1話 異世界に呼ばれた十九歳、なぜか高校生からおっさん扱いされる

 その日、俺は割引シールの貼られた唐揚げ弁当を手に、人生について考えていた。


 と言っても、そんな大したものじゃない。


 明日は朝八時半から仕事だとか。


 主任がまた園芸コーナーの棚替えをやると言い出したとか。


 給料日まであと六日なのに財布の中には三千二百円しかないとか。


 そんな、わりと切実ではあるが世界の命運には一切関係のない悩みだ。


「唐揚げ弁当、四十パーセント引きか……」


 俺はコンビニの弁当を見つめ、悩んでいた。


 四十パーセント引きは魅力的だ。


 だが、隣には三十パーセント引きのカツ丼がある。


 価格だけなら唐揚げ。


 しかし明日は仕事だ。肉体労働になる可能性が高い。だったらカツ丼の方が腹持ちはいい。


「いや、待て。昨日もカツ食ったな……」


「なあ、あのお兄さんさっきからずっと弁当見てない?」


 後ろから声がした。


「見ちゃ駄目だって」


「でも長くね?」


「給料日前なんじゃない?」


 聞こえてるぞ。


 俺はゆっくり振り返った。


 制服姿の高校生が三人いた。


 男子二人、女子一人。


 目が合った。


「あ」


「あ、じゃねえよ」


「すみません」


「いや、いいけど」


 本当は少し傷ついた。


 十九歳で給料日前の懐事情を高校生に心配されるとは思わなかった。


 確かに給料日前だけど。


 俺は久世孝太郎、十九歳。


 高校を卒業後、地元の大型ホームセンターに就職して一年と少し。


 担当は一応、園芸とDIY用品だが、人手が足りなければ資材館に回されるし、季節によってはキャンプ用品も売る。冬になると灯油売り場まで手伝わされる。


 要するに何でも屋だ。


 そんな俺の人生が変わったのは、カツ丼と唐揚げ弁当のどちらを買うか決められずにいた、その瞬間だった。


「ん?」


 足元が光った。


 最初は誰かがスマートフォンのライトでもつけたのかと思った。


 違った。


 床だ。


 コンビニの床一面に、青白い光の模様が浮かび上がっていた。


 円。


 幾何学模様。


 見たことのない文字。


「え、何これ」


「撮れ撮れ!」


「いや、それより店員呼んだ方がよくない?」


 高校生たちが騒ぎ出す。


 俺は黙って、一歩下がった。


 嫌な予感がした。


 漫画やアニメやラノベが好きな人間なら、嫌でも思い当たる。


「いや、待て」


 俺は弁当を持ったまま後ずさる。


「これは違うだろ」


 光が強くなる。


「俺、関係ないだろ!?」


 高校生の一人が俺を見る。


「え?」


「え、じゃない! お前ら高校生だろ! こういうのに巻き込まれるのは普通そっちだ! 俺は仕事帰り! 明日も仕事!」


「いや、俺らに言われても」


「俺は関係ない!」


 魔法陣の外へ逃げようとした。


 一歩。


 二歩。


 三歩。


 間に合わなかった。


「あああああああああっ!」


 誰かの悲鳴が聞こえた。


 俺の悲鳴だった。


     ◇


「――勇者様方!」


 最初に聞こえたのは、そんな声だった。


 次に感じたのは、尻の痛み。


「痛っ」


 俺は石の床に座り込んでいた。


 手には唐揚げ弁当。


「あ」


 無事だ。


 思わず安心した。


 いや、待て。


 弁当の心配をしてる場合じゃない。


「ここ、どこだよ」


 巨大な部屋だった。


 天井は高い。


 太い石柱が並び、壁には見たこともない紋章入りの旗が掲げられている。


 周囲には、俺と一緒にいた三人どころではない、十数人の高校生たちがいた。


「何、ここ」


「マジで異世界?」


「撮影じゃなくて?」


「スマホ圏外なんだけど!」


 ざわざわしている。


 当然だ。


 俺だって騒ぎたい。


 いや、騒いでいいだろ。


 明日仕事なんだぞ。


「すみません」


 俺は右手を上げた。


 少し離れた場所にいた白いローブ姿の老人がこちらを見る。


「はい、勇者様」


「帰れます?」


「……はい?」


「いや、だから。帰れます?」


 老人が困った顔をした。


 その顔で、だいたい分かった。


「帰れない顔するのやめてもらえます?」


「お、落ち着いてください」


「落ち着いてます。かなり落ち着いて聞いてます。俺、明日仕事なんです」


「仕事?」


「朝八時半から。遅刻したら主任に怒られるんですよ」


 高校生の何人かが俺を見る。


 そのうち一人の女子が、隣の男子に小声で尋ねた。


「誰、あの人?」


「分からん」


「先生?」


 俺は聞き逃さなかった。


「十九歳だ」


 三人がこっちを見た。


「え?」


「十九歳だよ!」


「……」


「その沈黙やめろ!」


 一番失礼だった男子高校生が、


「あ、すみません。二十代後半くらいかと」


「そこまで老けてねえ!」


 俺が怒鳴ると、何人かが吹き出した。


 笑うな。


 俺だって好きでこんな服装してるわけじゃない。


 黒い作業ズボンにホームセンターのジャンパー。


 名札までついている。


 高校生の集団に混ざったら、そりゃ少しだけ年上に見えるかもしれない。


 少しだけだ。


「皆様、お静かに!」


 白いローブの老人が声を上げた。


 部屋が静かになる。


 その向こうに、一段高くなった場所があった。


 豪華な椅子。


 座っているのは立派な髭を生やした初老の男。


 隣には金髪の少女。


 周囲には騎士らしき男たちが並んでいる。


 いかにも王様。


 いかにも王女。


 いかにも異世界。


 ここまで揃うと、逆に笑えてくる。


 いや、笑えないけど。


「異界より招かれし勇者たちよ」


 王様らしき男が立ち上がった。


「我はアストレア王国国王、バルガス三世である」


 誰も返事をしない。


 そりゃそうだ。


 知らないおっさんに突然、国王だと言われても困る。


 すると、隣の金髪少女が一歩前に出た。


「皆様、突然の召喚で混乱していることは承知しております。ですが、どうかお聞きください。現在、我が国――いえ、この世界は魔王軍の脅威に晒されています」


 始まった。


 俺は頭を抱えたくなった。


 どう聞いても魔王討伐だ。


 勇者召喚だ。


「皆様には、それぞれ神より授けられた力があります」


 ざわめきが広がった。


 高校生たちの反応が変わる。


「能力ってこと?」


「マジで?」


「ステータスとかあるんじゃね?」


 急に目が輝いている。


 若いな。


 俺も十九だけど。


「では、順番に鑑定を行います」


 水晶玉のようなものが運ばれてきた。


 まず一人目。


 男子高校生が水晶に手を置く。


 光った。


 神官が目を見開く。


「【剣聖】です!」


「おおっ!」


 騎士たちから歓声が上がる。


 二人目。


「【大賢者】!」


 三人目。


「【聖騎士】!」


 四人目。


「【神弓手】!」


 すごい。


 何だか知らないが、すごそうだ。


 高校生たちも興奮している。


「やばくね?」


「俺、魔法使えるかも!」


「これ本当に異世界じゃん!」


 最初の恐怖が薄れ始めている。


 無理もない。


 突然異世界に放り込まれたと思ったら、自分は選ばれた勇者で、とんでもない力を持っていると言われたのだ。


 俺だって少し期待した。


 いや。


 かなり期待した。


 俺にも何かあるのかもしれない。


 働かなくても食っていけるような、とんでもない能力が。


「次の方」


「はい」


 俺の番だった。


 高校生たちの間を抜けて水晶の前に立つ。


 白いローブの老人が言う。


「手を」


「これですか?」


「はい」


 触れた。


 光った。


 かなり地味に。


 老人が水晶を覗き込む。


「……【記憶再現】」


「強いですか?」


 思わず聞いた。


「過去に見聞きし、理解したことを鮮明に思い出す能力……のようです」


「へえ」


 悪くない。


 かなり便利そうだ。


 老人は続けた。


「それだけです」


「それだけって言うなよ」


「戦闘能力の補正は……ありません」


「はい」


「魔力補正も……ありません」


「はい」


「身体能力補正も……ありません」


「もういいです」


 聞いているうちに悲しくなってきた。


 騎士の一人が鼻で笑った。


「つまり、物覚えが良いだけか」


 俺は振り返る。


「今の聞こえてますからね」


「事実だろう」


「まあ、そうだけど」


 反論できない。


 悔しい。


 すると高校生の一人が気を遣って言った。


「でも、何か使い道ありますよ。きっと」


 優しい子だ。


「ありがとう」


 だが別の男子が、悪気なく言った。


「でも戦えないなら、足手まといじゃね?」


「おい」


「いや、だってさ」


「やめろって」


 友人に止められ、男子は黙った。


 俺は怒らなかった。


 腹は立った。


 少しだけ。


 でも、言っていることは間違っていない。


 彼らだって被害者だ。


 突然異世界に連れてこられた高校生に、赤の他人の十九歳まで面倒を見ろという方が無茶だろう。


 国王が再び立ち上がった。


「勇者たちよ。我が国を、世界を、魔王の脅威から救ってほしい」


 その視線は高校生たちに向けられていた。


 俺には一度も向かなかった。


     ◇


 その夜。


 高校生たちには一人ずつ個室が与えられたらしい。


 俺は違った。


「こちらです」


「……ここ?」


「はい」


 物置だった。


 いや、正確には使用人用の仮眠室らしい。


 狭いベッド。


 机。


 窓はない。


「個室っちゃ個室だけどさ」


「何か?」


「いや、別に」


 文句を言う気力もなかった。


 ベッドに倒れ込む。


 天井を見つめる。


「マジかよ」


 もう家に帰れないかもしれない。


 仕事。


 友人。


 家族。


 スマートフォンは圏外。


 財布の中の日本円は役に立たない。


 そして俺の能力は、ただの物覚え強化。


「笑えねえな……」


 眠れなかった。


 それでも、いつの間にか眠っていた。


 翌朝。


 扉を叩く音で目を覚ました。


「久世孝太郎殿」


「はい?」


 昨日とは違う役人風の男が立っていた。


「少々、お話が」


「何ですか?」


 男は部屋に入る。


 机の上に何かを置いた。


 チャリン。


 金貨だった。


 三枚。


「これを持って、王都を出ていただきたい」


 俺は金貨を見る。


 男を見る。


 もう一度、金貨を見る。


「……は?」


 男は無表情だった。


「本日中に、王都から退去してください」


 俺はしばらく何も言えなかった。


 そして、ようやく口を開く。


「ちょっと待て」


 声が震えた。


 怒りなのか。


 恐怖なのか。


 自分でも分からなかった。


「勝手に呼び出しておいて、金貨三枚で出ていけって?」


 男は答えない。


 その沈黙が、何より腹立たしかった。


 ――こうして俺は異世界に召喚された翌日、役立たずの烙印を押され、金貨三枚で捨てられることになった。


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