第8話 生きる意味…
帝国暦1400年 11月
―ジャポーネ領 アマーサキ コトネの家―
「あれは、今から1200年前の事だった。あのことが起きたきっかけはある一人の貴族の人間だった。私はその貴族とよく遊んでいた。私の人生の中では珍しい、親友と呼べる存在だった。当時、その貴族は王家のお気に入りで出世を重ねていた。当然、他の貴族からしたら、そんな事は気に食わなかった。だから嫌がらせをたくさん受けていた。けど、その貴族は強かった。どんな嫌がらせを受けても気にしない。この反応に最も腹を立てたのはノットー家。」
「ノットー家!?それって、つまり…」
「コトネの思っている通りだと思う。私が今話しているのは『魔女の虐殺』。この名前くらいなら聞いたことがあるよね。アイ」
「はい、名前は聞いたことがありますが詳しくは…」
「その後、ノットー家は、ついに越えてはいけない一線を越えてしまう。私の親友の一家に刺客を遣わせて親友の一家を皆殺しにしたのよ。それを聞いた時はまだ誰の犯行か分かっていなかった。だけど、犯人が分かっていなくても私が受けたショックは大きかった。余りのショックで自分も後を追おうと自殺しようとしたわ。けど、私には絶対に自ら命を絶てない呪いがある。その時は絶望のあまり神を、そして何も出来なかった自分を恨んだ。けどそんな事は無駄だとすぐに気づいた。今、何よりもするべきは親友の殺害に関わった奴らを全員殺すことだと思った。それから、捜査を進めていくとノットー家が親友を殺したことが分かった。そして、ノットー家は賄賂を渡して自分達の罪を隠していることも分かった。そのことが分かった時にはもう遅かった。その怒りで私の中の何かが切れてしまった。私の意識があるのはここまで、ここから先は聞いた話だけど…、その後私はノットー家の一族を血祭りにした。その時のノットー家の当主がこう言ったそうなんだ。私の後ろには王家がついているぞ。それを聞いた私は城に乗り込み王家を皆殺しにした、騒ぎを聞きつけてきた各伯爵の軍も伯爵ごと皆殺しにした。そして自分に向かって魔法を撃った。その魔法のお陰で意識を取り戻した。目が覚めた私の前に広がっていた景色はそれはそれはひどい有様だった。私はどうすれば良いのか分からなくなった。取りあえず自分の家に帰った。そして自ら命を絶とうと自分に魔法を撃ち続けた。けど、死ねなかった。結局、魔力切れを起こした私は布団の中でガタガタと震えていた。気づけば私は泣いていた。その涙には何が入っているのだろうかと考えた。その時は恐怖だと思っていた。けど今考えれば違う。あの時、一番大きかったのは『親友に拒絶されること。』だったんだと思う。あの人は死んだ。それなのに私は、死んだ相手に拒絶されることを怖がっていた。正直言って今も怖い。ハハ、私は本当にバカバカらしくて弱虫だ。」
被虐的に言う。
「本当にバカバカしい…」
「アオイはバカバカらしくなんかないよ。その親友、アルバート様は今もアオイの心の中で生きている。だからアオイはバカバカらしくなんか無い。」
その言葉を聞き、私の中の何かが破れた音がした。
涙が記憶と共に溢れ出してくる。
一緒に魔法の練習をしたこともあった、隣国まで旅行したこともあった、つまらないことで喧嘩したこともあった。
全部、全部あの楽しかった日々の一欠片、アルバートとの、私の親友との大切な思い出…。
「ごめんね
そして自分を責めないで
今を大切にして
生きて」
アルバートが最後に言った言葉だ。あの時は意味が分からなかった。けど今なら分かる。きっとアルバートは自分が、いや、自分達一族が殺される事を分かっていたんだ。
けど、貴族という鎖のせいで逃げれなかった。
そして、自分が殺されたら、私が関係者を皆殺しにすることも。そのせいで私が苦しむ事も、全部…。
ならば、私が彼に言えることは一つしかない。
「アルバートは悪くないよ。私のことを思ってくれてありがとう
君は、私の永遠の親友だよ」
私は、後何年生きれるか分からない。永遠の命を持っている以上、不安と孤独に押しつぶされそうなことも必ずあるだろう。しかし、私には今がある。今、私の目の前にはアイとコトネという仲間がいる。不安を共に乗り越えてくれる大切な仲間がいる。もしも、アイとコトネに死の影が迫ったら、間違いなく私は身代わりになるだろう。それが私の生きている意味、そして私の死に場所に最もふさわしい場所なのだろう。そう、強く思った。




