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第9話 悪喰姫と大賢者


 ルーが解呪が成功し快復した事を知らせる為の夜会が開かれる事になり私は夜会に向かうためにイブニングドレスに着替えていると、手伝っていたエルマが突然どこかへと行ってしまう。


「ちょっと、エルマ?」


 不思議に思いエルマを呼んでいると、数分後顔を真っ赤に腫らした老人を連れて戻ってくる。


「姫様! 不審者を捕まえて来ましたぁ! どうやって処しますか?」


「処す!?……って本当に不審者なの? ただの冴えないお爺さんじゃなくて?」


 エルマに捕まっている人物を見るとくすんだローブを身に纏った皺の深いお爺さんだ。 長く白い髭をたくわえ威厳に満ちた顔をしている。 こんな人が不審者なんて思えないけど……


「このおじいちゃん姫様の着替えを覗いていたんです!」


「覗き……本当なの?」


「いかにもじゃ……ふむ、しかし不可視化インビジリティをかけておったのに、どうしてわかったのじゃ?」


 お爺さんは髭を撫でながらまるで悪びれず答える。


「覗いた事は認めるのね……エルマ、兵士に突き出しなさい」


「ま、待つのじゃ! 儂は大賢者マーリン。 覗きなんぞで捕まっては威厳が保てんのじゃ……そ、それにじゃ、実際覗いてみたらまだ子供ではないか! 儂はなもっとボンキュッボンッのオネェちゃんが好きなんじゃ」


 慌てて弁明を始めるけど、より不快なんだけど!?


「なるほどぉ、姫様の貧相なお身体を見たぐらいで捕まるのは割に合わないってこと?」


「そう! その通りじゃ!」


「お前らぁ!!」


 ひとの身体を貧相とか! コイツらぁ……


「ま、待て! 待つのじゃ! お詫びに大賢者であるこの儂が特別に占ってやろう!!」


「はぁ? 占い? 本当に大賢者?」


「本当だとも! ふぉふぉふぉ、ではお主の事を視てやろう」


 お爺さんの瞳に魔法陣が現れると蒼く怪しげに輝き、私の事をじっと見つめる。 その目に見つめられると全てを見透かされているようで居心地の悪さを感じる。


「……ふむふむ、わかったぞ。 お主は……好き嫌いは無く、なんでも良く食べる。 しかしその割に胸が成長しないのを気にしておるな。 理想の異性のタイプは優しくてお金持ちで強くて包容力がありつつ、純粋な面のある美少年…………アホかお主? そんな奴おらんやろ。 それと、だいぶ長生きするようじゃ……200歳ぐらいまで生きる! 以上!」


「生きるかぁー!! 途中までちょっと合ってるかも? な〜んて思った私が馬鹿だったわ! 200歳まで生きられる人間がいる訳ないでしょ!」


「ふぉふぉふぉ。 しかしお主……半分人間やめておるじゃろ?」


「えっ?」


「ふぉふぉふぉ、では儂は用事があるから失礼させてもらおう。 ではの」


 意味深な事を言ってお爺さんは忽然と消えてしまう。


☆★☆★


 その後、エルマと共に城の中の夜会会場へと向かう。

 会場では既に多くの招待客が集まっており、食事や歓談を楽しんでいる。


「ルーはどこかしら?」


 私は直ぐにルーの姿を探すけど見当たらない。 まだ来てないのかしら? 

 すると、正面のステージに司会が立つとマイクのスイッチを入れる。


「皆様、ご歓談中失礼致します。 本日の主役でありますルシオ殿下の準備が整いましたので、大きな拍手でお迎え下さいませ」


 大きな歓声と拍手の中、ルーが豪奢な正装に身を包み入場してくる。


 私は既に何度も見ているけれど、改めて正装のルーを見ると、その美しく整った容姿に溜め息が漏れる。

 それは、会場に来ていた他のご婦人方も同じだったらしく、あちこちから感嘆の声や黄色い歓声が上がった。


 ルーの挨拶が終わると招待客達がルーに挨拶をする為の列を作っていく。 私はエルマと適当に食事をつまみながらぼーっと招待客達を眺めていると見知った顔を見つけてしまう。


 会場の入口がざわついた。人々が自然と道を開け、そこに現れたのは……


「アルテラ……どうしてここに?」


 長い金髪を巻き上げ、胸元を大胆に強調したドレスをまとった彼女は、まるでこの夜会の主役であるかのように堂々と歩いてきた。

 その隣には冴えない顔の婚約者。 しかし、彼には目もくれず、アルテラの視線はただ一人、ルシオに向けられていた—— 熱を帯びた瞳で。

 

 帝国内の貴族のみを招待するだけで、他国へのお披露目はまだ先だと言っていたので油断していたけれど、アルテラは帝国の貴族に婚約者がいたのだ……そこから話を聞いてルーを一目見るために無理矢理に今夜の夜会に出席したのかも知れない。


 アルテラは順番を待つ挨拶の列に割り込んでいく。 割り込まれた人は怪訝な表情をするが、いくら小国とはいえ他国の姫ではあるから騒いだりはしないようだ。


 (えっ……婚約者の横でルーに色目使うなんてあの娘、正気なの!?)


「ふぉふぉふぉ、また会ったの。 お主も呪いから快復したルシオ皇子が気になるのか? 確かにお主好みの美少年じゃな。 ふぉふぉふぉ」


 私がドキドキしながらルーとアルテラのやり取りをみているとくすんだローブを着た老人から声をかけられる。


「あっ、変質者のマーリンさん」


「大賢者な」


「ここに居るって事は貴方も招待客?」


「ふぉふぉふぉ。 そうじゃよ、儂はこう見えて大賢者じゃからな。 それよりお主は何をそんなに心配そうにしておるんじゃ?」


「さっき、ルー……ルシオ殿下に挨拶してたのが私の妹なんです。 失礼な事してなきゃいいけど……」


「ほぅ、妹? その割には……髪も身体も似とらんのぉ。 確かに節操は無いみたいじゃが……儂はあれくらいボインの方が……ゴフッ」


 私の胸を見ながら失礼な事を言ってくるのでとりあえず殴っておく。 私は老若男女人類皆平等なのだ。


「ふ〜ん、大賢者って言っても普通に殴れるのね」


「普通は年寄りを殴ったりせんじゃろ!?」


 私がマーリンさんと話していると不意に後ろから声がかけられる……


「あらぁ? 下品な赤髪が居るって思ったら、やっぱりお姉様じゃない! ふふっ、まだ帝国に居たのね? てっきり追い返されて直ぐに帰ってくると思ってたわ。 あら? ふふふ、もしかしてそちらの小汚いおじいさんの愛人にでもなったのかしら」


 せっかく帝国に来て忘れかけていたのに……耳障りな声が嫌な過去を思い出させてくる……



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