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【番外編】 凛々しい彼女の片想い 〜亜子の場合〜

このお話は、竹野内碧様主催【恋愛糖分過多企画】参加作品となっております。糖度は私基準ですので、悪しからず。


 西平亜子---それが私の名前。

 清鸞せいらん学園の2年生で、剣道部に所属している。

 剣道は小学生の頃からやっていて、部活以外にも休みの日は道場へ通って練習をしている。そんな私を何時からか皆が『姫』と呼び始めた。『姫』なんて言われるのは抵抗がある。だって私は平凡を絵に描いた様な容姿だし、何よりも女子としては背が高い。とても姫とは言えないのに。



 私には3人の親友がいる。

 1人目は規格外の可愛らしさの栗原亜理紗---彼女は本人が望まないのに、周りの男共が付き纏ってくる。その為にボディガードとして私や悠莉が学校の行き帰りは一緒。だけど最近、亜理紗にも漸く彼氏が出来た。それが藤堂柊。学年でも1、2位を争う秀才で、どうやら悠莉と同等の空手の腕前を持ってるらしい。最初は偽物の彼氏として亜理紗の傍にいたのだけど、あの子の可愛さにやられた模様。今では過保護だろ?ってくらい、彼女を溺愛してる。

 2人目は笹井悠莉---彼女は才色兼備の人、揚句に今期の生徒会会長になった為に、超多忙になってしまい亜理紗と一緒に帰れなくなって最近不機嫌。悠莉も亜理紗を溺愛してるからなぁ……まぁ、確かに亜理紗って周りの人間を癒してくれる雰囲気がある。私も彼女の傍にいると優しい気持ちになるし。

 そして3人目は井上香里---香里はいつもニコニコと笑顔を浮かべていて、愛らしい容姿をしている。そんな彼女には佐野君という彼がいて、2人はいつもラブラブで見ているこっちが恥ずかしくなる。でも、羨ましい気持ちもあるんだけどね……



 私には彼氏なんて勿論いない。背も高い上に剣道の腕は有段という事は周りが知っているから、そんな女の子を彼女にしようなんて男子はなかなかいないと思う。ましてや、私の周りにいる彼女たちを見てたら私を『いいな』なんて思う人はいないだろう。

 彼氏は諦めてる。一生1人かも?なんて思っていたりもして。

 好きな人はいるけど、告白なんてしようとは全く思っていない。こっそりと見つめるだけで幸せ。

 それが、関口浩輔---中学の時、地区大会で偶然知った。彼は私が知っている中でも群を抜いて強かった。私はそんな彼に憧れの様なものを抱くようになっていた。

 そしてある試合の時、私は自分の不注意で足を挫いてしまった。でも副将を務めていた私は捻挫の事を言えずに、試合に出て負けた。

 悔しくて誰もいない場所で泣いていると、関口さんがやって来た。

「ここにいたのか……」

 そう言うと私の腕を取り歩き出した。

「えっ、なっ……何?」

「足、捻挫してるだろ? 早く湿布した方がいい」

「……っ、何で知って……」

 みんな気がつかなかったのに。

「見ているから……西平さんの試合はいつも…」

「えっ……あっ…痛いっ!」

 挫いた足が痛んで、思わずよろめいてしまった。

 そんな私を抱き止めた関口さんは『ごめん…』と呟くと、私を軽々と抱き上げた。

「なっ……お、下ろしてっ!」

「駄目、医務室に行くまでじっとしてて」

 そう言いながら、私をお姫様抱っこして歩いていく。

「歩けるからっ……それに重い……」

「西平さんは軽いよ」

「お…お姫様抱っこなんて……私に似合わないっ」

「『姫』がお姫様抱っこ似合わない訳ないよ」

 真っ赤になった私を見て、関口さんはにっこりと笑った。

 その笑顔に……私は完全に堕ちてしまった。

「姫……なんて、私の柄じゃないのに……」

 照れ隠しでついそんな事を呟いたら、彼が吃驚する様な事を言った。

「西平さん……自覚なし? 君は剣道をしている生徒達の間では男女関係なく憧れられてるんだよ」

「はいっ? 何ですか、それっ」

 憧れられるって……誰に?

「君の試合の時の所作が美しいんだよ。顔や姿勢は勿論、立居振る舞い。それに強い……」

 関口さんは何でもない様な口調で言うけど、美しいって……有り得ないし!

「ふ、ふざけないで下さい! 私がう…美しいとかっ、有り得ません」

 彼にからかわれていると思うと悲しくて、その腕から逃れようと身を捩る。

「ちょっ……西平さん、じっとして!」

「下ろして下さい! 自分で行きます」

「亜子ちゃんっ!」

「……っ!」

 彼の腕の中で暴れる私を叱る様に、関口さんは少し強めの口調で私の名を呼んだ。

 亜子……って、名前呼んでくれた。

 関口さんが私の名前を知っててくれた事は勿論、呼ばれた事が嬉し過ぎて下りようと暴れていた事すら忘れてしまった。

 その間に関口さんは私を医務室まで運んで行き、保健師がいなかった為に彼が私の足に湿布を張り包帯を巻いて固定してくれた。

「さてと、一応は応急処置だから……病院に行くんだよ」

「…ありがとうございます」

 彼と2人っきりって事が今更ながら恥ずかしくて、俯いたまま私はお礼を言った。

「ごめんね」

「え?」

 不意に謝られて、私は思わず彼の顔を見た。

 視線が合うと関口さんは苦笑を浮かべた。

「余計なお世話だったかな?って……今更気づいた。それに俺に「お姫様抱っこ」されても嫌だよね。本当ごめん」

 そう言うと彼は頭を下げた。

「そっ……そんな、謝らないで下さい! 誰も私が捻挫してた事、気づかなかったのに……関口さんだけが気づいてくれて……嬉しかったんです」

 顔が赤くなっていくのが分かるけど、嬉しかったのは本当だからその事はちゃんと彼に伝えたかった。

「本当に?」

 窺う様な彼の様子に私は頷いた。

「はい……「お姫様抱っこ」は吃驚したけど……」

「亜子ちゃんは軽いよ。それに細いし…男子とは全然違う。自覚して……君は強いけど、誰よりも可愛いんだから」

「え?」

 彼の言葉に驚いて関口さんを見るけど、彼は既に立ち上がって包帯などを片付け始めていた。

 聞き間違い? うん…そうだよ、可愛いとか言われる訳ないし。

 私は心の中でそう結論を出した。

「じゃ、送るよ」

 再び私の所へ戻って来た関口さんは、私の手を取り立ち上がらせると医務室を後にすると、私の家まで送ってくれた。

 それが彼---関口さんと私が初めて言葉を交わした出来事だった。


 その事がきっかけで、試合で顔を合わせると少しばかり会話をする位には親しくなった。

 彼の試合を見ていると凄くドキドキして、ライバル校なのについ応援してしまう自分に内心苦笑していたけど、そんな私の気持ちは誰にも言わず密かに胸に閉まっていた。



 そして高校は私が清鸞、関口さんは北高に入学したから同じ学校で剣道をする事は叶わなかった。

 それでも時々、試合で彼の姿を見るとときめいている自分がいて、見つめているだけで幸せだった……そう思っていたのに。



 ある日、関口さんが可愛い女の子と一緒に歩いているのを見かけた。

 同じ北高の制服---あぁ、彼女いるんだ。

 そう思ったら、胸が痛んだ。そして目の前がぼやけてきた。

 何とか涙を堪え、私は家まで走って帰ると自分の部屋に閉じこもって一晩中泣いた。

 忘れる。もう恋はしない……私はそう誓って、今まで以上に剣道に打ち込んだ。



「亜子……亜子っ!」

「え? あっ…な、何?」

 名前を呼ばれて慌てて返事をするけど、悠莉が怪訝な表情でこちらを見ていた。

「どうかしたの? ぼーっとして。珍しい」

「何でもない……で、何?」

 私が聞き返すと、悠莉は思い出した様に話をし始めた。

「そうそう、亜子。今日……亜理紗と一緒に帰ってくれる?」

「え? 悠莉は?」

 珍しい……悠莉が一緒に帰らないなんて。

「生徒会の引継ぎがあるのよ……」

「藤堂君は?」

 悠莉が無理なら藤堂君が出張ってくると思うんだけど……私が訊ねると悠莉はため息を吐いた。

「柊もね……一応、副会長に指名してるから、一緒に引継ぎしなきゃいけない」

「なるほど……納得。いいよ、今日は部活無いから。亜理紗と一緒に帰るわ」

 私の返事に、悠莉は安堵したようでニッコリと笑った。

「良かったぁ。最近、また変なのがうろついているから、用心に超したことはないでしょ」

「そうだね、亜理紗は?」

 肝心の亜理紗が見えないから、きょろきょろと見回すと悠莉が苦笑いを浮かべた。

「柊の所に行ってる。お別れの挨拶でもしてるんでしょ……バカップルだよね?」

「確かに……でも、微笑ましいじゃない」

「何? 『姫』もとうとうお年頃?」

 からかう様に悠莉が私の顔を覗き込みながらそう言った。

「だから『姫』は止めてってば! 似合わないんだから」

「えー、合ってるよ。亜子ってば、自分を分かってないなぁ」

「『姫』は悠莉達でしょ。私は可愛くもないし、男よりも強いんだよ」

 関口さんの事を思い出してしまって、思わず顔が強張る。

 そんな私を見て悠莉はそれ以上は何も言わなかった。

「お待たせっ……あれ? どうしたの?」

 藤堂君のクラスから戻って来た亜理紗は、私達の間に流れる微妙な空気を感じたのか首を傾げた。

「何でもないよ。亜理紗、今日は私と帰ろう」

「亜子と? うわぁ! 久しぶりだね!」

 嬉しそうに言う亜理紗に笑いかけながら、私は悠莉と挨拶を交わしてから、亜理紗を連れて学校を後にした。



「久しぶりねー、亜子と一緒に帰るの!」

 亜理紗が嬉しそうに私を見て言った。

「そうねぇ……亜理紗ってば、最近は藤堂君といつも一緒だったもんね?」

 そう言ってからかうと、彼女は顔を真っ赤にした。

「そっ……そんな事ないよ……」

 恥ずかしいのか俯きながら小声で返事をしたけど、その姿が可愛い。

「亜理紗っ、可愛いーっ!」

「もうっ!からかわないでよ、亜子っ」

「あんたが……栗原亜理紗か?」

 背後から声がして、咄嗟に振り向く。

 そこには北高の制服を着た、素行の悪そうな奴らが私達を見ていた。

「……亜子」

 亜理紗が私の腕にしがみついた。

「大丈夫……何なの?あんた達」

 私は亜理紗を庇いながら、彼等に話しかけた。

「彼女が……俺達に付き合ってくれたらいいんだよ」

 彼等の中で一番体格の良い男がそう言いながら私達に近づいてきた。

「残念ね……この子はあんた達に付き合う暇は無いの……行こう、亜理紗」

 亜理紗の手を握ると、急ぎ足でその場を離れようとした。

「そうはいかないんだよ……悪いな」

 次の瞬間、男が亜理紗の腕を掴んだ。

「いやっ!」

「亜理紗っ! 手を……放しなさいよっ」

 私は手にしていた竹刀を彼に向ける。だけど男は平然としていて、亜理紗の腕を掴んだままだ。

「悪いがあいつ・・・に命令されたんでね。彼女は連れて行く」

 そう言って亜理紗を強引に連れて行こうとする。

「亜子っ! 助けてっ」

 亜理紗は私の方へと手を伸ばしている。私は亜理紗の腕を掴む男の手の甲へと竹刀を振り落した。

「……っ! ……てめぇ」

「亜理紗っ、逃げるわよ」

 亜理紗の手を掴み走り出そうとした私の右肩に激痛が走る。その痛みに持っていた竹刀が落ちた。

「なっ! 何……?」

「逃がす訳にはいかないんだよ。悪いな…」

 別の男がパイプを私の肩に振り下ろしたらしい。腕に力が入らない。

「亜子っ! 亜子! 大丈夫?」

 亜理紗は片膝をついてしまった私を心配そうに見ている。大丈夫……じゃない。痛みで顔を顰めるけど何とか返事をする。

「大…丈夫だから……」

「さてと、それじゃお嬢さん、俺達と一緒に行こうか?」

「やっ! 放してっ!」

「亜理紗っ!」

 男が無理やり亜理紗の腕を引っ張りながら、彼女を連れて行こうとする。

 亜理紗は抵抗しているけど、他の男がもう一方の腕も捕えていて逃げる事は出来なさそうだ。

 私は追いかけて行きたいのに、痛みが酷くて思う様に身体が動かない。

「亜子っ!」

 亜理紗が私の名前を呼んでいる。

「くっ……亜理紗っ!」

 連れ去られる亜理紗の後姿を目で追いながら、パイプを振り下ろされた時の肩の痛みに気を失いそうになる。

 駄目……悠莉に連絡するまでは……

 そう思いながら必死に意識を保ちながら携帯を探す。

「西平?」

 聞き覚えのある声に視線を上げると、関口さんが驚いた表情でこちらに走って来た。

「関口さん……」

「一体どうしたんだっ? 肩を怪我したのかっ?」

「関口さん! お願い、あいつらを追ってっ!」

 彼に叫ぶ様に懇願する。

「あいつら?」

「北高の制服を着てた。私の親友が連れ去られたの! お願い、助けてっ」

 関口さんの表情が変わる。私の携帯をバッグから取り出すと私に手渡した。

「これで、連絡を……俺はそいつらを追うから。どこに行った?」

「向こう……」

 私が指差した方向へと走り出した彼を見送り、私は何とか香里の携帯へと電話をかけた。

 数分後……香里と佐野君が走ってこちらへとやって来るのが見えた途端、私は意識を手放した。



 香里達に病院へと連れてこられ、治療が終わった頃---悠莉と藤堂君が慌てた様にやって来た。

「……ごめんね。悠莉、藤堂君。亜理紗を守りきれなかった……」

 2人を見た瞬間、私は頭を下げた。

「何言ってんの……大丈夫なの? 亜子」

 悠莉は私の包帯を巻かれた腕を見て、心配そうに訊ねた。

「うん、油断したのが悪いの。相手に肩をやられたのが敗因」

「肩って大丈夫? 竹刀は持てるの?」

「それは大丈夫、しばらく安静にしてれば何の問題もないって」

 そう答えたのに……悠莉の表情は曇っていて、私は自分が知ってるだけの情報を話し始める。

「そんな顔しないで、悠莉……ところで相手の男達だけど、北高の連中だった」

「北高? って、まさか大戸?」

「悠莉、誰だよ! 大戸って?」

 悠莉が考え込む様に呟くと、藤堂君が悠莉に詰め寄った。

「大戸って……あんたがやりあった奴よ。あのストーカー野郎」

「あいつか!」

 悠莉の言葉に藤堂君はいきなり走り出した。悠莉が慌てて彼を呼び止める。

「ちょっと! 柊、何処へ行くのよ」

「決まってる、あいつを締め上げて亜理紗を取り返す」

「待ちなさいよ。少しは冷静になんなさいって……あいつはずる賢い奴よ。手下を使って亜理紗を攫った。簡単には口は割らないわよ」

「だったら……」

 いつも冷静な藤堂君の取り乱した様子に驚き、何とか落ち着いてもらおうと私は口を開いた。

「あの……大丈夫、関口さんが亜理紗の跡を追ってくれてる」

 皆が私の方を見た。

「誰だ? 関口って……」

 藤堂君が訊ねてきたので、私は関口さんの事を説明した。

「私が中学の時に地区大会で知り合った人で、たまたま通りかかって私を助けてくれたんだけど、お願いして亜理紗の跡を追ってくれてる」

「信用出来る奴なのか?」

 訝しげに問いかける藤堂君。関口さんの事を疑ってるのが分かる……何とか信頼して欲しくて必死に説明した。

「関口さんは優しい人だよ、それに私よりも圧倒的に強いし……もしも亜理紗が危ない目に合えば助けてくれる」

「なら、安心ね。って事で…柊、少しは落ち着きなさいよ」

 説明を終えると、悠莉がそう答えて藤堂君を宥めるが、不機嫌そうな顔で彼女を見ている。

「何でそんな落ち着いてんだよ……亜理紗がひどい目にあったらどうすんだ」

「そんな事にはならないって……それよりも他にやることがあるんだから、あんたも協力しなさいよね」

「一体何を……?」

 ニッコリと微笑んだ悠莉のその表情は、何かを企んでいるのが分かる……はっきり言って怖い。

 さすがに藤堂君も言葉を失っている。

「悠莉? お前、顔が怖いぞ」

 恐る恐る言う彼を睨むと、悠莉は藤堂君を連れて病院を出て行った。

 私は香里と佐野君に付き添われ、病院から自宅へと帰った。

 家に帰るとお母さんは、腕に包帯を巻いている私を見て驚いていたけど、2人が説明をすると何も言わずにいてくれた。

 痛み止めを飲み、横になると睡魔が襲ってきた。

 私は亜理紗の事が気になりながらも、そのまま眠りへ落ちていった。



 夜まで私は目を覚ます事はなかった。

 目を覚まして携帯を見ると、悠莉、亜理紗、香里からメールが入っていた。

 無事に戻ったんだ。良かった。

 メールを読んで安心した私は3人に返信メールを送った。

 夕食を摂り、簡単にお風呂に入ると明日の準備をして再び眠りについた。



「おはよう」

「おはよう……な、何で?」

 朝、登校する為に家を出ると、関口さんが家の前に立っていた。

「心配だったから……大丈夫か?」

「あぁ…はい、しばらくは練習休まないといけないですけど、大丈夫です。昨日は、ありがとう……亜理紗を助けてくれて」

 私は関口さんに頭を下げた。

「別に俺は何もしてないよ。それより……しばらく西平の送り迎えさせてくれないか?」

「は?」

 驚きのあまり彼の顔をじっと見つめる。

「心配だから……また変な奴に絡まれるかもしれないだろ? 西平、怪我してるからバッグも持てないし」

「いえ……あれは、亜理紗を狙ってただけだし、私なんて狙う奴いないから」

 関口さんの言う事に、首を振り否定する。

「西平……私なんて…って…何?」

「だって、私なんて亜理紗に比べたら顔は平凡だし、普通の男よりも強いし、狙うとかないでしょ? あ……もしかして、亜理紗の送り迎えをしたいとか?」

 思い至った考えを口にする。言った途端に胸が痛んだけれど、それは無視する。

「……何で彼女?」

 気のせいか彼の周りの気温が下がった気がしたけど……私は話し続けた。

「ほら……亜理紗って凄い可愛いじゃないですか。だけど、あの子には藤堂君って彼氏がいるから……」

「俺は、亜子ちゃんを送り迎えしたいって言ってるんだけど?」

 再び同じ言葉を繰り返され、私は思わず俯いた。

 期待してしまうけど……駄目。

「昨日、君が怪我してるのを見て、助けられなかった自分が情けなかった。本当はあの時すぐに病院に連れて行きたいって思ってたけど、亜子ちゃんに友達を助けてって頼まれたから、俺は何とか君の望みをきこうと思って彼女を追ったんだ……君の頼みだからだよ? 君の為ならって思ったんだ。本当は離れたくなかったよ。傍に付いて居たかった……」

「関口さん?」

 思ってなかった事を言われて、彼を見ると少し赤くなった顔で私をジッと見ている。

「中学の頃から君の存在は気になってた。でも……それは君が強いからだと思ってたんだ。だけど昨日、怪我をしている君を見て……分かった。俺は…亜子ちゃんが……君が好きなんだって」

 え……今、何て?

 呆気にとられている私を見下ろしながら、関口さんが不安げな表情を浮かべた。

「亜子ちゃん……君は…俺のことどう思ってる? もしも、迷惑だったらはっきり言ってくれ」

「………あの子は?」

「えっ?」

「前に……関口さんが北高の女の子と一緒に歩いてるのを見ました。彼女いるのに、からかわないで……」

 私は涙が溢れてくるのを、唇を噛み締めて堪えた。

「北高の? ちょっと待って! 俺、女の子と一緒に歩いてなんて……」

 そう言うと関口さんは考え込んでしまった。

 私はそんな彼をじっと見つめた。

 彼の告白が本当なら良いのに。

「あっ! もしかして……その子って髪が短かった?」

 関口さんは私を見てそう訊ねた。

「え? あ、確かに髪は短かったと思います」

 彼の真剣な眼差しに、ドキドキしながらも答える。

 すると私の返事を聞いた彼はにっこりと笑った。

「それなら、兄貴の彼女だ」

「お兄さんの彼女?」

「あぁ、兄貴は大学生で、彼女は時々家にも遊びに来るから、それを見たんじゃない?」

 彼はニコニコと答えてるけど、信じて良いのかな?

 黙り込んだ私に、関口さんは不安げな表情を浮かべた。

「亜子ちゃん?」

「………です」

「え?」

「わ、私も関口さんが……す、好きですっ」

 俯いてそう告白する。今、私の顔は真っ赤になってると思う。恥ずかしくて顔を上げられない。

 正面に立っている彼が動くのが分かった……次の瞬間、彼の腕の中に私は包まれていた。

「本当に?」

「はい……中学の時、関口さんに捻挫を気づかれた時から……ううん、それよりももっと前から好きだったと思います」

「あぁ……出来ればぎゅっと抱きしめたいのに……亜子ちゃんの腕の怪我が……」

 そう言いながらも、先程よりも私を自分の身体に引き寄せた。彼の体温や鼓動を感じてドキドキする。

「あ、あの……もう、学校に行かないと……」

 恥かしさのあまり、そう言って誤魔化すと彼の腕から逃れようとそっと離れる。

「そうだな……ねぇ、亜子ちゃん?」

 不意に呼びかけられて、彼を見上げる。

「俺の……俺だけの『姫』になってくれる?」

「っ、だから『姫』じゃありませんって……」

「姫だよ。俺の大事なお姫様だ……この腕の中に閉じ込めて、守っていきたいんだよ」

 彼の表情は優しくて……その中にいつもとは違う甘さを纏った視線を感じた。

「守るって……私、強いのに…」

「でも、俺よりは弱いだろ? 女の子だよ、亜子ちゃんは。ねぇ、守らせて?」

 私の背中に手を回して、守る様に私の身体を抱き寄せる。

「は…い、関口さんが私でいいのなら…」

「俺は亜子ちゃんにしか興味無いから……もう逃げられないよ? いいね?」

 黙って頷く。思ってもいなかった展開にもう言葉が出て来ない。

「逃げませんから……関口さんも逃げないで…」

「逃げる訳ないだろ。こんなに亜子が好きなのに」

「これから……よろしくお願いします」

「こちらこそ」

 私の言葉に彼が嬉しそうに笑った。


竹野内様、今回の企画にお誘い下さってありがとうございました。楽しかったです。


読んで下さった皆さま、最後まで読んでいただき、ありがとうございます 。


また、別のお話でお会い出来たら嬉しいです。


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