第一節 誇らしき出発
「お母さん、行ってきます!」
晴れやかな声とともに、さちは玄関を出た。
白いシャツに濃紺のブレザー、スカートにリボンタイ。新しい制服に身を包み、スクールバッグを背負い、肩には体操服などを入れたセカンドバッグ。姿勢はすっと伸び、その立ち姿には確かな自信があった。
真由美は玄関に立ち、娘の背中を見つめる。
つい先月まで小学生だったはずなのに、こんなにも凛々しく見えるなんて。
「気をつけてね」と言おうとして、声にならなかった。
頼もしさと、少しの寂しさと、大きな喜びが胸に入り混じっていた。
さちは玄関先で自転車の鍵を外し、ヘルメットを被る。セカンドバッグを前カゴに入れ、すっとまたがった。春の朝の風が頬を撫で、ふわりと花の香りが漂う。
舞い散る桜が、彼女の出発を祝うかのように空に舞っていた。
中学校は、これまで通っていた小学校より少し遠い。初めての通学路を、さちは軽やかにペダルを踏んで進んでいく。
街並みも、景色も、どこか新鮮だった。
やがて、見覚えのある鳥居が見えてきた。年始に4人で初詣に訪れた神社だ。そこで、すでに待っていたハル、ユキ、リンと合流する。
「おはよう!」「おはよ、さち!」
制服姿で並んだ4人の姿は、どこか大人びて見えた。小学生の頃の面影は、少しだけ後ろに置いてきたようだった。
「クラス分かれちゃったの、ちょっと残念だったね」ユキがぽつりと言う。
「うん。でもさちとハルは一緒、ワタシもユキと一緒だったカラ、寂しくないデス! I’m not alone!」リンが明るく言った。
「4人同じクラスがよかったな〜。でも、絆はクラスに関係ないし!」
ハルが拳を握って笑う。
さちはふと、入学式の朝を思い出していた。
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4人は昇降口前に集まり、ホワイトボードのクラス分け表をのぞき込んだ。
「お願い、みんな一緒で……!」
祈るように名前をたどると――分かれていた。
「さちとハルが1組、ユキとリンが2組だね……」
「うわ、やっぱ双子は分けられるか〜」ユキが肩をすくめる。
「名前呼ぶときややこしいからじゃない?」とハルが笑って返す。
でも誰も、落ち込んではいなかった。
「チームトレノは永遠だし!」「また一緒にトレーニングできるし!」
そう言い合いながら、それぞれの教室へ向かった。
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現実に戻ると、4人は笑い合いながら再びペダルを踏み出す。
春の朝の空気に包まれて、中学校へ向かう自転車の列が軽やかに並んだ。
学校に着き、それぞれの教室の前まで来ると手を振りあう。
「じゃあ、またあとでね!」
さちは自分の席に座り、机に筆箱とノートを置いて深呼吸する。
座席の後ろにはハルがいて、2人は笑顔で目を合わせた。
ほどなくして担任の先生が入ってきた。
「おはよう。今日の6時間目は在校生との対面式。放課後は部活動見学だ。希望する部活を今のうちに考えておくように。体験入部もあるからな」
さちは、バッグに入れた水着に目をやる。
「さち、水着持ってきた?」
「うん。一応、スイミングスクールのやつ」
「おお、気合入ってるね。私も持ってきたよー」
2人でくすくす笑っているうちに、チャイムが鳴った。
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授業が終わり、対面式の時間。
体育館で各部活動が紹介され、女子水泳部の番になる。
すらりとした先輩が登壇し、落ち着いた声で話す。
「女子水泳部では、経験者も初心者も歓迎しています。興味がある人はぜひ見に来てください」
その姿に、さちは思わず見とれた。
(わたしも、あんなふうになりたい)
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放課後。教室を出たさちは、仲間たちと合流する。
「行こっか、水泳部見学!」
「おうっ!」
4人は市民温水プールへと向かった――。




