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生活魔法しか使えないのに英雄たちに愛されてるんですか? 落ちこぼれ魔道士と救国の五英雄  作者: 風間レイ
二章

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広がる世界   4

 ただエメラインだけは、前からこのことに関してきにしていたようで、落ち着いた様子で口を開いた。


「もうオファレル公爵家にもフェアバーンズ公爵家にも、私たちと年齢が釣り合う男性は残っていない。つまり侯爵家以下の家の男性から婿を選ぶんでしょう? 立場が弱いうえに、周りにはお姉様をがっちりガードする英雄公爵がずらりと揃っているなんて、私だったら嫌だわ」


 エメライン、わかるけど、私も男性の立場だったら嫌だけど、はっきり言わないで。

 おじ様たちもお父様も、そんなことはしないさって言ってよ。

 ちゃんと歓迎して相談にも乗るって言いなさいよ。


「グレンダに言いがかりをつけられていた娘たちを守るため、アンブローズが転移で現れたという話はすでに王宮で有名になっている。一気に娘を溺愛する父親というイメージがついたんだ。それに英雄公爵家の結束を知らない者はいない。婿入りする勇気のある男が、この国にいるとしたら俺ぐらいのもんだぞ」


 悪い噂を否定できてよかったと思っていたのに、それがまた新たな問題を作っているってこと?

 他の貴族たちは、行動のその先の先まで考えて動いているの?

 

 アーチの話を聞いているうちにどうすればいいのかわからなくなってきて、両肘をテーブルについて額を掌で押さえて俯いた状態のまま動けなくなってしまった。

 お行儀が悪いのはわかっているんだけど、顔をあげて誰かと目が合うのが気まずくいし、自分の考えのなさに絶望してしまいそう。


「たいへん……やっぱりアーチにもらってもらうしかないわね」

「お母様!」

「喜んでもらい受けるぞ」

「他にだってアメリアを選ぶ男は必ずいる」


  今まで静かに話を聞いていたから、アーチの話を聞いてまずかったと考えているのかと思ったら、またお父様が不機嫌そうに話しだした。


「アメリア、この男は狡猾だ。こうして自分のペースに引き込んで、おまえを手に入れる気なんだ」

「嘘は全く言っていないんだが?」

「アメリアの相手は私が決める!」

「さっきは娘たちの意思が最優先だと言っていなかったか?」

「うるさい! もう全員帰れ! 話は終わりだ」


 椅子を倒す勢いで立ち上がったお父様は、食事をしないでそのまま部屋を出ていってしまった。

 一気にいろんな話が出たせいで、私たち家族も英雄公爵たちも止める言葉を思いつかないまま、ただぼんやりと見送ってしまっていた。


「もうあの人ったら。ごめんなさいアーチ」


 最初に我に返ったのはお母様だ。

 動揺で声が震えているけど、お父様が退出してしまったこの場では、女主人のお母様が動くしかないものね。


「あの人もあなたの話を聞いて、このままではいけないと気付いてはいるのよ。ただまだ感情がついてこないのね。少しだけ時間をあげてちょうだい」


「ああ、わかってるさ」

「私はあの人と話をしてくるわ。料理はもう出来ているから、あなたたちはゆっくり食べていって。もう料理を運んでちょうだい。私とアンブローズの分は部屋に運んで」 


 お父様が勢い良く開けたままになっていた扉から、遠慮がちに顔を出していた執事が、お母様の指示を聞いている。

 私は……どうしよう。

 考えなくてはいけないことがたくさんあって、食欲がなくなってしまったわ。


「ごめんなさい。私も部屋で食べるわ」

「お姉様」

「一度にいろんな話が出たでしょ。ゆっくり考えたいの」


 心配そうなエメラインに笑顔を向ける。

 今はもうどうすればいいかわからなくて、平気な顔をしているのがつらい。

 ふがいない自分が情けなくて、ひとりでうずくまりたい気分なの。


「なら、我々も……」

「待ちなさい。あなたたちとはいろいろと話さなくてはいけないわ」


 立ち上がろうとしたダンおじ様とコンラッドおじ様は、ローズおば様の冷たい声を聞いておとなしく椅子に座り直した。

 どうやらダンおじ様とタイラー夫妻は、このまま食事をしていくようだ。


「もう料理を作ってしまったから、食べていってちょうだい。ワインも用意してね」


 お母様にまでそう言われたら帰れないわよね。


「お姉様、ちょっと待って」


 そして私も、部屋を出ていったお母様を追うように退出しようと立ち上がったのに、がしっとエメラインに腕を掴まれてしまった。


「何度も女の子は繊細なんだから教え方は丁寧にと話したわよね。褒める時はしっかり褒めなくちゃ駄目でしょう。特に幼少期の大事な時期に、あの子たちにそんな態度を取っていたなんて」


 部屋の奥のほうでローズ様がおじ様たちを叱っている声が聞こえる。

 給仕が食事を運んでいても気にしないのね。


「ここはうるさいから廊下で話しましょう」

「わかったわ」

「アメリア」


 エメラインと一緒に部屋を出ようとしたら、今度はアーチに呼び止められた。


「これだけははっきり言っておく。今までは考える時間を与えていただけだ。俺はおまえを諦める気がないのだから、王太子妃になるか、俺が婿養子になってふたりでコールリッジ公爵家を継ぐか、そのどちらかしか道はない」

「まさか本気で国王陛下は婿入りを許しているの?」

「そう言っているだろう」


 会話をしながら一度も、アーチは私から目を離さなかった。


「コールリッジ公爵家と縁続きになるためというのももちろんあるが、それだけなら俺が臣下に下るのを国王は許さなかっただろう。アメリア、おまえは自分が褒められると相手が誤解していると思うようだが、いい加減に認めろ。おまえにはそれだけの価値があるんだ」

「アーチボルト王太子殿下!」 


 凛としたローズおば様の声が響いた。


「あなたもこちらに来なさい。そんな急に女の子を追い詰めるものではありません」

「急? 今までいくらでも時間があっただろう」

「急に迫り過ぎだと言っているの。一か百しかないんですか。アメリア、もう行っていいわよ。余裕のない男は放っておきなさい」

「はあ!?」

「アーチボルト・バラクロフ王太子殿下、こちらに来てください。さもないとすべて王妃様に報告しますからね」

「うっ……」


 アーチもローズおば様と王妃様には勝てないのね。

 フルネームで呼ばれるってこわいわよ。

 さすがのアーチもたじたじになっている。


「ヒュー、あなたもよ。抜け出そうなんて許しませんよ」

 ローズおば様に言われて気付いた。

 どさくさに紛れて、ヒューは反対側の扉から出て行こうとしていた。


「うへえ」

「おまえだけ逃げるな」


 アーチに捕まえられて、笑いながらじゃれているけど、気のせいかな。表情が暗い気がする。


「ローズおば様も今日はかなりご立腹ね」


 食堂から少し離れた廊下の突き当りまでエメラインが先を歩き、そこで足を止めた。


「あのままにしておくと男性陣は当分食事にありつけなさそうだから、話が終わったら私は食堂に戻るわ。ダンおじ様には私もお説教したいし」


 ダンおじ様はもうユーグと私をくっつけようとはしないわよ。

 私たちなら結婚してもうまくいくって本気で思っていたのと、私が王太子妃になって今までのように会えなくなるのが嫌だったんでしょうけど、ユーグには好きな人がいると知ってまで、自分の考えを押し付ける人ではないわ。


「もっと本気で嫌がっているって態度に示せばよかったのよね」

「喧嘩するぐらいに言い合わなくては納得しないのがおかしいのよ。それで、私が言いたいのは……」

「私はルイスのことはなんとも思っていないわよ」

「思っていたら、ルイスはアーチに国外追放されるわよ!」


 さすがにそんなことはしないんじゃない?

 いくらなんでも大人げないわ。


「そうじゃなくて私が言いたいのは、お姉様は私のことは気にしないで、自分のことを考えてってことよ。王太子妃になるか公爵家を継ぐか。どちらでも私は応援するわ」

「そう言われてもわかったとは言えないわ。ルイスは次男でしょう? 彼と結婚した場合、タイラー家は伯爵位も残っているからそれは継げるでしょうけど、領地のない貴族になるわけじゃない?」

「はっきり言っておくわ」


 エメラインは腕を組んで、つんと顎をあげて横を向いた。


「お姉様が王太子妃になって私が公爵家を継ぐことが決まってから、あの馬鹿が結婚しようと申し込んできたら断るわよ」

「えええ!?」


 ふたりでうちを継いで領地を守る気でいると思ったのに!?


「そんなの身分や財産狙いじゃない」

「違うでしょ。本当は申し込みたくても、エメラインの将来を考えて迷っているんでしょう?」

「お姉様、なんでルイスが私を好きだという前提で話しているの?」

「違うの!?」

「そんな話は出たことがないわ」


 ……ここにも肝心な話をしない人たちがいたわ。

 でもルイスの場合は、自分ではエメラインを幸せにできないのではないかって迷いがあったんでしょう?

 それはエメラインもわかっているはずなのに。


「あなたは? ルイスをどう思っているの?」

「うーーーん。わからない。嫌いじゃないのよ。でも今更ときめかないし、愛しているのかと聞かれると自信がないわ。それに今日も思ったんだけど、やっぱり何でも話せる間柄って大事よ。うちの家族は肝心なことを後回しにして仲良しこよしをやっていたでしょ? ルイスと私も同じだわ」


 それも私の態度がはっきりしないというのが原因で、話をしても今後のことを決められないのが原因だわ。

 彼らだけじゃない。

 きっと第二王子にも迷惑をかけている。

 いい加減に、私は覚悟を決めなくてはいけないのね。


「お姉様はアーチでいいの?」

「相手は王族なの、断れないわ。それに……確かにお父様の相手が務まる男性は、そうはいないのよ」

「そうなのよね。ダンおじ様だってうるさいでしょうし、コンラッドおじ様も気に入らない相手には辛辣だわ」

「アーチなら負けないでしょ?」


 自分でも不思議なんだけど、アーチとの結婚は断れないって自覚したら、なぜか気持ちがすっと軽くなったの。

 たぶんずるい私は、言い訳が出来てほっとしたのかもしれない。


 だって断れないんだから仕方ないじゃない?

 だってお父様や英雄公爵たちとやり合えるのは彼くらいなんだもの、仕方ないじゃない?

 だって他に私を恋愛対象にしてくれる人がいないんだから……悲しくなってきたからやめよう。


 アーチのことは嫌いじゃないのよ。むしろ好ましいとは思っていたの。

 私のよき理解者で、一緒にいて楽しくて、見た目だって格好いい。

 むしろ私なんかが選ばれたら駄目だって思っていた。


 今だってそう思うわよ。

 恋する気持ちをよくわかっていない私が、アーチの気持ちに答えてしまっていいのかって。

 でも断れないんですもの……って考えたら、じゃあアーチとの関係を前向きに少しでも彼にふさわしい女性になるしかないのよね。


「お姉様って自己評価が低いのに、そういうところは前向きなのよね」

「あなたも自分のことを考えなさいよ。私に気兼ねしないで、後悔しないように」


 一番問題なのは、アーチが王太子だってことなのよ。

 アーチが貴族の子息だったら、長男でもそうじゃなくても気にしないで、もっと早く彼の思いに答えていたかもしれない。

 本当は、どうすればみんなが丸く収まるのかはわかっているんだけど、王太子妃になるなんてそう簡単に決断できないわ。


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