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生活魔法しか使えないのに英雄たちに愛されてるんですか? 落ちこぼれ魔道士と救国の五英雄  作者: 風間レイ


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領地での生活  1

 王宮魔道士部隊を穏便に辞職し、放置していた領地経営に本腰を入れるために引っ越してきて、もうすぐ半年が経つ。 

 そして英雄公爵たちや王太子のアーチボルト、更にフェアバーンズ公爵家御令嬢のドリーンまでもが、揃ってやってきたのが三か月前。

七年も変化のなかった田舎の町が、一気に国中の注目を浴びることになった。


当初は大変だったわ。

 この機会に英雄公爵に近付こうという魂胆で、我が家も別邸を建てたいとか、ダンジョン制作に投資したいとか、いろいろと理由をつけて貴族たちがいっせいに連絡を取ってきたのよ。


 コンラッドおじ様とアーチが対処してくれて、貴族たちを追い払ってくれたから、大きな混乱は起きなくて助かったわ。

 領地を豊かにするために戻ってきた私たちが、領民に迷惑をかけたら本末転倒よ。


 お父様と領地を回り、英雄公爵やアーチにも相談した結果、ダンジョン周辺の町以外はあまり大きな変化が起きないように、町民のテンポに合わせて発展させていこうということにした。

 町を運営していた人たちが誠実で優秀だったおかげで、どこか古臭い風景の町ではあっても、治安がいいのどかで豊かな町ではあったから、歴史のある佇まいは残していくことにしたの。


 懐かしさのある風景は、ノスタルジックで都会から来た人にとっては魅力的でしょう?

 ただ、そこで生活する人たちが不便を感じないようにしたいから、必要な箇所には新しい技術を取り入れていくわよ。

 外灯を全て新しくしたおかげで夜の町が明るく華やかになって、人々が喜ぶ様子を見た時の気持ちは忘れられないわ。


 強い魔法が使えるかどうかで優劣を決めていた王宮魔道士たちに言いたい。

 生活魔法だって人々の生活を便利に豊かにする素晴らしい魔法なんですよって。

 ……たぶん、誰もまともに取り合ってくれないでしょうけどね。


 ダンジョンも製作はお父様が中心になって進めているので、私は詳しい状況はわからないけど、順調だと聞いている。

 ダンジョンの近くに町を作る計画は私が進めていて、もう主要な道と建物は出来ているの。

 少しずつ人が集まって、店も増えてきているのよ。


 私が執務に使っているこの建物も町の一角にあるわ。

 屋敷は改築と新しい建物の建設工事のせいで昼間はうるさいし、英雄公爵の屋敷を訪れるって敷居が高いみたいなのよ。

 それにしばらくはダンジョン関連の仕事が多くなるのだから、ここに私がいたほうが便利でしょ?


 会議室や資料室もあって、転移の魔法陣を使えば一瞬で行き来出来るわよって説明したら、最初は魔法陣を使うんですか? って青い顔をされたけど、何度か使ううちに慣れたみたいで、今は離れた場所にある村や町の人達も気軽に顔を出してくれるようになった。

 魔法陣なんて私がいくらでも作れるし、紙とインク代しかかからないのよ? って説明したおかげね。


 紙もインクも魔法陣用に作られた特別なものだけど、それは内緒。

 魔力を込めたインクの存在を説明して遠慮されたら困るわ。


「ここの書類は目を通して、必要な物はサインをしておいたわ」

「ありがとうございます。ひとまず今日の分はこれで片付きました」

「アメリア様がいらしてくださるおかげで、仕事が滞りなく進められて助かります」


 半年も顔を合わせればお互い慣れてきて、行政官や町長たちともだいぶ親しくなったと思う。

 気を使われてはいるけど、それはもうしかたないわ。


「もうすぐ国王陛下のお誕生日ですね。王都に行かれるんですよね?」

「ええ……まあ」

「今年はいつもより予算を多くいただけたので、どの町もきっと盛り上がりますよ。お嬢様も楽しんできてください」


 国王陛下の誕生日の前後は、国中がお祝いムード一色でお祭りのように飾り付けがされる。

 今回は私たちが領地に戻って初めてのイベントだから、各町の広場に会場を作り、料理を格安で提供する準備をしている。


 無料じゃないのは、それで集まったお金にコールリッジ公爵家がお金を足して、各町に何か新しい施設を作ろうと計画しているからだ。

 そうすれば町の人達も、町を豊かにする事業に参加しているって思えるじゃない?


「いやあ、将来の王太子妃様と一緒に仕事ができるなんて、孫に自慢できますよ」


 え?


「エメライン様とルイス様が結婚して公爵家を継いでくださるなら、コールリッジ公爵家はこれからも安泰ですしね」

「あの、どうしてそんな話に?」

「え? 違うんですか?」

「領民はみんな、そう噂していますよ」


 なんで?

 エメラインが町の店舗を視察して、必要な商品を王都の商会から卸してもらえるように交渉する時にルイスが一緒にいたから?


 でも私が役場に顔を出したときも、ルイスが同行したわよね?

 なんで私とは噂にならないで、エメラインと噂になったの?

 ……私の態度が事務的すぎた?


「アメリア、いるか?」


 扉が開いていたから仕方ないけど、半分部屋の中に入って声をかけてからノックをするのは順番が違うでしょ。

 そもそもノックは、扉の廊下側を叩くものなのよ。

 部屋側を叩くのは間違っているわ。


「アーチ、来るときには先に連絡をくれと言ったでしょ?」


 ああ、この男のせいだ。

 王太子のくせにうちの領地に住み着いて、ダンジョン作成現場に毎日のように顔を出して、こうして私のところにふらりとやってくる。

 この男の馴れ馴れしい態度を見たら、誤解されても仕方ないわ。


「じゃあ、すぐにやり取りできる魔道具を用意してくれ。ちょっと会いたいと思ったときでも会えるようにさ。仕事はまだ終わらないのか?」

「ちょうど終わったところです」

「あとは我々だけで大丈夫です」


 アーチが私ではなく部屋の中にいた人たちに聞いたので、行政官たちがいっせいに答えてしまった。

 そのほんわかとした子供を見守るような表情が心に刺さる。

 私とアーチの仲をすっかり誤解してしまっているわ。


「じゃあ行こうか」

「いいえ、私にも予定があるんです。今日はこれからドリーンとご飯を食べる約束があるのよ」


 私が断ると思っていなかったのか、行政官たちはぎょっとした顔をした。

 私が悪いみたいに感じるからやめてほしい。

 前もって約束をしなかったアーチが悪いでしょ?

 私にだってたまには用事があるのよ。


「そうか。屋敷に帰るのか?」

「え? いえ、すぐ近くの店で待ち合わせているわ」

「じゃあそこまで送ろう」


 これは断りにくい。

 わざわざ会いに来て断られて、それでも機嫌を損ねることもなく少しの時間でも一緒にいようと言ってくれているのに、ここで断ったら私のほうが感じの悪い女になってしまう。


「本当にすぐそこなのよ」

「新しく作った店だろう? いいさ、送るよ。話したいこともあるんだ」

「……わかった。じゃあお願いするわ」


 あからさまにほっとした様子の行政官たちに挨拶をして、部屋を出た。

 急ごしらえの建物なので、廊下の壁も天井も全く飾り気がなくて狭いから、いくら王宮にいる時よりはラフな服装でも、威厳と育ちの良さが溢れ出ている王太子のアーチにはあまりにも不釣り合いだ。


 本人はまったく気にしていないみたいだけど、すれ違う人たちはアーチの姿に気付くと、すぐに廊下の脇によって頭を下げて待ってくれちゃうのよ。

 間違ってはいない。そうするべきなんだけど、勝手に約束もなくやってきて仕事の邪魔になっているアーチには、少しは自分の立場を考えて行動してもらいたいわ。


「アメリア様……」


 立派な黒塗りの馬車の周りに近衛騎士団が待機していれば、アーチが来たことは一目瞭然だから、シンディーとグレンは玄関ホールの中で私を待っていた。


「ドリーンと約束している店まで送ってくれるんですって。シンディーは一緒に馬車に乗って……ヒュー?」


 開け放たれたままの扉から、ひょいっとアッシュカラーの髪の少年が顔を覗かせた。

 彼はタイラー公爵家の三男坊だ。


 肩まで伸ばした髪を適当に結わいているものだから、髪がぱらぱらと乱れているのに、それがおしゃれに見えるのよ。美形って得よね。

 コンラッドおじ様とローズおば様の子供の彼が、容姿に恵まれないはずがない。

 好みはあると思うけど、三人兄弟の中で彼が一番美形だって大半の人が言うんじゃないかな?


「……なんだ。アーチがいるのかよ」


 英雄公爵家の男共の中で彼だけが私より年下なので、弟みたいに感じて仲良くしていたし、彼も懐いてくれていた。

 でも、二年前に冒険者になると言って家を出て行ってしまったの。


 手紙のやり取りはしていたけど、十四歳から十六歳って男の子が一番成長する時期じゃない?

 すっかり背が伸びてしまって、再会した時に一瞬誰かわからなかったわ。


「俺がいると何かまずいのか?」


 片眉を器用に上げて、むっとした顔でアーチはヒューに近付いていく。

 ヒューのほうもアーチの不機嫌そうな顔を見てもまったく気にしないで、にやりと好戦的な笑みを浮かべた。


「まずくはないけど、ちょっと邪魔かなあ。アメリアに大事な話があるんだ」

「俺も彼女に話がある。こっちが先約だ」

「こっちは急ぎの重要な話なんだよ。アメリア、ちょっとだけでいいから時間をくれないか?」

「おい、俺が先だと言っただろう。好き勝手やって離れていたくせに、急に帰ってきてでかい顔をすんな」

「あんだと? ずっと一緒にいたって、まったく進展のないやつがしつこいんだよ」

「てめえ……」


 ドリーンと待ち合わせていると言っているのに、彼らは何をやっているのよ。

 こんなところで喧嘩するなんて、子供じゃあるまいしみっともないじゃない。


「じゃあふたりはそこで好きなだけやり合っていてちょうだい。私は約束があるからもう行くわね」


 付き合いきれないので冷ややかに言って、さっさと外に出て行こうとしたら、慌ててふたりが追い抜いて前に回り込んだ。


「待てよ。本当に急ぎの大事な話なんだよ」

「なら、ここで言え」

「こんなところで話せる話じゃないんだ。あの親父共が、あいかわらず勝手なことを言いやがって」


 親父共?

 英雄公爵たちが何かしたの?


「待て。そういう話なら俺も聞くぞ。俺の話もアンブローズが絡んでるんだ」

「へえ、娘を溺愛しているあの大魔道士は、あいかわらずなのか」

「そういうことだ」


 ……お父様があいかわらず?

 いったいなんの話?


「よし、おまえも馬車に乗れ。アメリアはドリーンと食事をする約束があるんだ」

「ドリーン? ああ、フェアバーンズの令嬢か。じゃあ馬車の中で話そうぜ。アメリアもそれでいいか?」


 そこでちゃんと私の意見を聞いてくれるからヒューは好きよ。


「重要な話なら聞かなくちゃいけないわ」


 答えながら外に出て、了承したことをもう後悔した。

 ヒューはいいのよ。冒険者だから、どこにでもひとりで行けるから身軽でしょ?

 でも私とアーチはそうはいかない。

友達とちょっと食事に行くだけなのに、馬車二台に護衛の騎士が十人もいる仰々しい集団になってしまった。


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